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――病院外。
吹き飛ばされたままの飛彩、大我、貴利矢。
三人は、荒い呼吸のまま動けずにいた。
静寂。
風の音だけが、わずかに響く。
その時――
「――ああああああああっ!!」
病院の奥から、叫び声が響いた。
「……!?」
飛彩が顔を上げる。
「あれは……!」
貴利矢の表情が強張る。
「エム……!?」
だが――
それきり、何も起きない。
静寂が戻る。
「……おい」
大我が低く呟く。
「今の……」
空気が、張り付くように重い。
――ミシッ……
病院の外壁に、亀裂が走る。
「……っ!?」
視線が集中する。
ヒビが、ゆっくりと広がる。
まるで――内側から押されるように。
そして。
バキィィッ!!
爆音と共に、壁が内側から吹き飛んだ。
コンクリート片が空中に散る。
白い煙が、外へ溢れ出す。
その奥から――
赤い光が、滲む。
「くっくっく……」
低い笑い声。
ワンテンポ遅れて、姿を現す。
レウコイド。
「いい声だ……」
煙の中、ゆらりと浮かび上がる。
「絶望の声というのは――」
一拍。
「実に甘美だな」
赤い光が脈打つ。
そのまま、ゆっくりと下降する。
焦らすように。
見せつけるように。
やがて、地面へ降り立つ。
コツン。
軽い音。
だがその瞬間、空気が沈む。
「さて――」
レウコイドの目が、三人を見下ろす。
「次は、お前たちだ」
赤い力が膨れ上がる。
「息の根を止めてやろう」
「……っ!」
飛彩が歯を食いしばる。
だが、体は動かない。
大我も拳を握るが、立ち上がれない。
貴利矢も、必死に体を起こそうとする。
しかし、身体が言うことをきかない。
じわじわと光が収束していく。
その時だった。
――コツ。
小さな足音。
レウコイドの背中側。
ゆっくりと近づいてくる。
コツ……
コツ……
全員の視線が、一斉にそちらへ向いた。
そして――
そこに、立っていた。
「……小児科医……?」
飛彩の声が、かすれる。
そう。
そこに居たのは。
永夢だった。
だが。
その姿は、あまりにも異様だった。
顔色は真っ青。
呼吸は浅く、肩がわずかに揺れている。
それなのに――
その目だけが、静かに光っていた。
まっすぐ。
迷いなく。
レウコイドを見据えている。
大我の表情が固まる。
「……おい……」
貴利矢も、言葉を失う。
「エム……?」
弱っているはずの体。
今にも倒れそうなはずの状態。
それなのに。
その場に立っているだけで、空気が変わる。
ぞくり、と背筋が冷えるような感覚。
飛彩の目が細くなる。
「……お前」
低く呟く。
「嘘だろ、その身体で……?」
永夢は、何も答えない。
ただ一歩、前へ出る。
その瞬間。
レウコイドが笑った。
「ほう……」
赤い目が細くなる。
「まだ動けたか、宝生永夢」
永夢は静かに口を開いた。
「……ああ」
その声は――
どこか、低く。
冷たい。
そして。
ほんの少し、楽しんでいるような響き。
「勘違いするなよ」
永夢の口元が、わずかに歪む。
「俺は――」
次の瞬間。
その目が、赤く光った。
「パラドだ」
レウコイドは、ゆっくりと永夢を見据えた。
赤い瞳が細くなる。
「そうか……」
低く、納得したように呟く。
「お前が、共生していたバグスターだったか」
その言葉に、永夢――いや、パラドの口元がわずかに歪む。
だが、何も答えない。
その視線の奥で――
一つの記憶がよみがえる。
ーー少し前。病室。
レウコイドの姿が消えた後。
砕けた壁の向こうから、外気が流れ込む。
白いモヤだけが、ゆっくりと残っていた。
その中で。
永夢の呼吸だけが、かすかに響く。
呼吸は浅く、速かった。
胸が大きく上下する。
体は小刻みに震え、指先は力が入らない。
「……パラ……ド……」
声はかすれて、ほとんど息のようだった。
パラドが顔を近づける。
「なんだ」
永夢は何か言おうとするが、言葉が出ない。
「……っ……」
喉が詰まる。
呼吸が乱れる。
それでも――
必死に、声を絞り出す。
「……このまま……じゃ……」
言葉の途中で息が途切れる。
