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#追放
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このころ、リチャードはエリザベス王大后に
ある種の和解を申し込んでいる
王大后は当然のごとく、拒否するのだが、
この王大后に近づいた女性がいた。
マーガレット・ポーフォート
ランカスターの血を引く女。
夫トマスとともに王に仕えながらも、
その目には、別の決意が宿っていた。
「……お辛いでしょう」
静かにそう言った女に、王太后は顔を上げた。
「誰の差し金です?」
声は冷たく、刃のようだった。
女は微笑むでもなく、ただ答えた。
「いいえ、私は“母”として参りました」
その言葉に、わずかに空気が揺れる。
「あなたと同じです」
沈黙。
長い、重い沈黙。
「……何を望むのです」
「望むのではありません」
女は一歩、距離を詰めた。
「取り戻すのです」
「あなたの血を、王座を」
王太后の目が、初めて揺れた。
「方法が、あるのですか」
「ええ――」
女は初めて、はっきりと微笑んだ。
スタンリーから報告を聞いた
リチャードは、わずかに眉を動かした。
「トマスではなく?……女同士か」
それだけ言って、杯を傾ける。
「大事ない」
「女同士の慰め合いだ。放っておけ」
その一言で、話は終わった。
だが――
それは戦場ではなかった。
剣も旗も掲げられない場所で、
血と血を結ぶ陰謀が、
静かに形を成し始めていた。
――その時、誰も知らなかった。
この静かな会話が、王を一人終わらせることを。
そして、もう一つの王を生み出すことを。
バッキンガム公は昼間から酒をあおっていた。
「あら、お邪魔だったかしら」
顔も上げず、男は鼻で笑う。
「……トマスは来ないのか」
「ええ。話があるのは、私です」
ようやく顔を上げる。
濁った目が、女を射抜いた。
「国王の最側近ともあろう方が」
「ずいぶんと、安いお酒を召し上がるのね」
「……ほう」
「思ったより、待遇が良くないのかしら」
杯が止まる。
「言いたいことがあるなら、言え」
女は肩をすくめた。
「いいえ。ただ、不思議に思っただけです」
一歩、近づく。
「あなたほどの方が――」
わずかに間を置いた。
「“まだ何も受け取っていない”なんて」
沈黙。
空気が重く沈む。
「……誰に吹き込まれた」
低い声だった。
だが、その奥にあるのは怒りではない。
確信だった。
女は静かに首を振る。
「誰からでもありません」
「あなたご自身が、一番よくご存じでしょう?」
杯が、ゆっくりと机に置かれる。
「……それで」
男は初めて、真正面から女を見た。
「お前は、何を望む」
女は微笑まない。
ただ、静かに言った。
「望みではありません」
「選択です」
王太后の娘エリザベスと、
ヘンリー・テューダー
その名を記した一通の書状が、机に置かれた。
血と血を結ぶ約束。
王朝をつなぎ替えるための、たった一行の契約だった。
リチャードはそれを一瞥し、指で脇へ押しやる。
興味を示すこともなく。
その時――
「バッキンガム公が、兵を集めております」
報告の声に、彼の目だけが変わった。
鋭く、戦場を見る目に。
カルドは後年、こう語っている。
「あの時、王は敵を見誤った」
「目の前の刃には気づく」
「だが――」
わずかに間を置き、吐き捨てるように言った。
「喉元に巻きついた縄には、気づけなかった」