北畑くんに意味深発言をされてから一週間が経った。
あれから私はなんとなく北畑くんを気にしている。
いつもどおり「ねーねー」と後ろの席から声をかけてきても、反応は前とは少し違って―――。
……いや、反応は前もそっけないし、大差ないか。
ただ前みたいに私への興味が尽きるのを願うだけじゃなくて、私は北畑くんの言った、「好きになれそう」の意味を探していた。
授業終わりのHR。
もうじきうちの学校は体育祭があって、今体育委員が種目や当日の分担なんかの説明をしている。
聞いているようでぼんやりしていると、後ろの席から北畑くんの声がした。
「じゃーパネル係、それ、俺やるよ!」
(へー、北畑くんパネル係やるんだ……)
パネル係は主に看板づくりだ。
当日学校で使う看板をつくったり、クラスの看板もつくったりする。
自分から手をあげるなんて積極的だなーと思っていると、背中をつつかれた。
「みどり、一緒にやろうよ」
「……えっ」
「俺と一緒に大石さんもパネル係やるから」
相変わらずの強引さにびっくりしつつも、私は焦って真後ろを向いた。
「ちょ、ちょっと、私いいって言ってない!」
「なら一緒にやろう?
それなら放課後残っても一緒に帰れるし、ね?」
(えっ、そんな、イヤだよ……!)
ムリムリと手を横に振ったけど、近くの男子がどうでもよさげに言った。
「おおー、もうそうしろよ、それなら決めるのはこれで最後だし、HR終わりじゃん。
大石、いいだろ?」
男子がそんなことを言ったせいで、みんなも「そーだねー」とか、「お似合いだからいいじゃんー!」なんて言いだした。
「いやいや、待ってよ、私……!」
「じゃー決まりねー!!」
私の否定もむなしく、黒板には “パネル係、北畑、大石” と書かれてしまう。
「じゃー今日のHRは以上ですー、礼ー!」
日直の声にみんなあっという間に教室を出てしまい、呆然としていた私も、どうにもならなんだとわかり、脱力して机に突っ伏してしまった。
あ、あ、ありえない……。
たしかに私、部活してないから放課後残れるけど、でもさ……。
「ねーねー」
心の中でぶつぶつ言っていると、後ろから北畑くんの「ねーねー」が聞こえた。
無視すると後々ややこしいけど、今は反応する元気も気力もなくてスルーする。
「みどり、怒ってる?」
無言の意思表示をすれば、「ごめんね」と弱ったような声がした。
「だれも手あげなかったし、それならと俺がやろうと思ったんだ。
それで一緒にやるならみどりがいいって思ったんだけど、でもみどりにやろうって言っても絶対「やらない」って言うだろうしさ」
「……そうだよ、いつもなら絶対やらないよ」
机に突っ伏したまま、ボソッと言う。
「だよね、そうだと思った」
北畑くんの声がいくぶんか楽しそうだ。
「でもさ、一緒にやろーよ? きっと楽しーって」
私ははぁと息をつき、後ろを向いた。
「……北畑くんそればっかりだよね。
付き合うと楽しいとか、一緒にやると楽しいとか。
なんなのー?」
「うーん、経験?
俺、女子には好かれてきたほうだから、一緒にいると楽しいっていうのは結構自信あるんだ」
「あっ、そ……」
返事に困る自慢をされて、さらに疲れてくる。
あぁ……今日はもう帰ろう。
とりあえず帰って甘いものでも食べて、リラックスしよう。
そう思って席を立つと、北畑くんも席を経った。
「でもさ、最近はちょっと違うかな。
女子にみどりみたいな反応されるのは初めてで……俺が一緒にいて楽しいんだ。だから一緒にやってほしかったんだ。
無理やり誘ったけど、みどりに一緒にいて楽しいと思ってもらえるように、俺頑張るよ」
そう言って北畑くんは私と目を合わせて笑うと、「行こっか」と廊下へ歩き出した。
私のほうは、北畑くんの背中を見て唖然とする。
え……どういうこと?
なんか今の、「本気です」って言っているようにもとれるんだけど……。
いやいや……まさかね……。
北畑くんのことだ。きっと深い意味はないに違いない。
多少混乱しつつ私も帰路につき、帰りの電車。
結局一緒の電車に乗ってしまった私は、パネル係になった時以上に気分が重くなった。
遠回りして帰ろうか、それとも家が近所だと白状しようか。
現実的に考えて、ずっと隠しているなんてムリだ。
それならもう、いつ言っても同じかな……。
最寄り駅に着き、観念した私は、家のほうへ歩きながら北畑くんに言う。
「……あのさ」
「ん?」
「私の家……なんだけど」
「あっ、そうそう!
みどりの家ってどこなの? 同じ方向だよね」
「実は……北畑くんの家のすごく近くなんだ」
「えっ、マジで!?」
驚いた北畑くんが私のことをのぞき込む。
うっ……近い……。
「は、話す前に! あんまり私に近づいたりしないで。
ここ最寄り駅なんだから、親とか近所の人とかに見られたら絶対イヤなの」
「あっそっか……。ごめん、気をつけるよ」
北畑くんは言ってすぐ身を引いた。
私は呼吸を整え、なるべくなんでもないように言う。
「い、家は、北畑くんの家のななめ前なんだ」
「……えっ。うそっ、マジ!?」
「うん。だから家の近くでは近づかないでほしい」
「ひどっ、近づかないでって、ふつう近所だから仲良くしようねとかじゃないのかよー」
「だって北畑くんはやたら接近してくるんだもん。
ほら、簡単にキスとかしてくるし、そんなところ親に見られたと思うと……」
ちくっと嫌味を言うと、北畑くんは意味を理解したらしく、肩を落とした。
「ごめん。キスをそんなにみどりがイヤがってると思わなかった。これからは気をつけるよ」
「ほんと?」
「うん。本当。
……なんていうか、女子ってキスはすれば喜ぶって思ってたんだ」
「……その認識はかなり偏ってると思うけど。
まぁしないでくれるならいいよ。お願いね」
「うん、でもさ……」
北畑くんはうちの家がある角で足を止め、私は少し先で振り返った。
「なに?」
「みどりにしたキスは、俺のことを好きになってくれたらいいなーって気持ちもあるけど、したくないやつにはしないよ」
「え?」
「俺、ほんとにみどりがいいなって思ってる。
それだけは信じてよ」
コメント
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ぬヘヘヘヘ((((