テラーノベル
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夕暮れ、私はジェンとイェンを乗せた車の中にいた。ハンドルを握る手はリズムを刻み、鼻歌が止まらない。
ジェンが「ごきげんね」と笑った。
「えぇ。二人を招待できて嬉しいの」
―二人もきっと、気に入ってくれるから。
森のそばにある大きな家。周りに住宅はない。
ジェンとイェンを家に招き入れる。
―ジェン、覚えてる?この家であなたを見つけたのよ。
ひっそりとした家に、玄関を開ける音が響いた。
そしてジェンとイェンの笑い声が続く。
ジェンは、オフショルダーとスキニー。イェンは真っ白のワンピース。
ジェンはキョロキョロと周りを見回しては、鹿の剥製や古時計に目を丸くした。
―あの日は混雑していたものね。今日からはゆっくり見て回れるわ。
Gloriaのコース料理や色とりどりの果物が並ぶマホガニーのテーブルに、イェンは殊の外喜んだ。
「Gloriaのお料理なんて初めて。夢みたいだわ!こんなに豪華で綺麗なお料理があるのね…」
―そうね、イェンとは行ったことがないもの。
「このポワソン、とても美味しくて、あたしのお気に入りよ。食べてみて」
ジェンがイェンに促す。
―ジェンは、何度も食べたものね。
―ジェンとは何度Gloriaに行っただろう。
―これからも、いつだって連れて行くわ。
ジェンは自慢気にイェンに料理の説明をして、イェンはその一つ一つに目を輝かせて頷いた。
三人で乾杯する。
音楽をかけて、ダンスをと二人を誘ったけれど、ジェンにイェンが慣れていないからと断られた。
だから、BGMだけの食事会になった。
イェンが申し訳なさそうに俯いた。
パーティーは楽しくなくちゃ。
「イェン、食事を楽しみましょうよ。」
ね?と促すと、イェンはやっと顔をあげて、頷いてくれた。
「ねぇ、ジェン、相手はどんな方なの?」
ジェンはイェンをちらりと見た。
「大学の時の知り合いよ。高校の時、イェンと同じクラスだったのよね?」
イェンが困ったように笑う。
「えぇ。そうね。…彼とっても人気があったの。わたしはお話したことはないけど、とても親切な方よ」
「プロポーズはどこで?」
「浜辺よ。海にいつもの仲間と遊びに行ったときに。…プロポーズのこと、皆知っててあたしだけ知らなかったの!すごく驚かされたんだから」
ジェンは楽しそうに笑った。
―皆って?
「いつから付き合っていたの?」
「2年くらいになるわ」
―そんなに長く?私と会ったのは5年前よ?彼の話、聞いたことないわ。
テーブルの下で握りしめた手の平に爪が食い込んでいく。
イェンが、目を逸らした。寂しそうに。
「イェン?どうしたの?」
イェンは慌てて私を見て、何でもないの、と手を振った。
見ると、イェンの前に置かれたワインボトルが空だった。
ジェンのグラスも空になっている。
「あら、ボトルが空ね。新しいのを持ってくるわ」
私は地下のワインセラーに向かった。
鼻歌を歌いながら新しいワインを取り出す。
―アイスワインにしよう。
アイスワインを持って戻ると、ジェンとイェンが机に突っ伏して眠っていた。
「眠ったのね」
―これで、ジェンは私のそばにいられる。安心してね、ジェン。私が守ってあげるから。
私は、ジェンを抱きしめて持ち上げる。
傷つけないように、慎重に2階に運ぶ。
―眠った人間って重いのね。
20分かけて、ようやく2階の部屋のベッドにジェンを寝かせた。
ジェンに全く似合わない服を脱がせて、用意したミディドレスを着せる。
オフショルダーを少し引っ張ると、あっけなく破れた。いい気味だわ。
―あぁ、ようやく天使に戻ったわ。
あの日、お庭で輝いていた私のジェン。
汗をぬぐい、レコードのタイマーをセットして、スキニーとオフショルダーを持って部屋をでる。
―あの曲で目を覚ましたら、きっと喜ぶわ。
—その前に、このふざけた服を切り裂いてやる。
部屋に鍵をかけた。
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