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しらなみ
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#主人公最強
杯雪乃
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桜咲かな
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母の遺品から、七枚の死亡通知が出てきた。
そのうち六人は、まだ生きていた。
「……なに、これ」
私は畳の上に膝をついたまま、最初の一枚を持ち上げた。
死亡通知書。
上部には、そう印字されている。
職業柄、こういう書類を見間違えるはずがない。
私は市役所の戸籍課に勤めている。
人が生まれたときの届出も、結婚したときの届出も、死んだときの届出も扱ってきた。
だからこそ分かる。
こんな書類は存在しない。
少なくとも、役所が発行する正式な書類ではない。
それなのに用紙は妙に本物らしかった。
氏名。
生年月日。
住所。
死亡年月日。
死亡時刻。
死因。
余計な項目は一つもない。
一枚目に書かれていた名前は、
高瀬隆志。
五十八歳。
死亡予定日は、三日後。
九月三日、午後十一時四十分。
死因――転落死。
私は思わず紙を置いた。
「死亡……予定?」
口にした瞬間、背中を冷たいものが這った。
隣の部屋では、遺品整理業者が段ボールを組み立てている。
ガムテープを引き出す音。
家具を動かす音。
窓の外を走る車の音。
いつもなら何でもない生活音が、今だけひどく遠く感じられた。
母、水城千佳が死んだのは四日前だった。
六十二歳。
自宅で倒れているところを、近所の人に発見された。
警察から私に連絡が来た。
死因は急性心不全。
事件性なし。
私は葬儀を済ませ、今日初めて母の家に入った。
十二年ぶりだった。
母とは、ほとんど連絡を取っていなかった。
最後に会った日のことは、今でも覚えている。
二十歳の私に、母は言った。
「あなたは家族を捨てられる子なのね」
私は答えた。
「捨てたんじゃない。逃げるの」
そのまま家を出た。
以来、正月にも帰らなかった。
母から何度か電話が来た。
最初のうちは出た。
そのうち出なくなった。
最後の着信は、母が死ぬ二日前だった。
私は仕事中だった。
画面に表示された「母」の文字を見て、スマートフォンを伏せた。
その電話が、最後だった。
私はもう一度、死亡通知に目を落とした。
高瀬隆志。
知らない名前だった。
二枚目。
榊原美佐子。五十七歳。
死亡予定日、九月七日。
死因――溺死。
三枚目。
水城雅彦。六十三歳。
指が止まった。
父の名前だった。
十二年前に家を出て、それきり会っていない父。
死亡予定日、九月十一日。
死因――未記入。
「どういうこと……」
四枚目。
五枚目。
六枚目。
知らない名前が続いた。
そして七枚目。
私は裏返した。
白紙だった。
いや、違う。
氏名の欄だけが黒いインクで塗り潰されている。
生年月日も、住所もない。
ただ、死亡年月日の欄に、
九月二十日
とだけ記されていた。
「水城さん」
背後から声をかけられ、私は肩を跳ねさせた。
遺品整理業者の男性が、襖のところに立っていた。
「すみません。そこの棚、処分で大丈夫ですか?」
「あ……はい」
反射的に答えてから、私は七枚の紙を重ねた。
見られてはいけない。
なぜそう思ったのか、自分でも分からない。
ただ、母の死後に出てきたこんなものを他人に触らせる気にはなれなかった。
紙を封筒へ戻そうとしたとき、底にもう一枚あることに気づいた。
大学ノートを切り取ったような、小さな紙片。
母の字だった。
一目で分かった。
子どものころ、何度も連絡帳に書かれていた、角張った癖のある字。
そこには、一行だけ書かれていた。
私は、この七人に殺されました。
息が止まった。
「……嘘」
母は病死した。
警察も医師もそう言った。
七人に殺された?
そんなはずがない。
そもそも七人とは誰なのか。
私は再び一枚目を抜き出した。
高瀬隆志。
この男なら、あと三日で死ぬことになっている。
馬鹿げている。
人がいつ死ぬかなんて、誰にも分からない。
まして死因まで。
私はスマートフォンを取り出した。
検索欄に名前を打ち込む。
高瀬隆志。
同姓同名が何人も出た。
そこへ住所を追加する。
通知書に記された住所は、市内だった。
検索結果の一番上に、小さな会社のホームページが表示された。
代表取締役。
高瀬隆志。
写真が載っている。
五十代後半の男が腕を組んで笑っていた。
生きている。
私は画面と死亡通知を交互に見た。
その瞬間だった。
スマートフォンが震えた。
着信。
見覚えのない番号。
市外局番は、この町のものだった。
迷ってから出る。
「はい」
数秒、何も聞こえなかった。
「……もしもし?」
やがて、男の声がした。
震えていた。
『水城澪さんですか』
「そうですが」
『千佳さんの娘さんですよね』
胸の奥が硬くなる。
「どちらさまですか」
男が息を呑む音がした。
そして言った。
『高瀬です』
私は、手にした紙を見た。
一枚目。
高瀬隆志。
『あなたのお母さんから、届いたんです』
「何がですか」
電話の向こうで、紙の擦れる音がした。
『俺の死亡通知です』
私は何も言えなかった。
高瀬は続けた。
『ここに書いてあるんです』
声が裏返った。
『三日後、俺は死ぬって』
コメント
1件
うわ、これ、めっちゃ気になる…! まず「死亡通知書が七枚」「全員まだ生きてる」って設定だけでゾワっとくるし、しかも母の遺書に「七人に♡♡♡れた」って書いてあるのに警察には言うな、って矛盾がもう不気味すぎる。一枚目の裏に書かれた「十五年前の罪を見つけろ」っていうメッセージも、物語の仕掛けとしてすごく巧い。母は事故死なのに、なぜ死期を予知してたような遺品を残せたのか、そこも含めて謎が重なって続きが待ちきれないです。伏線の配置が絶妙で、一気に引き込まれました。