「……みんな……が……」
胸が苦しい。
呼吸が追いつかない。
「……ぼく……は……いい……」
パラドの眉が深く寄る。
「……何言ってる」
永夢は小さく首を振った。
その動きさえ、辛そうだった。
「……だ、から……」
息を吸う。
うまく吸えない。
「……パラ……ド……」
視界が揺れる。
それでも、必死に言う。
「……ぼく……を……」
喉が震える。
「……のっと……って……」
その言葉に、パラドの目が見開かれる。
「……!」
永夢の体が、びくりと震える。
「……ムテキ……で……」
永夢は震える手を、ゆっくりと胸元へ動かした。
指先がうまく動かない。
何度も空を掴みそうになりながら――
ようやく、ポケットの中のガシャットを掴む。
金色のそれが、かすかに光る。
だが、手は激しく震えていた。
「……あい……つ……」
永夢は、必死に腕を伸ばす。
ガシャットを――
パラドの方へ差し出す。
「……とめ……て……」
声は、ほとんど息だった。
震える手から、今にも落ちそうになるガシャット。
パラドは黙ってそれを見つめる。
そして――
そっと、永夢の手から受け取った。
永夢の指先は、力が抜けるようにシーツへ落ちた。
それでも。
永夢の目は、必死にパラドを見ていた。
その覚悟は、痛いほど伝わる。
パラドはしばらく黙ったまま、永夢を見つめる。
この体の状態で戦えば――
どうなるかは、分かっている。
それは、ほとんど死に向かうような選択だ。
だが。
永夢の意思は、揺らがない。
それは、パラドにもはっきりと感じ取れた。
「……分かった」
小さく、呟く。
そして、ふっと息を吐いた。
「ほんと、お人好しだよな……お前は」
永夢の肩に手を置きながら、苦笑する。
「……永夢」
その目は、どこか優しかった。
現在。
レウコイドの前に立つ永夢。
だが――
その目の奥に宿る光は。
宝生永夢のものではない。
パラドは小さく笑った。
「……まったく」
肩を軽く回しながら、呟く。
「お前は本当に無茶ばかりだな、永夢」
飛彩、大我、貴利矢は言葉を失っていた。
永夢の体。
だが、そこにいる存在は違う。
パラドはレウコイドを見据える。
その瞳に、鋭い光が宿る。
「だが――」
ゆっくりと一歩、前へ出た。
「約束だからな」
静かな声。
しかし、その場の空気が変わる。
戦場の空気が、張り詰める。
「お前は――」
パラドは、笑った。
「ここで俺が止める」
その瞬間。
パラドの手が、ゆっくりと上がる。
握られているのは――
金色のガシャット。
ムテキガシャット。
飛彩の目が見開かれる。
「……それは……!」
大我が低く呟く。
「おい……待て……」
貴利矢も息を呑む。
「……まさか、おまえ……」
パラドは、ガシャットを見つめた。
ほんの一瞬。
頭の奥に、声が響く。
――パラド……
かすかな声。
弱く、揺れる声。
「……永夢?」
ほんの一瞬だけ、パラドの目が細くなる。
――お願い……
――みんなを……
声は途切れそうだった。
それでも確かに、そこにある。
パラドは小さく息を吐いた。
「……分かってる」
その言葉に、飛彩の表情が強張る。
「待て、パラド!」
一歩、踏み出す。
「その状態で変身すれば――」
大我も低く言い放つ。
「確実に体がもたねぇ」
貴利矢が続ける。
「エムは今、戦える状態じゃない!」
一瞬の静寂。
パラドは、ゆっくりと三人を見た。
そして――
「……分かってる……!」
低く、はっきりと言い切る。
その目は、揺るがない。
「でも――」
ガシャットを強く握る。
「これは、永夢の意思だ」
一歩、踏み出す。
「俺は、それに応える」
その言葉に。
三人は、何も言えなくなる。
ベッドから起き上がることすら危うかった体。
戦える状態ではない。
それは、ここにいる全員が分かっている。
それでも。
飛彩が低く言った。
「……どこまで無茶をすれば気が済む」
大我が肩をすくめる。
「ほんと、救えねぇ患者だな……あいつは」
貴利矢は小さく笑った。
「……ったく。」
そして三人とも、前を向く。
止めない。
止められない。
それが、宝生永夢だからだ。
瀬月(setsu)
しらすのお部屋