テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

Side黒


楽屋の時計を見ると、近づく集合時間。

また来ないんじゃないかと不安が募る。

「ねえ、樹、大丈夫だよね」

隣のジェシーに訊くけど、眉をひそめて「うーん…」とうなる。普段あれだけ明るいジェシーでもこうだ。きっとかなり心配している。

ラインを開いて『大丈夫?』と送ってみると、意外とすぐに既読がついて『もう着く』と返信があった。

とりあえずほっと息をついた。

少しして、樹が姿を見せた。

俺らが安心して笑顔で迎えると、樹も少しだけ口角を上げる。

今日は雑誌の撮影だから、声が出なくてもできる。インタビューは文章で送るらしい。

『スタッフさんには話してあるからな』とラインで伝えると、

『ありがとう』と返ってくる。こういうツールがあって助かったな、とつくづく思う。


スタジオに行く時間になり、みんなが立ち上がる。部屋を出ようとしたとき、袖がくいっと引っ張られた。

「ん?」

振り返ると、樹がいた。「どうした?」

5人もドアのところで立ち止まっている。

樹は持っていたスマホを示す。

『怖い』

それは、初めて樹が見せた本音のようだった。本当の感情だった。

「大丈夫」

樹を引き寄せ、その細い身体を抱きしめる。

「俺らが付いてる。絶対離れないから。離さない」

これが俺らの本音だってことがちょっとでも伝わってたらいいな、と願う。

ほかのメンバーもくっついてきて、一緒にハグをする。

傍から見れば大男6人が抱き合ってるという妙な図だけど、こうやって物理的にもそばにいるってことを伝えたかった。

腕を離した樹は、顔を上げて5人を見据える。

その瞳は潤んでいたけど、表情は柔らかい。

樹は小さく右手を上げ、何か形を作った。

みんなに向けて掲げた3つのサイン。

それは、いつか俺らが放ったあのロックでジェシーがやっていた手話の振り付けだった。


“ERA”


「そうだな、これからも俺らで新時代つくってやるぜ!」

俺が言うと、みんなも「おー」とか「やってやろうぜ」とか重ねてくれる。

6人で足並みを揃え、歩き出した。




それは、数日経った夜のこと。

病気がわかる直前に樹からかかってきた電話と同じように、ベッドに入ろうとしたときにスマホが着信を告げた。

「何で…?」

あれから電話は一度もしていない。もしかしたら間違ってかけてしまったのかな、と思いながらも取る。

「もしもし。樹、どうした? 間違えた?」

電話の奥の樹は答えない。それもそのはず、と思った矢先。

『ほ、くと』

少し引っ掛かっているような、小さな声がした。

「え?」

でもそれは正真正銘の樹の声だった。

『…俺、声、出てる』

「え、マジで!? 良かったじゃん、良かった!」

嬉しさで身体が熱くなる。「声が出ない」と告げられてから約1か月、この時を待っていた反面、もしあの声が二度と聞けなくなったらどうしようと不安だった。

その不安は、彼自身の声で払拭された。

『あんま、大きい声は…まだ出ないんだけどね。ちょい詰まってるし。でも、最初に、北斗に言いたくて』

「そうか、ほんとに良かった。みんなにも電話してあげな?」

うんっ、と声色明るく返事をする樹。

『ってわけで、今度のレコーディングは…無事、行けることになったから。練習、しとく。よろしく』

「あ、待って」

いつもの口調で畳みかけて切ろうとする樹を、慌てて遮る。いや、普段の話し方が戻ってきたのはすごく嬉しい。声が出せなくなってからは表情も少し暗かったから。

「樹。これからは、何か辛いことがあったらすぐ俺に言うこと。ほかのみんなでもいいし。一人で抱え込むとか許さないからな?」

高地の言葉を借りて忠告すれば、『わかった』と真面目な返答。

「ほんとに良かった。レコーディング、6人で録れなくなるの嫌だったし、最初に俺に言ってくれたのも。だから、これからもちゃんと6人で乗り越えてこうな」

ふふ、と樹の笑い声がする。そういえば笑声を聞いたのも久しぶりだ。

『わかったよ。それは、お互い様な』


樹が力強く見せた“新時代”。

それをしっかり6人の声で走り抜いていくために、いらない荷物は下ろして軽くしていかなきゃ。

ほかのメンバーに預けたっていい。

幾千光年先の未来でもずっと笑い合ってるためなら、ちょっと重くたっていとわないから。

新たな世界へ、このみんなで踏み出そうぜ。


終わり

6つの星、それぞれの光る空

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

182

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