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遥希はボクを見据えて、聞いてくる。
「そうだけど?」
ボクは答える。
そう聞いてきたのは、九月の四日。
暑いが、だんだん寒くなってくる時期だ。
長袖の人も増えてきた。
九月はボクの誕生日でもある。
遥希はワナワナと震えていた。
「どうして?」
「…親の仕事の都合。」
そう、ボクの親は外国に出張することになった。
結構長い間だ。
しかも、父も母もだ。
場所はウクライナ。
「それなら…僕の家に住もうよ!親に許可をもらうからさ!」
「遥希…」
そこまでボクと一緒がいいのだろうか。
「この話はここまで!次、理科だから急がないと。」
ボクは遥希にそう言い残して、自分のロッカーに向かい、教科書を取りに行った。
.....................
「今日で、黒紀くんはこの学校から転校してしまいます。みんなでしっかり見送りましょう。」
先生はボクを前に連れ出して言った。
あまり転校することに、嫌気を感じなかった。
そこまで親しい友達がいた訳でもない。
だが、遥希は違う。
幼馴染であり、親友だ。
ボクも遥希とは離れたくない。
だけど、仕方のないことだ。
親の仕事の都合なのだから。
「黒紀くん、みんなにお別れの挨拶を。」
「…」
ボクは黙り込んだ。
みんなにお別れの挨拶?
なんて言えばいいんだろう。
人前は恥ずかしくて、喋れそうにもない。
慣れている人なら、とても話せるのだが。
「……ボクはこの学校を離れるのが、悲しいですが、みんなのことは一生忘れません!」
言えた。
でも、よくあるセリフだ。
“一生” うん。忘れるな。
遥希以外は。
.....................
校門前に白い車が、止まっている。
ボクの乗る車だ。
クラスのみんなは教室から見送ってくれた。
今は多分、休み時間だろう。
ここまでは誰も来ない。
遥希にはさっき「お別れの挨拶」というものを言った。
車に乗り込む。
ドアを開けた瞬間、花の香りが漂う。
ボクの好きな匂いだ。
なんだっけ、沈丁花だったっけ。
まあいいや。
この街も、風景もお別れか。
これからは、ボクの知らない所で過ごす。
しかも、言語も違う。
「…いいよ、行こう。お父さん、お母さっ…」
そう言いかけた時、誰かが走ってきた。
窓をよく見る。
走って来たのは、遥希だった。
窓を開ける。
「ハァ…ハァ…黒紀に…これだけ…あげたくて…」
なんだろう。
差し出しのは、小さい小包だった。
「なぁに。これ」
ボクは問う。
「…開けてからのお楽しみだよ。」
遥希は言った。
「分かった。ありがとう。」
そうすると、急に車が走り出した。
「えっ…喋ってたじゃん!お父さん!お母さん!」
「ごめんな、黒紀。急がないと飛行機が間に合わないんだ。」
そうか。
ボクは窓から顔を出し、遠ざかる遥希に叫んだ。
「バイバイ!また会おうね!」
遥希の姿は見えなくなった。
だけど、遥希の「バイバイ!」という、声はここまで届いた気がした。
.....................
飛行機の中。
たくさんの人が乗っている。
ボクは気になっていた、小包を開けてみることにした。
車の中でもよかったのだが、空港が近すぎて母親に、
「開けるのは飛行機の中でしなさい。」
と言われたからだ。
そっと、袋を開ける。
小瓶のようだ。
小包から、その小瓶を取り出す。
小瓶には、そう書かれたシールが貼られていた。
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「いや、今さウクライナとロシアが戦争やってんじゃん。それに巻き込まれない為に、日本に帰ってきたって訳。」
黒紀くんは淡々と語りだす。
確かに戦争に巻き込まれるなんて、ごめんだ。
「…そうだったのか…」
遥希くんは、落ち着いた様に言った。
「なんかごめんな。…前みたいにさ仲良くしようよ。」
遥希くんは、表情を変えニッコリ笑う。
うう、笑顔が眩しい。
「ううん。大丈夫だよ遥希。ボクもまた会えて嬉しかったよ。」
黒紀くんもニッコリ笑う。
とても可愛い笑顔だ。
「それと…白華ちゃん!仲良くしようね。」
「…エッ!?あ、うん!」
急に話しかけられて、反応ができなかった。
でも、よかった。
転校生と仲良くできた。
それと、遥希くんの情報を掴み出せることができるようになった。
「白華ちゃん、よろしくね。コイツ、ホントうるさいからさ。」
遥希くんが、笑いながら話しかける。
「全然!大丈夫!」
私もニッコリ笑い返した。
「あ、あの白華ちゃん。放課後ちょっと、時間あるかな?」
「え?あるけど?」
「ふふ、よかった!」
一体、何のお話があると言うのだろう。
「次、現代語だよ〜準備しないと。」
遥希くんがそう言った。
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「何のお話?」
私は、黒紀くんに呼び出されて誰も居ない、体育館倉庫に来た。
「…声は漏れないかな…」
せっせと、黒紀くんは倉庫の窓を閉める。
「よし、準備OK」
すると、私のところに近寄って来た。
歩き方も可愛いとか、ホントに男子かよ。
いや、女子でもあまりいないな。
「ええとね…」
黒紀くんは、私の耳元に口を寄せた。
何を聞かされるのだろう。