テラーノベル
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部屋は静かだった。
結び屋に来て初めての夜。
ゆきはベッドに寝転びながら天井を見ていた。
知らない場所。
知らない人たち。
今日は色々ありすぎた。
りいさん。
ひゃっきー。
臨時。
あっくん。
そして翼。
目を閉じる。
すると。
思い出したくもない声が浮かんだ。
『翼に出来ることが、どうしてお前には出来ないんだ?』
ゆきの瞳が揺れる。
まただ。
忘れたと思ったのに。
『同じ兄妹だろ。』
『翼を見習え。』
『本当に情けないな。』
嫌な記憶が次々と浮かぶ。
ゆきは布団を握り締めた。
結び屋の人たちは優しい。
臨時も。
あっくんも。
りいさんも。
でも。
もし。
もしみんなも同じことを思ったら。
「長瀬翼はすごいのに。」
「どうして妹のお前は。」
胸が苦しくなる。
息が詰まる。
気付けば。
部屋の空気が少し冷えていた。
ゆき自身は気付かない。
ただ膝を抱える。
臨時も。
あっくんも。
本当はそう思ってるのかな。
怖かった。
結び屋に来たばかりなのに。
また比べられるかもしれない。
また失望されるかもしれない。
そう思うと。
心臓が強く脈を打つ。
その瞬間。
パキッ。
小さな音が鳴った。
さらに。
パキパキパキッ。
白い霜が広がる。
ベッド。
床。
壁。
部屋の一部が凍り始める。
それでも。
ゆきは気付かない。
コンコン。
扉が叩かれた。
返事はない。
翼は首を傾げる。
「ゆき?」
扉を開ける。
そして固まった。
「は?」
部屋が寒い。
明らかに寒い。
視線を下げる。
ベッドが凍っていた。
「ゆ、き?」
ゆきが顔を上げる。
「翼?」
「お前何してんだ。」
「何って。」
「ベッド凍ってんだけど。」
「え?」
そこで初めて気付く。
白く凍り付いたベッド。
ゆきは目を見開いた。
「うそ。」
「嘘じゃない。」
翼は額を押さえた。
「またかよ。」
翼の右手に炎が灯る。
赤い炎。
ゆきとは正反対の能力。
炎がゆっくり氷を溶かしていく。
ジュッという音が響く。
やがて霜も消えた。
「乾かせば使えるな。」
「ごめん。」
「謝る前に理由。」
翼が言う。
ゆきは黙った。
数秒。
そして小さく答える。
「思い出しただけ。」
「何を。」
ゆきは俯く。
「……昔のこと。」
翼は少しだけ表情を曇らせた。
答えなくても分かる。
何を思い出したのか。
誰の言葉なのか。
ずっと知っているから。
「ゆき。」
「ん。」
「結び屋の奴らは言わない。」
ゆきは顔を上げる。
翼は続けた。
「少なくとも。」
「俺は言わない。」
部屋はとても静かだった。
けれど。
その言葉だけは。
少しだけ温かかった。
コメント
2件
おお、第5話読んだ…これは沁みるわ。 ゆきの過去がひたひたと押し寄せる感じ、すごく伝わってきた。「同じ兄妹なのに」って比べられる痛み、重いよな…。新しい環境に来ても、ふとした瞬間に過去の声が蘇るの、リアルだった。 でも最後の翼の「俺は言わない」がめちゃくちゃ温かかった。あれだけでだいぶ救われる。氷と炎の対比も綺麗でグッときたわ🔥 続きが気になる…ゆきが結び屋で安心できる場所になるといいな。