あ….居た。
あの日から僕は彼女を探すようになった。
….
んっ…あのさ、ストーカーなんてものはしてないよ。ただ、どこに居るのだろうと探してしまうんだ。昼休みの時間が始まり、彼女はいつも通り、お弁当を片手に屋上へ向かうらしい。僕は友人にいつもの一言を伝え、後をさりげなく追う。
彼女には友達がいるのだろうか。いないのだろうか。少し不思議であった。他愛もない会話を複数人と楽しげにしていたじゃないか。彼女を嫌う人など僕が知る限り誰もいないように思う。しかし、どうして昼食を1人でとるのだろう?女子はよく決まったメンバーでつるむものではないのか?まあ…女子のことはよく分からない。考えても仕方がないか……いや…それとも僕が知らないだけで彼女は馴染めていないのか?もしかするとそこに彼女の悩みの種が…
「ねぇ」
唐突に声をかけられた
「あっ…」
「いつから私を尾行するようになった。あの日がきっかけか?」
「えっ…うん…あのさ、僕さ…」
始めて声をかけられた。認知されてたんだ。まあ、認知はしてるよな…今までこちらから声をかけても上手くすり抜けられて結局僕は見えていない人のような扱いをされていた。だから少し空虚を突かれたようで驚いたんだ。
「あのさ、きっと僕と君はどこか似てると思うんだ…」
すると彼女は呆れた風にこちらを見た
「うん?いきなりどうした。攻めた台詞だなあ…一体私の何に対して共感した?」
独り言のように彼女は話す。人気のない階段ではお互いの声が静かに響いた。僕自身もどうしてこんな台詞が出たのかよく分からなかった…。
しばらく歩くと彼女はノブを回し始め、重そうに扉を押し開けた。開いた扉を背中で抑え、僕がそこまでくるのを待っているようだ。僕は始めての彼女の行動に驚きと期待感であろう胸の高まりを抱き、小走りで彼女のもとへと足を進めた。
扉の向こうから徐々にみえる青空の景色と横風に吹かれる君の姿がとても綺麗で…..。っ危ないじっと見ていることに気づかれてしまう。動揺していることがばれないように視線をゆっくりとずらす。
一歩一歩階段を踏みしめ、甘い香りがさり気なく漂ってくれないか、ちらちらと横目で見ながら、徐々に彼女との身体的距離が…いつの間にか、こんなにも近くまできていた。僕は右手を出し、鉄の冷たさを手の平に感じさせる。扉が閉まらないように強く抑えたのだ。彼女を先に向こうへ行かせようと…がしかし、それが思わず壁ドンのような形になってしまった!余りにフォームが綺麗なもんで、かっこつけてるかのような自分に動揺してドキリとしてしまった。何故か腕の中に収まってしまった彼女はぴくりとも動かない…!こちらが勝手にじれったくなってしまう…
「あの…先に行っ」
「早く行けよ。気持ち悪い。」
「…はい…」
僕は少し複雑な感情になった。
「お弁当美味しそうだね。自分で作ったの?お母さんが作ってくれたの?」
色のあるおかずは勿論、美味しそうだと思ったが、特に白米の上にある、にこにことした海苔の飾りに思わず萌えた。
「私の妹だよ。」
そうか!妹がいるのか。妹さん料理好きということかな。微笑ましいな、仲いいんだ。因みに僕のは自分で作った弁当だ。このことを話すと、皆は凄いと称賛してくれる。もし僕が彼女に弁当を作ったなら彼女はそれを食してくれるのだろうか…。
「ストーカーしないでくれるかな。関わらないで欲しい。私に」
なるほど彼女は僕にその言葉を伝えかったのだな。そのために僕とこうして面と向かって昼食をとることを許可してくれた訳だ。僕は自作のケチャップのかかったハンバーグを飲み込みんだ。….まあ、タイミングは悪いが…伝えよう。
これは僕の正式な告白だ。ストーカーじゃなくて(僕はストーカーなんてしていない!)彼氏として合法的に側に居たい。
「僕は君のことが好きです。」
「私はあなたが嫌いです。」
「知ってます。」
なんたる返答の速さだ
「私の視覚に入るなと言っているんだ。」
そんなにも僕は嫌われているのかっ!と思わず突っ込みを入れたくなるがもちろん承知の上だった。
「嫌ってくれていい…でも僕は何故か君に凄く何かを感じるんだ…僕は君に勝手に死んで欲しくない。」
こいつしつこいなぁと思わず私はため息をつく。散々奴の目を盗み逃げ惑っては、どうしてか常に視界に入ってくるんだよ…!プリントを配る時も、掃除の時も、あまつさえ一人時間である昼食の時も、距離はあれどいつもそこにいる!…周りの奴らもこいつの異常さに気づけよ。鈍感が。くそっ!いらいらする…。私は自分の感情に呑まれる中、ふと思う。もしやこいつ気づいていないな。自分が気持ち悪いストーカー野郎だってことに!熱くなった頭を手の平にもたれさせ、じとりと奴を睨む。
「はぁ…私はお前の所為で死ぬことになるかもな。」
「?」
おいおい。まさかハテナマークなんて浮かべていないだろうな。
「お前の所為でっ!オマエストレス!」
箸で僕を力強く指差す
「心配なんだ!君のこと。屋上に行くことだって、もしかしたら飛び降りるんじゃないかと…」
僕は思わず感情的に話してしまった。そんなにも彼女の存在がふらりと消えてしまうのが不安なのだろうか。…まあ、人の生死を気遣うのは当たり前か。
「こんなにも細かい格子を登れる訳がないだろう。そしてそれなりに高いから無理だ。」
彼女は箸を軽く噛み、イライラしているらしい。うーんと何かを考えているのか、軽く唸った後、彼女はしばらくしてぽつりと呟く。
「…..君に良いことを教えてやるよ。君の私に抱いた性愛について..」
僕はどきどきしていた。
私は彼の後をつけてみた。
彼は成績優秀、身長は高く、性格は優しく、友達は男友達がそれなりにいて女友達はいないと思う…そして何より彼は授業が始まる時に眼鏡をかけるのがポイントなんだよね。これは青春だ。これが青春か…!形のない将来に期待を膨らませる。私はここまで好きになった人は初めてかもしれない…勉強も彼の成績に並びたく思い、頑張れている。おかげでトップ10に入ることができた…
目標は…彼に勉強を教えてもらうこと….!
….
….
一瞬脳裏で気の所為だということにしようと声がした。私は階段で、女子の後を追っている彼を見つけてしまったのだ。私は壁に身体を寄せ、できる限りそれ以上距離を縮めることなく事実を再確認する。
ええっ!えっ…あぁ…情けなく小さな声が漏れる。女子の声は上手く聞き取れないが彼の声は聞こえた。…聞こえた…思わず階段の途中でしゃがみこんでしまう。どうして心がこんなにも重くなるのか….
こんなにも誰かに慰めて欲しい共感して欲しいと思ったのは初めてかもしれない…そうゆう関係だったんだ…と。
その時涙は出なかったが、後からじわじわやってきて…
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