テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ー注意事項ー
・前回参照
◇◇◇
基地の庭は今日も平和だった。
春が深まり、風がやわらかく吹いてくる。
ベンチに座ったciは、風に前髪を揺らしながら紅茶を飲んでいた。
「……うまっ」
ぽつりとこぼれたその声に、少し離れていたzmが微笑んだ。
「あいつ、紅茶好きなんか?」
「…昔からや。けど、最近やっと落ち着いて飲めるようになったらしい」
tnが応えた。
ふたりは芝の上に座り、ciを見守るように距離を取っていた。
まるで狙われやすい小動物を見守る兄たち、のように。
ところでここ最近。
ciに向けられる周囲の目が、明らかに変わってきていた。
「あの白髪の子、意外と可愛くね?」
「なんか、儚げなのに芯が強い感じとか、いいよな」
「……守りたいって、こういうことかも」
隊内でのそんな噂は、すぐにzmとtnの耳に入った。
zmは顔を引きつらせ、tnは紅茶を吹いた。
「いやいやいや……なんやそれ、流行りの乙女ゲームの話か?」
「どう見ても現実や。しかもターゲットはciや」
ふたりは黙って目を合わせた。
このままではciが変なやつに攫われる。
そして案の定、翌日。
「あの…ciさんって今夜、予定ありますか?」
若手士官が声をかけてくる場面に遭遇したzmは、即座に横に割り込んだ。
「あるで。俺と一緒に、夜食や」
「えっ、zm!?いや、俺は」
「あとciは紅茶は好きでもお前みたいな男は嫌いやからな。帰れ」
「 z、zm!?」
別の日には、tnが庭で話しかけられていたciと男の元へ歩いてきて、笑顔で言った。
「それ以上近づいたら、俺が肩外すで」
「 えっ、tn!?」
「えっ、なんでですか!?」
「可愛いもんは、野生動物と同じや。
触ってええのは、信頼得た人間だけや」
「 t、tn…」
男たちは引きつった顔で去っていった。
ciは顔を赤くしながら、そっと呟いた。
「あの、助かったけどちょっと恥ずかしい……」
夜。
ciはzmとtnに囲まれて、肩まで毛布に包まりながら、少し照れていた。
毛布の中にはzmがいて、tnはソファに座っている。
「なんで、そんなに必死で追い払うん?」
zmは視線をそらしながら言う。
「……お前が、また人に傷つけられるの、見たないからや」
tnもため息混じりに笑った。
「昔は自分のことを安く扱ってたけどな。
今のお前は、ちゃんと大事にされるべきや」
ciは毛布の中で指を握りしめながら、小さく微笑んだ。
「あ、ありがとう。俺、こんなふうに誰かに守られてるって思ったの、初めてかもしらん」
zmとtnは視線を交わし、ふたりして口には出さないが、内心こう思っていた。
…誰にも渡すか、と。
◇◇◇
「最近ciさん、あの前線部隊の隊長と仲良くないっすか?」
「いつも笑って話してるし」
「いや、もうあれ付き合ってんじゃね?」
そんな声がまた聞こえてきたのは、昼休みの裏庭。
俺が現場に入った時、zmの背中は既にピクリと硬直していた。
「zm、お前……」
「……別に、どうでもええ」
それだけを言い残し、zmは黙って去っていった。
(いや、どう見てもどうでもよくなさそうやんけ……)
そして、それからzmはciを避け始めた。
◇◇◇
「zm、これ…一緒に整備せん?」
「ああ、先やっといてくれ」
「今日、また訓練一緒かなって…」
「俺、別の予定ある」
戸惑いを隠せないciの顔を、俺は見ていた。
「zm、なんか怒ってる?」
「さあな。お前、なんかした覚えあんのか」
「わからん…でも、前みたいに話してくれなくて」
それが、自分のせいだと思うciと、自分から距離を置いたくせに苦しんでるzmの、すれ違いであった。
数日後。
夜の倉庫で、ついにciが問い詰めた。
「zm、どうして俺のこと避けてるの」
「…別に避けてへん」
「嘘や。わかる。俺、何かした?」
沈黙。
ciの声が少し震える。
「嫌いになったなら、ちゃんと言ってや。俺、前よりまともになったと思ったのに…」
その言葉に、zmがついに、声を上げた。
「……っ、ちゃう! お前が誰かに取られるのが嫌やっただけや!」
ciが、動けなくなる。
「どいつもこいつもお前に好意ぶつけてくる。
笑いかけるお前が、それに気づいてへんのも怖かった」
「zm……」
「でも俺には、何もできんと思ってた。
隣にいたはずやのに、お前はもう別のとこ行きそうで」
そのとき、
物陰から歩み出た俺がふたりの間に入った。
「……もうええやろ、zm。素直になった時点で、お前の勝ちや」
ふたりが驚いた顔をする。
「なあci、お前zmのこと、どう思ってんねん」
「…俺、zmが避けるたびに心臓が痛くて…でも怒らせたくなくて、怖くて、でも寂しくて…多分俺、ずっと好きだったんだ…と、思、う」
zmが目を見開く。
俺は静かに笑った。
「もう遠回りせんでええ。
伝え合え。戦場より難しいことでもないやろ」
◇◇◇
夜の灯火の中、ふたりは並んで座っていた。
「…ごめん、避けて」
「ううん、俺こそ…ありがとう、言ってくれて」
手が、そっと重なる。
そしてもう片方の手は、俺が渡してやった缶コーヒーに。
(……まあ、こいつらが落ち着くまでは俺の出番やな)
コメント
5件
んやかわいい!!!! 教科書にのってもおかしくなさそう
tnさんが夜風にあたりながら「俺もあいつ、好きだったんだけどなぁ」とか言ってるのをgrさんとかに聞かれててほしい!!!!
本編の時はci君のお兄ちゃんっぽいポジだったけど今回はzmciどっちとものお兄ちゃんしててすき ラブコメ見てる感覚だった かわいいの渋滞だった