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#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第120話:台風接近の予報。VIPたちの帰還と置き土産
世界経済のトップVIPたちと泥にまみれ、笑い合い、そして涙した『秘密の収穫祭』から一夜明けた朝。
十勝の限界集落を包む空気は、昨日までの抜けるような初夏の晴天から一転し、どこか重苦しい湿気を帯びていた。
古民家の居間に置かれた古いブラウン管テレビ(地デジチューナー接続済み)からは、緊迫した声のアナウンサーがニュースを読み上げている。
『――現在、非常に強い勢力を持つ大型台風15号が北上中です。明日の夜半には、北海道十勝地方に上陸し、観測史上最大級の暴風雨をもたらす恐れがあります。厳重な警戒をお願いします』
「うわぁ……。テレビの天気図、日本列島がすっぽり隠れるくらい真っ赤ですよ、お兄さん」
小春ちゃんが不安そうにテレビ画面を見つめている。
「ああ。等圧線の間隔が異常に狭い。強烈な暴風になるぞ。陸上自衛隊『需品科』として、直ちに陣地の防御態勢(台風対策)を構築しなければならない」
俺が腕組みをして防衛ロジスティクスの計算を始めていると、昨日までジャージ姿で泥んこ遊びをしていたVIP二人が、血相を変えて居間に飛び込んできた。
彼らはすでに、ビシッとした最高級のスーツと純白のカンドゥーラに着替えていた。
「マスター(主)! ニュースを見たぞ! この奇跡のサンクチュアリ(聖域)が台風の直撃を受けるというじゃないか!」
「私たちも残って防衛戦を手伝う! SP部隊に命じて、今すぐマイバッハの車列で古民家の周囲に防風壁(バリケード)を築かせよう!」
彼らの本気すぎる提案に、SPたちが「ボス、それはいくらなんでも……」と泣きそうな顔をしている。
俺は真顔のまま、彼らの前に立ちはだかり、首を横に振った。
「気持ちはありがたいが、却下だ」
「な、なぜだマスター! 私たちもこの聖域の『仲間』だろう!?」
「仲間だからこそだ。俺の兵站(ロジスティクス)計算において、非戦闘員であるあんたたちを守りながら暴風雨を乗り切るリソースはない。真の友ならば、俺たちの憂いを断つために、最速で安全圏(自国)へ撤退してくれ」
俺の需品科流の冷徹だが確かな気遣いに、二人のVIPはハッと息を呑み、そして深く頷いた。
「……わかった。マスターのロジスティクスを邪魔するわけにはいかないな」
「必ず生き残れよ、我が友。そしてシロ様……」
銀行家と石油王は、縁側で香箱座りをする神獣シロの前に跪き、恭しく頭を下げた。
『ミャウ(気をつけて帰りなさいな)』
シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を優しく細め、前足を伸ばして彼らの額にポンと触れると、二人の目から再び大粒の涙がこぼれ落ちた。
「キュンッ!」「コンッ!」と別れを惜しむキツネ兄弟に頬ずりをし、彼らは名残惜しそうに黒塗りのマイバッハに乗り込み、トカチ・オビヒロ空港へと向けて走り去っていった。
それから丸一日が経過した、翌日の昼下がり。
空は完全に鉛色の雲に覆われ、いよいよ台風の接近を知らせる強風が吹き始めていた。
俺と小春ちゃんは、窓ガラスに段ボールと養生テープを貼り、飛ばされそうな農具をすべて物置に格納する作業を終えていた。
「よし、これで第一種防衛態勢の構築は完了だ。あとは――」
俺が最後の確認をしようとした、その時だった。
ババババババババババッ!!!
