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Side黒


楽屋のドアを開けると、そこはガヤガヤと騒がしい。

でも、今日はその騒がしさが一人分足りない。

「あれ、樹は?」

まだ、と京本が答える。「まあもうすぐ来るんじゃない」

俺は昨夜のことを伝えようと思ったが、口を閉ざす。慎太郎の隣に腰掛けた。

何となく、俺にだけ電話しようとしていた気がするから。他の誰かには言えないことがあって。

――そう、ずっと前の俺のように。


スタジオに入る直前の時間になっても、樹は姿を見せない。

ジェシーが電話をしているが、繋がらないようだ。

いよいよ俺らは焦り始める。焦燥感が、恐怖に変わっていく。

やっぱりあの電話で、樹は大事だけど口にしにくかったことを頑張って言おうとしていたんじゃないか。

何で聞き出せなかったんだ、と後悔する。

そして時計の針がスタジオ入りの時間を少し過ぎたとき、やっと扉が開いた。

「あっ」

入ってきたのは、いつもの恰好をした樹だった。服も普段通りだし、髪型も崩れてはいない。慌てて来た感じではなかった。

「良かった、心配したよ!」

俺は駆け寄る。

樹の目が俺を捉えた。そして微笑む。ように見えた。

次の瞬間、その瞳から涙がこぼれ落ちた。

それを隠すようにうつむく。

みんなも寄ってきた。

「どうした樹…」

樹は膝の力が抜けたように崩れ落ち、声にもならない嗚咽を上げる。

俺らは、身体を支えて背中をさすることしかできなかった。そして背中に触れて初めて、以前より細くなっていることに気づいた。

早く、彼が背負っている重い荷物を下ろしてあげたい。俺らは確認し合うように、5人で顔を見合わせてうなずいた。

ソファーにゆっくり座らせ、落ち着くのを待つ。

「樹。なんかあったんでしょ。何があったか教えて?」

ジェシーが優しく言った。刺なんて一本もない、その柔らかい声で。

樹は苦しげに表情をゆがめたあと、ポケットからスマホを取り出す。

俺は樹が楽屋に来てから一言も喋っていないのを不思議に思った。

少し操作して入力したあと、画面を5人に向ける。

『声出ない』

メモの入力欄にはそう書いてあった。

俺らも言葉を失って、思考が停止する。どうしてこんな急に……?

樹はまた画面の上で指を動かす。

『それまでは何ともなかったのに、朝マネージャーさんに迎えに来てもらったとき、全然声が出なかった

喉に息が詰まってる感じ

とりあえず行って、みんなに話しましょうって言われたから』

みんなは静かにうなずいた。

「…樹、なんか辛いこと溜め込んでたんだろ? 俺知ってるよ」

なるべくきつい口調にならないよう、でも少し厳しく言った。

樹は少し逡巡したあと、入力し始めた。

『俺ずっとここにいていいのかなって

やっぱり迷惑かけてんじゃないのか、いらないんじゃってずっと考えてた

あの時から

俺がいなくたってすと』

画面をのぞいて打ち込まれていく文字を見ていたが、ついスマホを奪い取った。

「んなわけねーだろ」

俺の心の声に重なるように声がした。でもそれは高地のものだった。

「お前はSixTONESにいなきゃダメなの。何があっても。だから声が出なくなったからって勝手に出ていくのは許さない。取り戻さなきゃ」

高地の言葉を聞いた樹は、首を振る。できない、とばかりに。

「できるって。俺らも付いてる」

慎太郎もそう励ます。

俺の手からそっとスマホを取り、また打ち始める。でもその指は細かく震えていた。

何文字か書いたあと、唇を噛んで傍らにスマホを投げた。そして顔を覆って涙をこぼす。

放り出されたその画面には、

『俺の武器が、』

とだけあった。

「しばらく休もっか」

京本は、慰めるでもなく安心させるでもない低めの声で言う。沈痛で真剣な表情をしていた。俺が感じているのと同じ後悔の色があった。


その後、樹は「心因性失声症」と診断された。

抗不安剤を処方してもらい、カウンセリングも勧められて行っているようだ。

未来への不安によって奪われてしまった武器を、俺らは何としてでも奪還しないといけない。だって6つあるうちの大事な1つの音色だから。

残る5つの武器で、守りたい。

絶対に。


続く

6つの星、それぞれの光る空

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