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はぁ、はぁ…茜ちゃん、もう家に着いたかな?連絡したら返事返ってくるかも…
僅かな希望に頼るしかない。そう思いスマホを開く。可愛らしい黒猫のアイコンの横に、《Akaりん》と書かれている人物をタップする。
お母さんが知らない、私たち2人だけの秘密基地に隠れながら文字を打っていく。
『あかりん、もう家ついた?わたし家出してるから秘密基地に来て欲しいな』
送信のボタンをタップして数分経つと、返信が来た。
『私のお母さんに聞いてみるね。宿題終わってからじゃないと友達と遊べないから待っててほしい』
と返事が来た。今すぐおいで!と言われると期待していた自分に呆れる。しかしこの秘密基地には、私の家にあるような秘密の通路もないし、今から作っても時間がかかる。どうしよう。
と悩んでいた時に、突然少し遠くの場所から
「莉央〜!どこにいるのぉ〜!?」
と叫んでいるお母さんの声がする。怖くなって、床の代わりに使っていたダンボールをどかしてブルーシートを敷き、その上から先程どかしたダンボールを重ねる。
これが今、自分にできる精一杯の事だった。
持っていたスマホの通知音をオフにして、じっと息を潜める。
「るぃおぉぉぉぉぉ!!!!!」
と叫びながら走る親など、私のお母さん以外にいるだろうか。
しばらくスマホの画面を見つめていると
『宿題終わったよ!今から向かうね!』
という文と、何のキャラか分からないスタンプを送ってきた。返事を打っている内にお母さんの叫び声はどんどん遠くなっていった。
**
「莉央ちゃん、何してるの…?」
「あっ、えっと〜…」
どうやら少し寝てしまったみたいだった。言葉に詰まって何も話さずにいると、茜が話し出した
「莉央のお母さんの事は知ってる。家に少しの間でいいなら泊らせてもらえるかも」
びっくりして目を見開く。
「でも、茜に迷惑を…」
「親友が困ってるのに、助けない奴なんて居ないでしょ?とりあえず来て!」
気づくと茜は私の荷物を持ちながら、私の手を引っ張って歩いていた。
「茜、ほんとごめんね」
「莉央がアザだらけできたんだもの!すっごく驚いた!…そうだ!折角来てくれたしこれあげるよ」
そういって茜は、私に向かって拳を突き出してきました。最初はびっくりしたけど、私が手を出すと、パッと何かが私の手に乗っかりました。
それはとても黒くて、つやつやとした包装の黒飴でした。
「これ…黒飴?」
「お母さんが好きな黒飴なの!食べて欲しいな」
「じゃあ、明日食べるね」
そう言って、もらった黒飴を鞄に入れました。
茜は、にっこりと、いつもと変わらない明るい笑顔で私に笑いかけました。
「ほら、あの白い家だよ」
私がそう言われて指を差した方を見ると、まるで昔の裕福な茜の家とは程遠い、壁の塗装が一部剥がれた家でした。