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しらすのお部屋
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レウコイドが、ゆっくりと病室に現れる。
赤い光が揺らめく。
白いモヤが、床を這うように広がっていく。
空気が重く、息が詰まる。
レウコイドの声が、低く響いた。
「宝生永夢――」
その名を、なぞるように呼ぶ。
「感謝するぞ」
永夢の肩が、小さく震える。
「お前の命と引き換えに」
「これから俺は完全体となる」
一歩、近づく。
足音がやけに大きく響く。
「そして――」
その瞬間。
「やめろ!!」
パラドが割り込んだ。
永夢の前へ出る。
庇うように、腕を広げる。
「それ以上、永夢に近づくな!」
鋭い声。
だが。
レウコイドは、わずかに視線を向けただけだった。
「邪魔だ」
次の瞬間――
ドンッ!!
衝撃が弾ける。
「っ――!!」
パラドの体が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられる。
鈍い音。
そのまま床へ崩れ落ちる。
「がっ……!」
息が詰まる。
すぐに起き上がろうとする。
だが――
体が、動かない。
「……くそ……っ……」
指先だけが、わずかに動く。
レウコイドは、何事もなかったかのように永夢へ向き直る。
「そして――」
言葉を、続ける。
「これから全世界の人間が、苦しみながら滅びていく」
永夢の瞳が、揺れる。
「……っ……」
レウコイドは、さらに言葉を重ねる。
「子どもも、大人も関係ない」
「病に侵され、助けを求めながら」
「ゆっくりと、確実に死んでいく」
一歩、また一歩。
ベッドへ近づく。
「そのすべてが――」
わずかに、口元が歪む。
「お前のせいだ」
その時――
「聞くな!!」
床に倒れたまま、パラドが叫ぶ。
「お前は何も悪くない!」
声だけが、響く。
「永夢!」
必死に呼ぶ。
「そいつの言ってることは全部嘘だ!」
――一瞬。
空気が、張り詰めた。
だが。
レウコイドが、ゆっくりと口を開く。
「嘘?」
その言葉と同時に。
視線が、わずかに逸れる。
倒れているパラドへ。
「……まだ喋るか」
低く、呟く。
次の瞬間――
レウコイドの腕が、無造作に振られた。
ドンッ!!!
衝撃が、空気を裂く。
「っ――!!」
パラドの体が跳ね上がる。
床を滑り、反対側の壁へ叩きつけられる。
鈍い音。
「が……っ……」
短く、息が漏れる。
指先が、わずかに動く。
だが。
そこで、止まった。
「……え……む……」
かすれた声。
それが最後だった。
パラドの体から、力が抜ける。
完全に、動かなくなる。
静寂。
レウコイドは、興味を失ったように視線を戻す。
「邪魔が消えたか」
何事もなかったかのように。
再び、永夢へ向き直る。
「俺が言っていることは――すべて事実だ」
一歩、踏み出す。
「現実から目を逸らすな」
「……っ……!」
呼吸が止まりそうになる。
「お前がいなければ」
「お前があの時刺されなければ」
静かに、言い切る。
「こんなことにはならなかった」
「宝生永夢」
「お前が、世界を滅ぼすんだ」
「……ぼく……が……」
声が、震える。
否定したいのに。
言葉が、出ない。
頭の中で、声が反響する。
――お前のせいだ。
――世界が滅びる。
「……ちが……」
否定したいのに。
だが――
頭の中に、次々と浮かぶ。
患者たちの顔。
病院の人たち。
仲間たち。
そして――
まだ会ったこともない、無数の人間。
子ども。
街を歩く人たち。
そのすべてが。
自分のせいで。
全部が――崩れていく。
「……いやだ……」
指が、シーツを掴む。
「そんなの……いやだ……」
「見ろ」
レウコイドの声が、突き刺さる。
「自分がどれだけの命を奪う存在になるのか」
「そして」
「これから奪う命を」
「……っ……!!」
心が、軋む。
ドクン
ドクン
ドクン
心臓が、暴れる。
「ぼくが……」
呼吸が、崩れる。
「ぼくのせいで……」
パチッ――
腕が、揺らぐ。
「……っ……!」
ノイズが走る。
存在が、崩れ始める。
「……誰かが……死ぬなんて……」
声が、途切れる。
「……いやだ……」
光が弾ける。
パチパチパチッ――
体が、ほどけていく。
涙が滲む。
「……ぼくは……」
震える声。
「医者なのに……」
「守らなきゃ……いけないのに……」
――なのに。
守れない。
むしろ、奪う側になる。
その瞬間――
「――あああああああっ!!」
叫びが、病室を裂いた。
体が大きく反り返る。
ゲーム病の反応が、今までで一番強く弾けた。
弾けたゲーム病の光が、壁や床に反射し、粒子のようなノイズが空間に散る。
叫び声は止まらない。
「――あああああああああっ!!」
その声は、病室の壁を越え、廊下へ。
そして――
CRの外へと、響き渡った。
――その瞬間。
「……っ……!」
床に倒れていたパラドの指が、ぴくりと動く。
かすかに、息を吸う。
「……え……む……」
途切れかけた意識の中で、その叫びだけがはっきりと届く。
「……っ!!」
目が、開かれる。
次の瞬間。
パラドは無理やり体を起こした。
「永夢!!」
ふらつく足で、よろめきながらも駆け出す。
痛みなど、意識にない。
ベッドへ辿り着く。
そして――
「おい……永夢……!」
肩を掴む。
だが、反応は弱い。
永夢は浅い呼吸を繰り返す。
その時。
レウコイドが、わざとらしく口を開いた。
「聞こえるか、宝生永夢」
低い声。
確実に、“届くように”。
「お前はここで壊れていく」
「俺が完全体になるのも時間の問題だ」
一拍。
「その間に――」
わずかに笑う。
「まずは、あの医者たちを潰す」
「……っ……!」
永夢の指が、びくりと動く。
呼吸が、乱れる。
レウコイドは続ける。
「お前が死にゆく間に」
「仲間は、一人ずつ消えていく」
静かな宣告。
「……や……め……」
かすれた声が、漏れる。
パラドが顔を上げる。
「おい、お前……!」
だが、レウコイドはもう興味を失っていた。
「さて」
背を向ける。
「時間だ」
赤い光が揺らぐ。
「どこまで耐えられるか、見ものだな」
次の瞬間。
体が宙へ浮く。
バキィッ!!
病室の壁を砕き、外へ飛び出した。
――静寂。
残されたのは。
荒い呼吸を繰り返す永夢と。
そのそばにいるパラドだけ。
「……永夢……!」
呼びかける。
強く、肩を掴む。
「しっかりしろ……!」
パラドの声が響く。