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「えー、いいじゃん一緒でー。
せっかく同じ駅だし、同じクラスだし、一緒に行こう?」
「いやだよ!
教室で席だって近いのに、朝から一緒だなんて疲れる……」
「ひどっ……。みどり、それひどい」
傷ついた声をだす北畑くんだけど、私はもうそんなことでは怯まない。
「勝手に決める北畑くんがひどいんじゃん。
それに私、いつもは45分発の電車なの」
「あっ、そうなんだ。
それなら明日からそれに乗るよ。それならいいでしょ?」
「違うっ、だからそういう問題じゃないってば!」
立ち止まって言い合っているからか、それともだんだん声が大きくなってきたから、通りすがりにたくさんの人に見られてしまう。
居心地が悪くなった私は、「もう行くから!」と独り言のように言って、改札をくぐった。
北畑くんは少し遅れて笑いながらついてくる。
行先が同じだと、別れることもできず、ため息まじりに乗った電車は、いつもどおりいっぱいだった。
通路の真ん中でつり革につかまろうとするけど、場所が悪くて手が届かない。
悠々とつり革につかまった北畑くんは、私を見て自分の腕を私のほうに近づけた。
「ほらみどり、俺の腕つかまってたらいいよ」
「い、いいよ。私は……」
「そのままだと危ないよ、ね?」
北畑くんはつり革から手を外し、私の手を取って自分の腕を握らせた。
びっくりして目を丸くした時、電車が大きく揺れた。
体勢をくずしてしまい、私は反射的に北畑くんの腕にしがみつく。
「ほら、なんにも持たないと危ないじゃん」
「ご、ごめ……」
カッターシャツ越しにおもっきりつかんだから、今のは痛かった……気がする。
慌てて手を離そうとするけど、北畑くんが「みどり」と言って私を見た。
どうやらそのまま腕を持っているように……ってことみたいだけど、どうしていいのかわからないまま、私は結局、学校のある駅に着くまで手を離せずじまいだった。
たったふた駅だけど、息苦しいくらいの満員電車+北畑くんに密着?していたせいで、電車から降りる時にはすでに疲れ切っていた。
(お、終わった……)
まだ一日が始まったばかりなのに、電車を降りただけでそう思うなんて、これから学校行って授業を受けるのかと思うと辛すぎる。
「みどり、大丈夫?」
北畑くんは満員電車で疲れたんだと思ったらしく、私の背中に手をあて、そっとさすった。
「だ、大丈夫。
っていうか、本当に明日から別の電車で行こう。お願いします」
「えっ、なんでこの流れでそれ言うんだよー。
みどりツンデレすぎー」
「いやそういう問題じゃなくて、朝からこんな調子じゃ、私の体力が持たないから!」
満員電車は慣れてるけど、それと予測不可能な北畑くんも相手にするのはさすがにしんどい。
「だってあんな満員電車にみどりをひとりで乗せるのかと思うと心配じゃん。
へんなオッサンに触られたらどーすんだよ」
「いや、その時はその時でなんとかするから」
「その時はその時って、そうなってからじゃ遅いだろ?
だからやっぱり一緒に行く」
「もう、だからいいって言ってるでしょー!
だいたい、本当は今日だって行く気はなかったんだから!
でも北畑くんの連絡先知らないから、仕方なく……」
「あっ。そうだ!
俺もみどりの連絡先知りたかったんだ。教えて?」
北畑くんはぱっと顔を明るくしてポケットからスマホを取り出した。
えっ……。
そんなつもりはなかっただけに、「い、いや……」と慌てて遠慮する。
でも北畑くんはすぐスマホをいじって、LINEのQRコードを表示して私に見せた。
「俺の連絡先知らなくて不便だったんだろ? ほら」
ずいっとスマホを近づけられて、私は怯んだ。
ど、どうしよう。
でもたしかにあの時連絡先知ってれば……と思ったのは本当だし、一応北畑くんはクラスメイトだし……。
「ほら、みどりもスマホ出して」
そこまで言われて観念した私は、仕方なくスマホを出した。
北畑くんのスマホに自分のスマホをかざすと、すぐに連絡先が入ってくる。
“大石です”
ささっと指を動かしてLINEを送ると、目の前の北畑くんはぶはっと笑って “知ってるよ” と返事をしてきた。
顔をあげると、楽しそうな北畑くんの笑顔。
「みどりは本当いいよね。なんだろ……反応が面白くて見てて楽しい。
……やっぱり俺と付き合おう?
みどりなら本当に好きになれそうだから」
一瞬固まったけど、私はすぐに眉をひそめた。
(それって……やっぱり私のことが好きじゃないってことじゃん)
初対面で「付き合って」なんておかしいし、もちろん私を本気で好きだなんて思ってなかったけど、なんとなく嫌な気分になる。
北畑くんは相変わらずの微笑みで私を見ていて、北畑くんを睨みかけた時、「おはよー!」とだれかに背中をたたかれた。
見れば同じクラスのあさ美で、ニヒヒと笑っている。
「さっき電車の中でふたりを見たよー。
声はかけられなかったけど、緑が北畑くんの腕にしがみついてるのはバッチリ見た!」
「えっ、うそっ」
「ほんとほんとー!
もういい感じじゃーん、北畑くんが転校してきてから、すっかりふたりはクラスのカップル扱いだけど、本当に付き合うことになったの?」
「ちっ、違うって!!」
最悪!
まさか電車の中で一緒のところを見られてたなんて運が悪い……!
慌てて否定しようとした私を遮って、北畑くんが私の頭をぽんと撫でた。
「残念ながらまだOKはもらえてないんだけど、今もみどりに付き合ってって頼んでたところ。
みーどーり。
あさ美ちゃんもこう言ってるし、もう付き合おーよ?」
「イヤ、無理です」
「うわっ、やっぱ即答なんだ」
「当たり前じゃん、だって……」
北畑くんと言い合っていると、あさ美も中に入ってくる。
「えー、いいじゃん、緑、付き合いなよー。面白そーじゃん」
「面白そうって、それひとごとだからでしょー!」
「そうだけど」と笑うあさ美に脱力してしまう。
だんだんこの状況に疲れて、私はふたりを置いて学校へ歩き出した。
私の後ろを歩きつつ、北畑くんとあさ美がなにかの話で盛り上がっている。
もう……それならふたりが付き合えばいいのに……。
なんで私なの……。
北畑くんの転校初日から付きまとわれているけど、もうそれが当たり前みたいになっていて、理由なんて深く考えてはいなかった。
だけどさっき言われた一言のせいで、だんだんひっかかってくる。
“みどりなら本当に好きになれそうだから”
好きになれそうって……なに?
イキナリ「付き合って」とか言ったのは一目ぼれとかじゃないよね?
で私は正直、いろんな意味で「一般」だ。
見た目も成績もふつうだし、愛想があるわけじゃないし、女子らしいところといえば髪が少し長いくらいで、目立ったところがない。
その点、北畑くんはイケメンと呼ばれる部類の人間だし、明るいし、人懐っこいし、勉強もよくできるほうだった。
そんな人がわざわざ私を選んで、しつこく付き合ってという理由がわからない。
ふいに後ろを振り返り、北畑くんを見る。
あさ美と笑顔で話をしている北畑くんからは、悩みなんてひとつもなさそうだ。
……うん、やっぱり北畑くんは意味がわかんない。
わけがわからない人だと再確認したけど、さっき言われた一言が引っかかって、学校に着いても、モヤモヤは消えることはなかった。