目黒side
俺は、「好き」って言うのを、やめた。
正確に言えば、
言わないことに決めた。
これ以上伝えても、
きっと佐久間くんには届かない。
それが、やっと分かったから。
今までの恋は、
欲しいと思えば、手を伸ばせば、
だいたい手に入った。
なのに——
佐久間くんだけは、違った。
笑って、
触れて、
無邪気に返してくるくせに。
その全部が、
恋の入口にすらならない。
(……初めてだ)
「手に入れたい」なんて、
人生で初めて、はっきり思った。
だからこそ、
ここで踏み込むのが怖くなった。
壊したくない。
失いたくない。
その結果が、
「好きって言うのをやめる」だった。
⸻
YouTubeの撮影中。
佐久間くんが隣にいる。
いつも通り、距離は近い。
「蓮!これ見てよ!」
画面を覗き込む佐久間に、
肩が触れそうで触れない。
目黒は、
一瞬だけ視線を落としてから、
何事もない顔で笑った。
「はいはい」
軽く、
冗談めいたトーン。
ファンが喜ぶ、
ちょうどいい距離感。
コメント欄は、案の定だ。
——めめさく最高♡
——距離感バグってる
——仲良すぎでは?
(……それでいい)
そう思う反面、
胸の奥が、じわりと痛む。
アプローチは、やめたはずなのに。
カメラが回っていると、
どうしても視線が追ってしまう。
名前を呼ぶ。
隣に立つ。
話を振る。
触れない。
でも、離さない。
それはもう、
無意識の独占だった。
⸻
ライブでも、同じだった。
立ち位置が近いわけじゃないのに、
気づけば佐久間の動きを追っている。
MCで笑う顔。
ファンに手を振る仕草。
(……取られるわけないのに)
それでも、
胸の奥に黒いものが溜まる。
触れていないのに、
独占欲だけが、露わになる。
事故みたいに。
ファンは喜ぶ。
「めめが佐久間くん見てる!」
そんな声が、SNSに溢れる。
でも、
その中で一人だけ、
空気の違いに気づいていた。
深澤だった。
(……あれ?)
楽屋で、
モニターを見ながら、
ふと目を細める。
(前より、重いな)
距離は近い。
でも、踏み込まない。
触らない。
でも、離さない。
(これ、諦めてる顔じゃねえな)
深澤は、
何も言わなかった。
ただ、
目黒の背中と、
何も知らずに笑う佐久間を、
交互に見ていた。
(あー……これ)
(めめ、完全に詰んでる)
⸻
一方、佐久間はまだ、
その意味に気づいていない。
でも、
最近、ふと思う。
(蓮、優しいけど……前と違う)
距離は変わらないのに、
温度が、少し下がった気がする。
それが、
なぜか、
少しだけ、寂しい。
理由は、まだ分からない。
ただ——
蓮が 「好き」って言わなくなったことだけが、
胸に引っかかっていた。






