テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#怪異
イキリ火の玉
946
奥原も断れないと悟ったのか案内に同意した。奥原を先頭に親分とミサが続き、梶とその手下のチンピラ三人、それに努も梶の隣で一緒に歩いた。
村人は五人だけがついてきたが五人とも中年男性で力が強そうなメンバーだ。
奥原はあの拷問部屋のある屋敷の前で立ち止まる。振り返って何か言おうとしたが言葉が浮かばないのか結局無言のまま扉を開いた。
ミサと親分が恐る恐る中に入る。続いて梶と努も中に入った。
「わぁぁぁぁ」
ミサは感嘆の声をあげる。親分は眉をしかめ梶は無表情。そして努は逃げ出したい衝動に駆られていた。
昨夜入った時は部屋に誰もいなかった。しかし、今は中央の椅子に一人の人物が座らされている。全裸の老婆だ。
髪は白くボサボサで一糸纏わぬ体はガリガリにやせ細っていた。そして、その体中に生々しい傷があった。
老婆は古い木の椅子に革紐で手足を縛られていて、顔には変な器具が着けられていた。針金と3センチほどの錆びたクギで作られたその器具は、ちょうど目の前にクギの先端がくるようになっている。
目を開ければ常に眼前にクギの先端が見える状況は、その器具が粗末なぶん想像するだけで背筋が寒くなった。
だが、なにより努を嫌な気分にしたのは全身の傷だ。腕の皮は剥がされ脚は所々抉られている。胸や腹には焼けただれた跡があった。
どれも死なない程度の、しかし耐え難い傷だ。
「たふけてぇ……おねはいしふすぅ……」
歯のない口から漏れる声も哀れみを誘う。年上、それも老人が尊厳を奪われて拘束されている姿は若者がそうされているより哀れだ。
子供の頃に祖父の葬式で母親が泣いている姿を見たときの心寂しさを思い出した。それは自分の庇護者の弱い姿だったからだろう。
この老人も同じ。経験を重ねた人間が動物以下の扱いを受けている姿に胸が苦しくなった。
「おいおいおいおい、なにやってんだこれは?」
親分は戸口にいる奥原に訊いた。
「この村にはこの村の都合があるんじゃ……理由はあとで説明しよう」
「ふーん、ミサ、もういいだろ? こんな臭いところ早く出ようぜ」
「ちょっと待って、写真だけ」
ミサはスマホを取りだして何枚か老婆の写真を撮った。老婆は小さい声で「たふけて」と繰り返すだけで誰が来ているのかは理解していない様子だった。
「で?」
集会所に戻って元いた場所に座ると親分はさっそく奥原に問いかけた。
村人はほとんど解散しており今は八人だけ残っている。ちゃんとした格好の村人だ。その中には中学生くらいの若者二人もいた。
「あれは……生け贄じゃ……」
もはや笑顔を繕わない奥原は絞り出すように言った。
「生け贄? 生け贄って神様に捧げるとかいう?」
ミサが訊いた。親分は興味なさそうにタバコをふかしている。
「そこの二人には説明したが、この村が外から隔離されているのは知っておるかのう?」
「ええ、車でトンネルを抜けようとしたけど無理だったわ」
「外に出られないのは森に住むアオ様……妖怪の仕業なのじゃが、その妖怪が村に入ってきて皆殺しされないために、ああして生け贄を捧げる儀式をしているんじゃ」
「儀式? 儀式なの? へぇぇぇ」
ミサは妖怪という言葉には興味が無いようで拷問のことだけを聞きたがっていた。
「あの目の器具はなに?」
「恐怖を与えるものじゃ。生け贄の血が食料なら恐怖は調味料なのじゃ。そうして一人の犠牲で満足してもらう。仕方ないことなのじゃ……」
奥原は声を落としてうつむいていたがどこかウソ臭く感じた。
「夕方に生け贄の儀式がある。興味があるならそれに参加するがいい」
「へえええ、ねえチャーさん、いいよね?」
「好きにしろ」
親分はぶっきらぼうに答えた。
「あんたらはこの集会所を使ってくれていい。なにかあればワシのところに来てくれ。村の入り口から一番近い家じゃ」
そうしてトイレや飲み水の説明をしたあと奥原は自分の家に戻っていった。他の村人もそれぞれの家に戻っていく。どうあれ村人にはこの村での生活があり薪を割ったり畑を耕したりが必要なのだろう。
外車はトンネルの前に残しミニバンは拷問屋敷のある広場の端に止めた。ちぃこや安田も呼んで全員が集会所の中にいた。
村人から提供されたお茶や薄い餅らしき食べ物を朝食替わりに口にする。気になって注意して見ているとやはり梶は何も手に取らなかった。
「おう、梶よ。結局どうなってんだ?」
親分はミサに膝枕されながら、うんざりした顔で訊いた。
「現状わかっていることは、この村は森に住む妖怪によって外に出られなくなっている。ああ、もちろんその妖怪はなにかの比喩かもしれませんが。それと、その妖怪から村を守るために生け贄を捧げているということですね」
生け贄という言葉でミサはまた目を輝かせていた。
「それで、どうすんだ?」
「そうですね……とりあえず村を調べてみます。この村の人間は信用が出来ませんので、あまり接触しないほうがいいですね」
梶はやんわりと親分にクギを刺していたが、たぶん理解していないだろうなと努は思った。
「木村、お前らはオヤジさんを護衛しろ。長岡、お前は俺と来い」
「は、はい」
みんなを残して努と梶は集会所を出た。時間はそろそろお昼になる。空は晴れているが都会より肌寒い。本来のどかなはずの田舎の風景もどこか寒々しい。
「まずはあそこに行くぞ」
梶が指差したのは小高い場所にあるお堂だった。
コメント
1件
まってまってまって!この村やばすぎる😭💦 拷問部屋の老婆の描写が生々しくて読んでてこっちまで息苦しくなった…「たふけて」って声、脳裏に焼きついたよ…。ミサが平気で写真撮ってるとこもキャラ立っててゾクっとした。生け贄の儀式って言うけど奥原さんの説明、なんかウソくさいよね…?梶さんはやっぱり冷静だし、努くんの心情にすごく共感しながら読んだ!次どうなるのか気になりすぎる、お堂に何があるんだろう…!!🔥