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恵におはようコールを送ると、いま部屋を出たところらしい。
レストラン前で待っていると、ニコニコ笑顔の涼さんと、ふてくされた猫みたいな顔をしている恵がやってきた。
「おはよー! 恵」
「おはよ」
私には分かる。
恵がブスッとしている時は、大体涼さんに可愛がられたあとだ。
普段の彼女はスンッとしているので、実に分かりやすい。
というか、ニマニマしているとか、赤面してそわそわ照れている選択肢がないのが彼女らしい。
私たちはカードキーを見せて席に案内してもらう。
男子チームには荷物を見てもらい、私たちは身軽な格好でビュッフェの列に並んだ。
「涼さんと何かあった?」
コソッと囁くと、恵は仁王様みたいな顔になって、大きな目でジロリと睨んできた。
「はいはい、聞きません。……でも、一緒にケアンズ来られて良かった?」
「……うん」
恵はトングでレタスを盛りつつ、頷く。
「また四人でどこかに行きたいね」
「うん、それは賛成。……旅費とか色々、涼さんと篠宮さんに頼り切りなのは申し訳ないけど」
「その気持ちは分かるわー。……でも私たちがこう言ったら、彼らがどう答えるかも分かってるのがこれまた……。……私もただ愛でられていればいい、って言われると納得できないけど、割り勘にしようなんて、現実的じゃないもんね」
「マジそれ。割り勘にしようとしたら、借金まみれになる」
「つらぁ……」
そんな会話をしながら、私は気になった物をプレートにヒョイヒョイ載せていく。
日本の温泉旅館とかでも、ビュッフェで色々載せると重たくなってしまうけれど、海外では食器がとても重たいので、結構腕にくる。
タオル類も重たいけれど、両方とも耐久性や高級感を重視しているかららしい。
お皿は色んな人が触れるので、ちょっとの接触では割れない頑丈さ、料理を載せてもトレーの上でズレない安定性、あとは温かい料理を冷めにくくするための保温性もあるのだとか。
他にも、ヨーロッパとかだと古い物ほど価値があるという考え方もあるし、頑丈で長持ちする物は、コスト削減にも繋がっているらしい。
料理を持って席に戻ると、テーブルにはすでにホットコーヒーが載っていた。
尊さんたちが取りに行ったのではなく、テーブルにすでに用意してあるカップに、スタッフさんがコーヒーか紅茶を注ぎに来てくれるのだ。
入れ替わりで男子チームが食べ物をとりに行ったあと、私は恵に尋ねる。
「カジノのお金の使い道、どうする? 尊さんがすぐ近くのヴィトンで買い物しないかって」
「うーん……」
恵はサラダをモリモリ食べながらうなる。
彼女がブランド物に興味を示さないのは分かっているけれど、せっかく儲けたお金だから、思い出作りをしたい。
「……なんか、四人で色違いの小物とか、ケアンズの思い出になるような物は?」
「あっ、それいいね!」
恵のアイデアを聞き、私は頷く。
「小物でも凄く高いだろう事は予想できるけど、六十万円近くもあるなら、まだ何か買えるよね……」
「尊さんは四十万円近くする、バッグを買ったらどうだ? って言ってくれてた。恵とシリーズでおそろの物にするとか、色々……」
「うーん……。普段はまず使わないけどなぁ」
恵は涼さんと同棲するようになったあとも、通勤バッグはともかく、プライベートでちょっと外出する時などは、Tシャツにデニム、ナイロンのリュックスタイルを貫いている。
「恵の気持ちも分かるんだけど、でも他に六十万円近くの買い物ってなくない? お土産を買うって言ってもたかが知れてるし、高価なお土産あげたら気を遣わせちゃうし」
「だなー」
「ぶっちゃけ、ハイブランドの物は要らない? 嫌い?」
恵の顔を覗き込むと、彼女は難しい表情で言う。
「嫌いって訳じゃないけど……。凄い物とは思うんだよ。高いだけあってモノがいいだろうし、品質や価値が保証されてこその〝ブランド〟だから。……でも、朱里みたいに美意識の高い人ならともかく、『私なんかがそんな凄い物を持っていいんだろうか?』って思っちゃう。涼さんがくれた沢山の服もあまり着られていないし、コスメはなんとか使おうと努力してるけど、ジュエリーとか恐くて付けられないし……」
そこまで言い、恵は深い溜め息をつく。
「んまー、ジュエリーは気持ち分かるわ。……でもね、こういうのって開き直りだと思う。恵は随分私を持ち上げてくれるけど、私は自分の事を凄い人なんてちっとも思ってない。尊さんがプレゼントしてくれる物に、釣り合う人になりたいって常々思ってるけど、果たして結果が出ているか分からないし。……でも身につける物って、誰かの許可を得て選ぶ訳じゃないでしょ? ブランド品のバッグや服を身につけたからって、逮捕される訳じゃあるまいし」
「ぶふっ」
逮捕と聞いて、恵は噴き出す。
#追放
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