空が突如として暗くなり、大地が震えた。タクトとマデスがその異変に気づく前に、目の前に現れたのは、圧倒的な存在感を放つ一人の男だった。その姿は、まるで神々が恐れた存在であるかのように、空間をねじ曲げるかのように現れた。
「お前が、リリスを抑えた者か。」その声は深く、耳に響いた。
タクトはその声に震えながら振り向くと、目の前に立っていたのは…ルシファー。彼が降臨したのだ。
「ルシファー…?」タクトは口の中で呟き、恐怖と共に存在を感じ取った。だが、タクトは恐怖を飲み込み、意識を引き締めた。
「リリスが…お前の体に宿っているというのは、私にも届いていた。」ルシファーは冷徹に言った。
「だが、そんな者に支配されるリリスを、私は許せない。」
その言葉と共に、ルシファーの手が空中で微かに震えた。周囲の空気が一気に変わり、何かが削ぎ取られるような感覚が広がる。
「…お前の体は、私のものにしてやる。」ルシファーは冷徹に告げると、瞬時にその手がタクトの体に触れ、彼の肉体の一部を切り取った。痛みが走り、タクトは思わず呻くが、体の一部が抜け取られる感覚には耐えきれなかった。
そして、その切り取られた部分は、何もない空間を越えて、別の場所へと転送される。その場所は、タクトがかつて見たことのある部屋…総理官邸だった。
その瞬間、タクトの切り取られた肉体の一部は、総理大臣の部屋に転送され、ひと際不気味な光を放ち始めた。周囲の人々は何も気づかなかったが、総理が椅子に座っていたその時、突如として目の前に現れた異変に驚いた。
総理がその光を目の当たりにした瞬間、まるで何かに引き寄せられるように、身体が異常な力に包まれる。そして、その力は、総理の体に完全に受肉し、リリスの力がその肉体に宿る瞬間だった。
「…私は、もう完全な存在ではない。だが、この体を通じて、再び帰ってくる。」リリスの声が、総理の口を通じて響いた。
総理は何か不気味な笑みを浮かべた。
「私の主、ルシファー様。これで、完全に復活しました。」総理の口から放たれるその言葉は、ただの政治家としてのものではなかった。そこには、リリスの意志が宿り、彼の体を使って新たな力を得たかのように見えた。
一方、タクトはその出来事を、肉体的な痛みと共に感じ取っていた。ルシファーが自分の体の一部を奪い、そしてそれを総理に受肉させるという行動には、意味があったのだろうか?タクトの心には、激しい疑問と混乱が渦巻いていた。
「リリスが、総理の体に宿った?」タクトは自分に問いかけながら、辛そうに息をする。「これが、リリスの本当の力か…?」
だが、すぐにその疑問を払拭するように、ルシファーの声が再びタクトの耳に響いた。
「お前は、今までのようにリリスの意志を引き継ぐ者として生きるべきだ。だが、そうすることでお前の命もまた、私の手のひらの上に乗る。」ルシファーは冷たく告げた。「お前の体がどうなろうと、私はお前に選択の余地を与えない。」
タクトはその言葉を胸に刻み込むように、冷たい汗を流しながら立ち上がった。そして、彼の中にリリスの力が残っていることを強く感じ、再びその力を振るう決意を固めた。
タクトは力強く歩き出し、前を見据えた。ルシファー、そしてリリスの新たな力。それらがタクトを試し、彼を変えようとしている。しかし、タクトはまだ諦めなかった。
「俺は…俺の道を行く。」タクトは静かに呟いた。その言葉には、強い意志と決意が込められていた。
「リリス、俺の中でお前の力を使うつもりはない。だが、俺が戦い続ける限り、お前も俺とともに存在することになる。」タクトは自分の中でリリスと向き合う決意を固めた。
マデスもまた、その言葉を聞いてうなずいた。「お前がどう決めるかが、この戦いを決定づけるんだな。」
そして、二人は次なる戦いへと進み始めた。
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