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あたしはうさっちの腹を上に向けて包丁を振りかざした。
「うさっち見つけた」
ドスッ
遠慮(えんりょ)なくうさっちの腹に刃を突き立てる。それを後ろで見ていた明澄は少し顔を引きつらせていた。
「よくそんなことできるね……」
「ふふん、経験者なもので」
もちろんひとりかくれんぼの時は少しだけためらったよ。でもなにも起きなかったから安心しているのかも。
まあそんなことより……。
「次はうさっちが鬼、次はうさっちが鬼、次はうさっちが鬼。──よし逃げるよ」
あたしは明澄の手を引いて急いでふろ場を出た。
隠れ場所は……前回と同じ押し入れでいいか。
「2階の和室に隠れよう」
「わ、わかった」
よほど怖いのか明澄は率先(そっせん)してずんずん階段を駆け上がっていく。
和室の押し入れに逃げこんだあたしたちは、ふうとひと息ついた。
ふすまを薄く開けて外の様子をうかがう。
スマホが壊れてなければ、うさっちが動いているのを激写できたかもしれないのにな。
今回はしっかり目に焼きつけておこう。
そうワクワクしながら待つこと数分。
「……こないな」
「ねえもういいでしょ……? 早く終わろうよ……!」
「もうちょっとねばらせて」
「うぅ……」
押し入れのすみで明澄は心細そうにひざを抱えた。
あと3分だけ。あと3分たったら終わるよ。
だけど、待っても待ってもいっこうにうさっちは現れなかった。
「……はぁ、終わろうか、明澄」
そう言うと涙目だった明澄はパアッと顔を輝かせた。まるで地獄に舞い降りた天使を見るような目だ。
ここまで怖がるとは、平気なあたしにとってはまったく想像ができなかった。
さすがに良心が痛むのでもう誘うのはやめておこうと心に決める。
明澄に急かされながらふすまを開けて外に出た。
一応辺りを見まわすも、うさっちの姿はなくただ暗闇だけがそこにあった。
少しだけ顔色がよくなってきた明澄と手を繋ぎ、廊下に出る。
──そこで、あたしたちはとんでもない失敗をしていることに気づいた。
「あ、塩水忘れた」
「──っ!?」