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「昔から占いってのは『当たるも八卦当たらぬも八卦』っていうんだよ。当たるかどうかよりも、信じるやつさえいれば商売として成り立つ。占い師ってのは説得力があれば何とかなるような無責任なもんさ」
家を出る前、オーラ占いについて聞いてみたら、真知子からは至極夢のない答えが返ってきた。もし占いが当たらなくても、「外れましたね」だけで済ませて貰えるから気楽なものだ、と。
「祓いの仕事はそういう訳にはいかない。万が一でも祓いそびれたら、依頼人の被害をさらに広げることにもなりかねんし、下手したらこちらが返り討ちにあう」
人には視えないものが視えるのだとしても、祓い屋と占い師では相談者から請け負うものが違う。だからだろうか、友達と占いの館へ行くと言った時、真知子は露骨に嫌な顔をしていた。
ほどなくして左の扉が開き、次に順番を待っていた女性客が二人、噂の占い師がいるらしき小部屋へと入れ替わりで入って行く。先に占いを受けていたのは神経質そうな中年女性で、片手にハンカチを持って目元を拭いながら出て来た。鼻をすすっていたし泣いていたみたいだけれど、どこかすっきりした表情をしているから、悩み事が解決したのだろうか。あの世代が占いに頼るような悩みは、とてつもなく深刻な気配しかしない。
反対に、陽菜達の相談事なんてお気楽に思えてくる。
「ねえ、とりあえず何を聞いてみる? 占いって言ったら、やっぱ恋愛関係だよね?」
「えー、何? ここでいけるって言われたら、まさか告白する気だったりする?」
「それは、まぁ……でも、ダメって言われる可能性高そうだしなぁ」
陽菜と文香がヒソヒソと声を潜めて、何を占ってもらうか相談し始める。美琴は真知子の話を聞いたせいか、そこまで乗り気でもなかったし、今日は二人のただの付き添いだ。
文香は高校に入学してからずっと片想いしている男子バレーボール部の三年生のことを占ってもらうと力んでいる。部活はすでに引退して学校でもほとんど見かけることが無くなったけれど、あと数か月で卒業して完全にお別れしてしまう前に気持ちを伝えたいのだと。
「陽菜もいつ出会いがあるか聞いてみたらいいじゃん」
「私もそっち系? 真面目に進路とかにしようかと思ってたんだけどー」
「ああ、進路ねぇ」と一気に空気がズンと重くなる。高2の二学期ともなると、進路調査票の提出や面談なんかが立て続けにあって、もうすぐ受験生になるんだと急かされている気分だ。
「それよりさ、文香のお姉ちゃんは何を占って貰ったって言ってた? 私、ネットの口コミも探してみたら、ここで貰ったお守りがめちゃくちゃ効くって書いてたんだけど」
「それ、お姉ちゃんも持ってたよ! 見た感じは普通の石なんだけど、直接力をこめてから渡してくれるんだって」
これくらいの大きさの、と文香が右手の人差し指と親指で輪を作る。直径3センチ弱といったところみたいだ。
お守りと聞いて、美琴は左手首に嵌めているブレスレットにそっと触れた。先日の依頼でアヤメから「行動が危なっかしくて見てられへん」というレッテルを貼られてしまい、ツバキにより護身用の新たな物が用意された。ピンクのパワーストーンを使ったものだから、一見すると数珠には見えないし普段使いできるのだ。学校でも体育の授業以外は袖の中に忍ばせている。
陽菜が何を占ってもらうかが決まらないまま、三人の番が回ってきた。受付で渡された番号札を持って、少し緊張しながら左の扉を押し開く。
奥行きのほとんど無い部屋の中央には小さなテーブルがあり、その向こうで三人のことを迎え入れたのは、丸顔にショートボブの女性。ライトグレーのツインニットを着て、人の良さそうな笑顔を浮かべていた。外で会っても絶対に占い師だと気付かないくらい、見た目はものすごく普通だ。
「あら、三人だとお席が足りないですね。お一人はこちらの丸椅子を使っていただけますか?」
部屋の隅に置いていた予備の椅子を移動させてから、自分も席へと戻ると、占い師はそれぞれに名刺を渡してから「お店のアカウントを宣伝するように言われてて……」と困り顔で裏面に印刷されたQRコードを示す。組織化された占い師というのも、それなりに大変なのかもしれない。
名刺に書かれていた名前は、占い師マリー。どう考えても地味な顔立ちには不釣り合いだけれど、それが彼女の占い師としての呼び名なんだろう。陽菜が少し肩を震わせていたのを美琴はしっかり見逃さなかった。気持ちは分かるが失礼過ぎるぞと肘で隣を小突く。
マリーの向かいに座った陽菜と文香は、テーブルで小さな紙に名前と生年月日を記入するように促される。生まれた時刻ももし分かっていたらと言われたが、二人とも首を傾げていた。
「まずは、どちらの方から?」
マリーからの問いに、文香たちが顔を見合わせる。そして、少し目配せした後、文香が「私から」と右手を小さく挙げた。
「あの……今、同じ学校に好きな人がいて――」
宣言していた通り、文香はバレー部の先輩のことを話し始める。先輩は自分のことをどう思ってくれているか、もし告白したら上手くいくか。割と直球な質問に、マリーは微笑ましいとでも言いたげな穏やかな笑顔を浮かべながら、時折頷いて聞いていた。