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#異世界
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鷹槻れん

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鷹槻れん

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それからの二ヶ月間、僕の生活は文字通り一変した。
大地さん曰く、計画は三段階。
第一段階。眠っている筋肉を、叩き起こす。
「まずはマシンだ。錆びついた関節に、正しい動きを叩き込む。安心しろ。まだ軽めからだ」
その「軽め」は、まったく信用できなかった。
ガンッ! と重りが鳴る。
目の前のレッグプレスの重たい板を、足で押し返す。
ただそれだけのはずなのに、太ももが悲鳴を上げた。
「脚を使え! 人生の重みを押し返せ!」
(人生の重みが、物理的に重すぎる……)
次は、ラットプルダウン。
頭上のバーを引き下ろすたびに、背中が悲鳴を上げる。
「背中が薄い! ゆずを守る背中になれ!」
(守る前に肩甲骨が空中分解しそうだ……)
さらに、チェストプレス。そして、プランク。
地味に見えるのに、腹筋が千切れそうになる拷問だった。
「あと10秒!」
「……あと、じゅうびょお……!」
「声が小さい! 腹から出せ!」
「ふぐぅぅぅうう……っ!!」
大地さんは「今日はただの慣らしだ」と言っていた。なのに、すべてのメニューが終わった頃、僕の脚は完全に生まれたての子鹿と化していた。
そして、翌朝。
「パパ、だっこー!」
リビングに行くと、ゆずが満面の笑みで両手を広げて走ってきた。父親として、断れるはずがない。
「おいで」
そう言って腕を伸ばした瞬間。
「ぐっ……おふっ……!?」
大胸筋と二の腕に、激痛が走った。それでも僕は、なんとか二歳児――12キロを抱き上げる。
「パパ? どうしたの? だいじょうぶ?」
ゆずが不思議そうに首を傾げる。全然大丈夫ではない。
(ごめん。今、パパはメンテナンス中なんだ……)
第二段階。BIG3解禁。
三週目に入った頃、大地さんは悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「そろそろ、本番いくぞ」
「……え? 今までのは本番ではなかったんですか?」
「当たり前だろ。ただの準備運動だ」
(準備運動の定義が壊れている)
バーベルスクワット。デッドリフト。ベンチプレス。ウエイトの重量は一気に跳ね上がり、大地さんは僕のフォームを見ながら容赦なく追い込んでくる。
「あと三回! 上げろ!」
「あ、上がりません……っ……!」
「おい! 娘のために頑張れ!」
(うっ……その引き合いの出し方は卑怯だ……)
白目を剥きながら、涙目でバーベルを上げ続けた。
第三段階。脂肪の最終搾り取り。最後の二週間。
大地さんは、爽やかな笑顔で宣言した。
「仕上げだ。ウエイトのあとに走るぞ」
「筋トレのあとに……走る……?」
耳を疑った。
(正気か……?)
「たった20分だけだ」
大地さんはニヤリと笑う。
結果。言葉を信用しなくて、大正解だった。極限まで筋肉を追い込んだ直後のインターバルランニング。仕上げに、悪魔の有酸素運動、バーピージャンプの連打。ジムの床に、尋常ではない量の汗が落ちていく。
「……はあ、はあ。僕は今、物理的に溶けているんでしょうか……」
「安心しろ。溶けてんのは脂肪だけだ」
「人体って……そんなアイスみたいな仕組みでしたっけ……」
ゲッソリと床に倒れ込む僕を、大地さんは見下ろし、満足げに腕を組んだ。
「だいぶ、いい顔になってきたじゃねえか」
毎日乗る体重計の数字は、確実に、少しずつ下がっていた。ズボンのベルトの穴も、一つ、また一つと奥に変わっていく。閉まらなくなっていたジャケットのボタンが、するりと留まった。
そして、保育参観の一週間前。
風呂上がりにふと鏡を見た僕は、思わず自分の顎に触れた。丸く緩んでいた輪郭が、少しだけシャープさを取り戻している。
「……いける」
筋肉は裏切らない。努力も、たぶん裏切らない。そして、一週間後。
ついに、運命の保育参観当日を迎えた。
コメント
1件
めっちゃ面白かったです!笑いました😂 「人生の重みを押し返せ」からの「物理的に重すぎる」の流れ、大好きです。筋トレあるあるの地獄っぷりと、ゆずちゃんへのパパ愛が絶妙に混ざってて、読んでるこっちまで「頑張れ!」って応援したくなりました。12キロのゆずちゃんを抱っこするシーン、胸がキュンとしました…。保育参観、どうなるんだろう!続きが楽しみです!