突然、上空から古民家が揺れるほどの凄まじい爆音が鳴り響いた。
「きゃあっ!? な、なんですかお兄さん! 台風の風の音じゃないですよ!」
小春ちゃんが耳を塞いでしゃがみ込む。
俺が庭に飛び出すと、鉛色の空を引き裂くようにして、タンデムローターを持つ巨大な『軍用大型輸送ヘリ(民間仕様カラー)』が、我が家の庭の真上でホバリングしていた。
「なっ……チヌーク級の大型ヘリだと!?」
ヘリの下部から太いワイヤーが降ろされ、庭のど真ん中に、巨大な迷彩柄のコンテナがズシンッ!と地響きを立てて投下された。
コンテナを切り離したヘリは、あっという間に強風の空へと飛び去っていく。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master! I sent a little care package for the typhoon! Survive!“(主よ! 台風のためのささやかな差し入れを送ったぞ! 生き延びてくれ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Don’t worry about power outages! We sent a military-grade generator!“(停電の心配はいらない! 軍事基地レベルの発電機を送っておいた!)』
俺は嫌な予感しかしないまま、庭に投下されたコンテナのロックを外した。
プシュゥゥゥ……。
重厚な扉が開くと、そこには、中規模の都市の電力を丸ごと賄えるサイズの『超大型ディーゼル発電機(チタン装甲仕様)』と、軍用の高カロリーレーション(一年分)、そして衛星通信用の巨大パラボラアンテナが鎮座していた。
「……………………は?」
「お、お兄さん! なんですかこれ! ささやかな差し入れってレベルじゃないですよ! 完全に独立国家の軍事基地作る気じゃないですか!!」
小春ちゃんがコンテナの中身を見て悲鳴を上げた。
ジンバル越しのiPhone miniの画面では、一千万人のリスナーも、圧倒的な資本の暴力に腹を抱えていた。
『ささやかな差し入れ(中規模都市用発電機)』
『軍事基地レベルの物資を輸送ヘリで投下ww』
『台風対策の規模がハリウッド映画なんだよww』
『主の古民家、マジで核戦争起きても生き残れそう』
強風が吹きすさぶ庭のど真ん中で、俺は深く、深くため息をついた。
「……まったく、余計な兵站を増やしてくれやがって。だが、もらった物資は最大限に活用するのが需品科の鉄則だ」
俺は発電機のセットアップを早々に済ませ、縁側に戻って自分の昼食のタッパーを開けた。
台風の脅威が迫り、庭に軍事基地レベルの物資が投下されるという超絶カオスな状況。
だが、俺の勝負メシは、今日も一切ブレることはない。
完璧な水加減で炊き上げられた『玄米』と、自家製の『大豆ミートのハンバーグ風(和風おろしソース)』である。
「お兄さん……庭に軍事用ヘリからコンテナ落とされてるのに、落ち着いて大豆のハンバーグ食べてる場合ですか……」
「当然だ。いかなる極限状況下においても、大豆由来の良質なタンパク質と玄米のビタミン群を摂取し、平常心を保つ。これこそが最強の防衛策だ」
俺は真顔で玄米を頬張り、大根おろしのさっぱりとした風味が絡んだ大豆ミートの旨味を噛み締めた。
プチプチとした玄米の食感が、台風前のピリピリした神経を心地よく鎮めてくれる。
腹を満たした俺は、温かいほうじ茶を一口飲み、キリッとした真顔でiPhone miniのカメラの前に立った。
「皆さま。庭に投下されたあの巨大な機械ですが、あれは決して軍事基地レベルの発電機などではありません」
『出たァァァァァ!!!』
『この軍用ヘリ投下の超絶カオスをどう言い訳する気だww』
『主の限界言い訳タイム・台風直前スペシャルww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「あれは、地元のホームセンターが実施している『夏の防災キャンペーン』の試供品(お試しレンタル)です。最近は物流業界のドライバー不足を解消するため、ドローンやヘリコプターを使った空中配達の実証実験が行われているのです。ええ、ただの『地元企業の企業努力』と『次世代物流のテスト』が重なっただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、台風対策用の養生テープの芯で、俺の頭にパーフェクトなツッコミを見舞った。
「ホームセンターのお試しレンタルをチヌークヘリで落とす企業がどこにあるんですか!! 中に入ってるの軍用のレーションですよ!! どう見ても石油王さんたちのガチすぎる置き土産でしょうが!! 素直にVIPの財力の暴走を認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの養生テープ芯スマッシュ炸裂ww』
『ホームセンターの試供品(チタン装甲仕様の超大型発電機)』
『次世代物流のテスト(軍用大型輸送ヘリからのパラシュート投下)』
『適応力バグおじさん、ついに軍用物資投下までホームセンターのせいにするww』
『言い訳のスケールがバグりすぎてて一生笑えるww』
俺の理不尽極まりない限界言い訳と、小春ちゃんの鋭いツッコミに、台風の緊張感は一瞬にして大爆笑の渦へと吹き飛ばされた。
『ミャウ(これで停電しても、私のヒーターは止めなくて済むわね)』
シロが、巨大な発電機を見て満足げに喉を鳴らす。
「まぁ、理由はどうあれ。これで我が陣地の電力と通信網は、絶対的に守られた」
俺は苦笑いしながら、空になった玄米のお椀を置き、風の強まってきた鉛色の空を見上げた。
どんな暴風雨が来ようとも、この『世界最強の兵站』と、ブレない俺のストイックな食生活、そしてもふもふ達の癒やしがあれば、絶対に乗り切れる。
限界集落に降り立つ、世界一バグった台風防衛戦。
その幕開けは、VIPたちの愛とカオスに包まれながら、最高に騒がしく始まろうとしていた。
コメント
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よかった! 第120話、読み終わったわ。もうね、冒頭の台風予報からして「これは何かやらかすぞ」って予感がビンビンしてたんだけど、まさかVIPたちが軍用ヘリで発電機とレーション投下してくるとは思わなかったわ(笑)。「ホームセンターの試供品」って言い張る主人公の適応力も異常だし、小春ちゃんの養生テープ芯スマッシュも炸裂してて面白かった。シロがVIPを祝福するシーンも良かったな。台風前の重い空気を吹き飛ばすカオスさ、めっちゃ好きよ。続きも楽しみにしてる!