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ヤッホ
行ってらっしゃい
放課後の校舎は、昼間よりも音が少ない。
遠くの運動部の声。
階段を下りる足音。
窓の外を通り抜ける、やわらかい風。
ちぐさは、廊下の窓際に立っていた。
「……」
何かを考えている、というより。
何かに引っ張られているような感覚。
その少し後ろで、らおが立ち止まる。
「ちぐさ。」
静かな声。
「……なに?」
「さっきから、同じ場所を見てる。」
ちぐさは、ゆっくり瞬きをした。
「……ここ、風が通りやすい。」
「それだけ?」
「……うん。」
少しだけ、間があった。
らおはそれ以上聞かず、ちぐさの隣に並ぶ。
「無理に話さなくていい。」
「……ありがと。」
――そのとき。
「ちぐちゃーん!らおー!」
廊下の向こうから、よく知った声。
「おー、ここにいた!探したじゃん!」
あっきぃが、息を切らしながら駆け寄ってくる。
「どうしたの?」ちぐさが聞く。
「いやさ、生徒会室の前通ったら、あっととけちゃが揉めてて。」
「揉めてる?」
らおが眉をひそめる。
「揉めてるっていうか……」
あっきぃは少し困った顔で笑った。
「けちゃが書類落として、あっとが拾って、でも二人でどっちが悪いかで静かに言い合ってる感じ?」
「それ、揉めてないよね。」
ちぐさがぽつりと言う。
「あ、やっぱそう思う?」
話しているうちに、廊下の奥から声が聞こえた。
「だから、俺がやるって言っただろ。」
「でもでも、あっちゃん忙しそうだったし……」
「無理はしなくていいって、言ったはずだ。」
姿を現したのは、あっととけちゃ。
書類の束を抱えたまま、けちゃがこちらに気づく。
「あ!ちぐたち!」
「こんにちは。」らおが軽く頭を下げる。
あっとは一瞬だけ視線を向けて、穏やかに言った。
「……放課後に集まるなんて、珍しいね。」
「たまたま。」あっきぃが言う。
「たまたま、風に呼ばれてた。」
ちぐさの言葉に、全員が一瞬止まった。
「……風?」
あっとが聞き返す。
ちぐさは、はっとして首を振った。
「……ごめん。今の、気にしないで。」
けちゃが笑う。
「ふふ。ちぐ、たまに不思議なこと言うよね。」
「……そう?」
「うん。でも嫌じゃないよ。えへ、よいしょ。」
書類を持ち直す仕草。
あっとは小さくため息をついたあと、声を和らげた。
「……それより。今から帰るところ?」
「いや、少し寄り道しようかなって。」あっきぃが言う。
「バスケ部、まだ体育館いるし。」
――その瞬間。
ちぐさの胸の奥が、*きゅっと締まった。*
理由はわからない。
でも、行かなきゃいけない気がした。
「……僕も、行っていい?」
あっきぃがすぐ笑う。
「もちろん!一緒行こ!」
らおも、短くうなずく。
「俺も。」
あっとは少し考えてから言った。
「……俺たちも、途中までなら。」
けちゃがぱっと顔を上げる。
「ほんと?やった!」
体育館へ向かう廊下。
並んで歩く足音が、自然とそろう。
ちぐさは、歩きながら小さく呟いた。
「……最近、変な夢を見る。」
らおが反応する。
「夢?」
「うん。知らない場所で、知ってる声がする。」
「どんな声?」
ちぐさは少し考えた。
「……懐かしい、音。」
あっとが、ふと口を開く。
「……懐かしい、か。」
視線は前を向いたまま。
「それは、忘れてたものかもしれない。」
ちぐさは驚いて、あっとを見る。
「……そう、なの?」
「わからない。」
あっとは正直に言った。
「でも、俺もたまにある。」
けちゃが首をかしげる。
「え?あっちゃんも?」
「……たまにね。」
あっきぃが笑う。
「なにそれ!みんなで謎じゃん!」
その声に、少し空気がゆるむ。
でも――
ちぐさだけは、感じていた。
この時間が、
このままではいられないこと。
体育館の扉が見えてくる。
その向こうから、
ボールの音と、笑い声。
現代の、日常。
それなのに。
――胸の奥で、何かが*目を覚まそうとしている*。
ちぐさは、知らず拳を握った。
(……もうすぐ、思い出す)
理由も、意味も、まだわからない。
けれど確かに。
*風は、もう戻れない方向へ吹き始めていた*。
オカ( ゚д゚)エリ
またね