「寄らないでよ……」
そいつに、あたしは低く言い放った。
その、普段のステージで愛想を振りまいている七瀬リオからは、たぶん想像もつかないだろうあたしの凄味に、そいつがひるんで、ピタリと動きを止める。
「あたしは、あなたのものなんかじゃない。
誰が、あなたなしじゃ、生きていけないって?
バカにしないでよ……」
言いながら、そいつが突きつけるナイフの刃を、あたしは片手でグッと強くつかんだ。
刃先を握りしめた手から、程なくして血がポタポタとこぼれ出すと、
「ギィアァーーーーー!」
不意にそいつが、化け物じみた気味の悪い叫び声を上げた。
「リ、リオちゃんが……!
リオちゃんが、血を……!
そんなっ、そんな……うっ…ウギャアーーーッ……!!」
そいつの狂ったような絶叫は、けたたましいサイレンのように、夜の街中に響き渡った。
驚いた周辺の人たちが何人も駆けつけ、やじ馬を含んだ多くの群衆に、ひるんだ男が逃げようとするが、あっという間に取り囲まれ、
そうして、近隣からの通報で到着した警察に、あっさりと捕まることとなった。
警察と同時に救急車も現れ、あたしが切れた手を搬送先の病院で処置をしてもらってる間に、各メディアに第一報として、「七瀬リオが、ストーカーに襲われた」ことが、速報で流れていた。
事務所は、私のケガを体《てい》よく心配しながらも、
「この事件は、名前を広めるいいチャンスになる」
と、したり顔で話して、
「おまえはインタビュアーに何を聞かれても、悲しそうにだけしていればいいから」
そうあたしに言い含めた。
「悲しげな表情さえしていれば、必ず視聴者の同情を引けるはずだから」
と──。