そのあと、私は総務部の彼女たちの事は気にしないようにし、恵と明日の女子会について楽しく話した。
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翌日は暖かかったので、私はキャミソールの上に透け感のある白のギャザーブラウスを着て、ベージュのチノパンを穿いた。
「貴族か!」と突っ込みたくなるほど袖にボリュームがあるので、ボトムスはシンプルにする。
メイクは春っぽくピンクやオレンジのアイシャドウにし、ゴールドのラメを少し散らす。
目元やチークは薄めナチュラルにして、リップは少し主張した、春っぽいジューシーな青みピンクにしておいた。
「支度できたか?」
白Tにデニム姿の尊さんは、リビングに現れた私を見て車のキーを手にする。
「本当に送ってもらっていいんですか? 昼間だし、交通機関でも全然……」
今日、尊さんは家でも仕事の書類を読んだり、あれこれしなければならないらしく、そんな多忙な彼に送ってもらうのは気が引ける。
というか、一人で遊んで申し訳ない。
二十分ぐらいの道のりとはいえ、それだけあったら休憩できるのに……とも思ってしまう。
「こんなに可愛くて綺麗な朱里を見て、変な気持ちになった男が群がったら大変だろうが」
「うーん……、褒めすぎな気もするけど……」
「先日の今日だし、当面大人しく送らせてくれ」
ポンと頭を撫でられて「ん?」と顔を覗き込まれた私は、小さく頷いた。
これ以上尊さんに心配をかけたくない。
どこへ行くにも送ってもらうのは申し訳ないけど、それで安全が守られるなら、好意に甘えよう。
「じゃあ、お願いします」
ペコリと頭を下げると「ん」と抱き締められた。
「せっかくの女子会だから、たっぷり遊んで息抜きしてほしいけど。…………なるべく早めに帰ってこいよ」
尊さんは耳元で囁き、カプッと耳の上側を甘噛みした。
「っひぁ……っ」
ビクッとした私は、とっさに尊さんのTシャツを握って縋り付く。
彼は少しの間、私の耳を舐めてフッと息を吹きかけていたけれど、十分私をいじめて満足したあと「さて」と言って解放した。
「……………………ドS…………っ」
私は真っ赤になって耳を押さえ、上目遣いに尊さんを睨む。
「お前が誰のものか、マーキングしておいたんだよ」
ニヤッと笑った尊さんは、背中を丸めて私の耳元で囁いた。
「言っとくけど、彼女たちが相手でも俺は妬くからな」
「っ…………、うぅ……」
プルプル震えていると、トンッと背中を叩かれた。
「帰る時は尻尾をピンと立てて、猫まっしぐらな」
「だから猫じゃありませんっ」
怒ったふりをすると、尊さんは軽やかに笑い、「行くぞ」と玄関に向かった。
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今回の女子会ランチは中華らしく、行き先はマンダリンオリエンタル東京だ。
近くまで車に乗せてもらった私は、サッと降りて尊さんに手を振り、彼の車を見送った。
現地集合なので私はそのままエレベーターに乗り、三十七階にあるレストランに向かった。なお、メインロビーは三十八階らしい。
(うう……、雰囲気が……)
三十七階には他の飲食店も入っていて、さすがラグジュアリーホテルのメインダイニングなだけあって、雰囲気がある。
中華レストランがあるほうへ向かうと、地模様のついた赤い壁の前に高価そうな壷が飾られ、突き当たりの黒い壁には額縁と人が入れそうなどでかい黒い壷が置かれてある。
自然と足音を忍ばせてしまった私は、おっかなびっくりお店を覗き込んだ。
すると「いらっしゃいませ」と女性スタッフに声を掛けられ、恐る恐る「十二時に予約している三ノ宮さんの連れですが……」と言うと、にこやかな彼女に個室に連れて行かれた。
「いらっしゃーい!」
スカイツリーが見える個室に入ると、すでにシャンパンを飲んでいる春日さんが明るく挨拶をした。
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