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#追放
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「よう、いい顔になったじゃねーか」
「まあな」
「どれ、剣を抜いてみろ」
カルドは剣を構えた。
「様になってるな」
「バッキンガムのおっさんが反乱を起こしたって」
「まあな」
「それにしちゃ、ずいぶん余裕だな」
リチャードは薄く笑った。
「奴とはともに戦場を駆けた。大貴族であり、
盟友であり、親戚であり、俺の側近でもある」
「……つらくはないのか」
「どうだろうな」
「もう長いこと戦争をやってるとよ、勝つのも負けるのも、
裏切るのも裏切られるのも、いちいち心じゃ受け止めなくなる」
「みんな、どっかで麻痺してるんだろうさ」
「勝てるのか?」
「カルド。商売で一番大事なもんは何だ?」
「誠実さ……じゃないだろ」
「当たり前だ」
「情報だよ。
それが本物かどうか、見抜く目だ」
リチャードはそこで目を細めた。
「バッキンガムには、それがない」
「申し上げます、ヘンリー様の軍がグラティア港を出港したとのこと」
「来たか」
リチャードは静かに笑った。
「あの女狐……息子をエスカリオへ戻すのに、必死というわけだ」
バッキンガム公は、これを好機と見た。
船で王都を強襲上陸する――
その策に迷いはなかった。
意気揚々と、艦隊は出港した。
――だが。
折も折、空は荒れた。
突如として襲来した嵐が海を裂き、船を散らし、進路を奪った。
ヘンリーの軍は港へ引き返すしかなかった。
そして同じ嵐は――
バッキンガム公の軍を、砂浜へ叩きつけた。
「な……」
顔を上げたその先に、
整然と並ぶ軍勢があった。
すでに布陣を終え、逃げ場を塞ぐように広がる――
リチャードの軍。
「……待っていたのか」
「かかれ!」
号令は短かった。
戦いと呼ぶにはあまりにも一方的だった。
命じられるままに配置されていた、十数名の傭兵。
その中に、カルドもいた。
敵は――崩れた。
戦うことすらせず、我先にと逃げ出していく。
「……ほんとに、強いんだな」
カルドは呟いた。
剣を握る手が、わずかに震えていた。
「に、逃げるぞ!」
「誰か、替えの衣装を持っておらぬか!」
「この服では、すぐ見つかる!」
バッキンガム公は、泥にまみれながら叫ぶ。
その威厳は、もはや影もなかった。
変装し、逃げ延びようとした――その瞬間。
「いたぞ」
あっさりと、捕らえられた。
大貴族にして最側近――
バッキンガム公の裏切りは、宮廷に大きな衝撃を与えた。
だが、その動揺は長くは続かなかった。
捕縛、そして――即日処刑。
その報せが届いたとき、
貴族たちは、言葉を失った。
衝撃は、恐怖へと変わった。
(逆らえば、こうなる)
誰もが理解した。
事態を重く見た軍の指揮官、
トマス・ボーフォート は、急ぎ王のもとへ赴いた。
「陛下」
深く頭を垂れる。
「妻がバッキンガム公と接触していたことは、事実にございます。
ですが――そこに謀議はございません」
一拍、間を置く。
「息子の件につきましても……私は、何も知らされておりませんでした」
沈黙。
広間に、誰一人として声を立てる者はいない。
ただ一人――
リチャード だけが、動かなかった。
椅子に深く腰をかけたまま、
興味を失ったように、
トマスを見ていた。
まるで――
値踏みするように。
カルドは
なぜエドワード兄弟が塔からいなくなってしまったのかを
考えていた。
なんで
そのせいでリチャードがとてつもない
悪党だという噂がひろまったままだ
正しい政治を行っているのに
「なぜ?何のために?」
リチャードの言葉を思い出す
「俺は王位継承者なんだよ」
あの後なんか言ってたな
なんだっけ
「現在の王位継承者は俺、あとは、バッキンガム、
ほかは女じゃなかったかな」
(ほかは女?)
バッキンガムは死んだ
エリザベス?
最近結婚した
ヘンリー・テューダーはランカスター家の血を引いている
エリザベスが子供を産めば
ヨーク家とランカスター家の子供?
出会った頃のリチャードがわらう
「港から出ていない俺がこの港で一番
儲けている」
港から出ていない
リチャードが死ねば
あとは女だけ
女だけ
犯人を見つけた
ヘンリー・テューダー
……違う)
(見つけたんじゃない)
(気づいてしまったんだ)
もし、これが本当なら――
リチャードは悪党なんかじゃない。
“嵌められた王”だ。
そして、
そのために王子たちは――
消された。
生きてたら困るからだ
だとすると
リチャードの近くに
内通者がいる
知らせなきゃ
手紙じゃだめだ
行かなくちゃ
「申し上げます、ヘンリー・テューダーが軍を率いて
再度、グラティア港を出港いたしました」
「兵五千」
「今度は許さぬ、貴族に動員をかけ、迎え撃つ」
リチャードが戦支度をしていると
「これを?」
「檄文?」
「かなりの数が諸侯に届いておるようです」
内容はリチャードの悪政の数々と
処刑、粛清などの罪状がのべられていた
塔の幼き王子2人の命を奪ったことなどの非道
リチャードの視線が、わずかに揺れた。
側近でも用済みになれば切り殺す悪逆
が述べられ
正統な王位継承者である私が成敗すると
書かれていた
「ヘンリーは王位継承者などではない!」
吐き捨てるように言った、その瞬間だった。
リチャードの言葉が、ふと止まる。
「王位継承者など……」
静かに、繰り返す。
「……もう、どこにもいない」
部屋の空気が、凍りついた。
誰も、声を出せない。
リチャードだけが、わずかに笑った。
「消したのは……俺だ」