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YAMATO
824
#ほのぼの
#大人の恋
E―さん
29
「もちろん、今も角実屋から逃げたいわけじゃない。会社での責任を放り出したいわけでもない。でも」
晴永は静かに続けた。
「瑠璃香を諦めるくらいなら、俺はそっちを捨てるつもりだった」
瑠璃香が息を呑むのを見て、晴永は苦く笑った。
「……かなり無茶苦茶なこと言ったと思う。でも、本気だ」
「兄さん、そういうトコ、昔から極端なんだよ」
晴留が呆れたように肩をすくめる。
「ゼロか百か、みたいな考え方するから」
「お前もだろ」
「俺はもうちょいバランス感覚あるよ?」
「どこがだ」
思わず返した晴永に、晴留が小さく笑う。
そのやり取りに、張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩んだ。
だが次の瞬間、良介が静かに口を開いた。
「でも、お兄さんの言いたいことは分かる気がするなぁ」
全員の視線が良介へ向く。
「僕には経験がないから推測でしかないんだけど……そういう立場の人って、どこかで個人の感情を後回しにしちゃうところがあるんだろうね。チィでさえそういうところがあるもの」
良介は真っ直ぐ晴永を見た。千紗が、〝チィでさえ〟というところで一瞬だけ、軽く良介を睨んだけれど、場の空気を察して口を開かなかった。
「だから逆に、一度腹を括るとさ、全部投げ出す勢いになるんだろうね。中途半端な覚悟じゃ押し潰されるって分かってるから」
晴永は何も言えなかった。
良介の言葉は、驚くほど正確だった。
生半可な気持ちでは駄目だと思った。
瑠璃香を選ぶなら、全部失う覚悟が必要だと思った。
だからあの時、自分は祖父にそう告げたのだ。
「……でも」
千紗がぽつりと言う。
「私は、そこまで言えちゃうの、ちょっと羨ましいかも」
「藤井田さん?」
「だって、好きな人のためにそこまで覚悟決めるのって、なかなか難しいじゃない」
千紗は困ったように笑った。
「もちろん巻き込まれた側としては、複雑だけどね?」
「……本当にすまなかった」
「謝ってほしいわけじゃないわ」
千紗が小さく肩をすくめる。
「私だって、良介と付き合うことになった時点で、ちゃんと動いておけばよかったのよ。許嫁の話なんてとっくに時効だと思ってたから、なぁなぁのまま面倒で放置してたし」
「チィ」
「ごめんね、良介。――でも今回ので、はっきり分かったわ。もう曖昧なままじゃ駄目なんだって」
千紗はそこで、一度良介を見た。
「私、自分の人生を家に決められるの、もう嫌」
「なに言ってるの、チィ。……そんなこと、決めさせないよ?」
良介が千紗の嘆きを聞いて、あっさりと言った。
「少なくとも僕は、チィの人生をそんなものに決めさせる気はないから」
「良介……」
「チィがしたいって言うなら、僕はチィの選択を全力で守るつもりだから」
その声は静かだった。
だが、確かな意志があった。
「……ありがとう、良介。……私、新沼さんとのことも、良介とのことも、全部ひっくるめて、ちゃんと自分で選びたい」
「うん」
コメント
2件
はるながくんも良介くんもかっこいいぞ。
わあ〜〜今回も熱すぎた!!😭💕 晴永先輩の「瑠璃香を諦めるくらいなら全部捨てる」って覚悟、重くて尊すぎる…! 晴留くんが「ゼロか百か」ってツッコむのも、でも良介くんが「腹括ると全部投げ出すんだよね」って理解してるのもグッときた!! 千紗ちゃんの「自分の人生を家に決められるの嫌」って言葉、すごくリアルで心に刺さったよ…。良介くんがすぐに「決めさせない」って言ってくれてホッとした〜🥺 みんなが「自分の選択」を大事にしてるところがもう素敵すぎる…次の話も楽しみすぎる!!⋆♡