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「まず様子を見たい、月読ノ魔道士は私に『月の光【護】』をかけてくれる?」
「は、はい!」
「俺は何を……」
「相手の視界を一瞬でもいいから塞いで欲しい。」
「なら、顔面目掛けてファイアします!」
「それでお願いね」
『紅姫』と真っ向から立ち向かうはルナベルただ一人。そこに月読ノ魔道士の魔法による身体能力の強化と、援護射撃を放つ赤魔道士。そして、『紅姫』の動きを一瞬でも止めるマリンの罠魔法。 総力を結集させ立ち向かう。
基本の動きはワンベアと変わりは無い。異名と言えど種族は変えることは出来ない。だが、その一つ一つの動きに『紅姫』の個性が溢れ出る。
まず一つはルナベルが話した通り、通常個体と比べて細い爪。細く長いその爪はワンベアの弱点の一つ攻撃範囲の短さを僅かながらカバーしている。その少しが人間側からすれば圧倒的な脅威であり、立ち回りを少し変えていかなければならない。
また、爪以外の特徴と言えばボロボロではあるがその腕部の甲殻。【肥大化】によってサイズを操り、攻撃にも防御にも使える。だからここまで傷ついているのだろう。どれ程の知恵がついてるか分からないが、かなり賢い場合だとこの【肥大化】を上手く使われると苦戦する事は間違いないだろう。
「ダメージ覚悟でまずはアンタの一撃を受けてやる!!」
自身にバフが掛けられている状態で紅姫と真っ向から立ち向かう。まず、盾を構え紅姫の剛腕を受け止める。
(うぐっ!?体長はせいぜい二メートルと少し程度だが、この剛腕の威力はその質量以上の何かを感じる……。)
「ルナベルさん!?」
「気にしないで。ただの様子見だから…」
(なんて強がり言ったけど、この紅姫…。恐らく【肥大化】の他にシンプルな物理強化系統のスキルを保持してる可能性があるわ。)
「再度顔面にファイアをぶつけて…!」
「いや、今回は地面にファイアを撃って」
「じ、地面に?」
「理由は考えなくていいから、今は私の指示に従って」
「わ、分かったぜ!」
その指示に従いファイアを地面に向けて放つ、この時独断ではあるが少し威力を高めて放った。その結果、地面が少しえぐれて土埃が舞い紅姫の視界を奪う。
「言わなくても威力高めるのは分かったみたいね」
「お気に召したなら何よりです」
(視界を奪った状態での行動はどう出るのかな?理想としては慌てふためいて欲しいが…)
ルナベルの願い虚しく、紅姫は冷静に狙われやすい顔を【肥大化】できっちり守り、顔はおろか胸元付近からしっかり守っていた。
(ちっ…嫌に賢い奴だな。こういう相手はかなり面倒くさい。それに、私単騎で何とかできるかと言われればできなくは無い。が、それはほかの被害に目を瞑ればの話。)
「攻撃の手をやめて!恐らくこれ以上は無駄に魔力や体力を消費するだけ。」
「なら次はどうするんだ?ひたすら防衛に回るのか?」
「あんまり認めたくないけど、この娘だいぶ賢い子みたい。だから、やりたくないけど私が命懸けで囮を引き受けるわ。」
「けど、こっちは火力はそこまで出ないぞ?マリンちゃんの罠魔法なるものでも限度があるだろうし…」
「もちろんただのデコイになるつもりは無い。久しぶりに私も【スキル】なるものを使ってあげる。
が、これはかなりリスクがあってね。だから基本使いたくないけど、異名相手にはそんなことも言ってられない、か」
「ルナベルさんは一体なにを?」
「私も分かんない。でも、おねーちゃんから初めての雰囲気?がする」
上からある程度見えてる俺にはルナベルがやろうとしてることは分かる。恐らく彼女がやろうとしてるのは【狂化】だ。
このスキルは血気騎士団に所属してる者みなが覚える最初のスキルにして最悪のスキル。下手すれば全然死ぬことがあるスキルだ。比喩でもなんでもなく、な。
【狂化】は名の通り”狂い化ける”というもので、使用者の本能までも開花させて120パーセントの力を引き出すもの。限界を超えた力を得るが、己の肉体がそれに耐えきれず長く使用すれば負荷の多い箇所から血も吹き出すだろう。 要はキャパオーバーってところだ。
このスキルを使用するにあたって、所有者の肉体レベルによって制限時間が異なる。どういうことかというと、例えばひょろひょろの奴が狂化を使ったとしても耐えられるのはせいぜい1分くらい。それを超えればオーバーフローで肉体が傷つき出す。
それに対して、筋骨隆々の奴が使った場合はどうか?察してると思うが、もちろん効果時間は伸びて3分とか耐えられるだろう。
だから所有者の肉体レベルの出来によってスキルの真価を発揮するという不思議で危険なスキルでギャンブラーはこぞってこのスキルを会得したくなるらしい。まぁ、ワンチャンを掴めると言えばそうだが、諸刃の剣過ぎて俺は使わない…てか、使えない。
で、話しはずれたけど本題はここから。ルナベルがわざわざ【狂化】を使うということはそれほどの相手ということ。それと同時に、このスキルを使わざるを得ないということはそれだけ俺らは戦力にはなってないという事実が残ってしまう。
それほどまでに異名は手強いという事だろう。が、俺はそれだけが理由では無いと思う。ウルルフの時もそうだが彼女は自ら進んで危険な役目を担う。もちろん役職である騎士とはそういうタンク的な役回りではあるが、ただの囮なら俺にだってできる。なんなら、フックショットもある程度扱える俺は回避能力も高く囮役にピッタリだろう。にもかかわらず彼女は自ら囮を引き受けている。
何故だかは分からないが自己犠牲の精神がとても強いようで、それが一つの理由なのか戦いになると語気が強くなり作戦の中に自分の身は二の次みたいな指示はよく聞いた。
今回もそうだ。紅姫という明らかな強敵が現れ、そいつと相対することが可能なのは自身しかいないと判断し、自分が敗れれば他のみんなはやられてしまう。そういう判断を彼女の中で下したのだろう。
いつか言おうと思っていた事をこんな危機的状況では言いたくは無いが、多分これを言わないとルナベルはこの先もずっと一人で戦うことになる。仮にも俺のパーティに属してるのなら、俺の指示も聞いてもらわないと困る。然るべき時が来たらこの戦の場で伝えてやろう。