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みと子…がんばれw
「女ゴコロを理解しようなんて、早い早い」
「みと子はまだ初心者だから、肉の申し子の気持ちは分からないわ……」
うなだれる尊さんがおかしくて、私はケラケラ笑う。
「飯食ったあと、二軒はジュエリーショップに行きたいけど、大丈夫か?」
「はい! お肉の分、誠心誠意をもって選ばせていただきます」
「……午前の部とやる気が違う……」
尊さんはガックリとうなだれ、手で額を押さえた。
その後、牡蠣をちゅるんと食べ、あっさりした赤身の多い肉をモリモリといただき、尊さんの「野菜食え」の圧を受けながらサラダを食べ、半分こしたチーズもペロリと完食する。
「はぁ~、映えうま~」
ニコニコしてアイスを食べている私を、尊さんはコーヒーをのみつつ、少し引いた目で見ている。
「中村さんが『化け物』って言ってたのがよく分かるわ……」
「なにをう、失礼な」
私は尊さんの分もミルクをもらい、コーヒーに入れてかき混ぜる。
「あぁ……、お腹いっぱい……。沢山悩んで頭を働かせて、消化しないと」
お腹をさすりつつ言うと、尊さんがびっくりして突っ込んできた。
「それで消化するのか!?」
「多分すると思います」
「しねぇよ」
尊さんはビシッと突っ込んだあと、大きめの溜め息をつく。
「…………神たちは驚くだろうな……。ツンとしたお澄まし美人と思ってるのに、蓋を開けたら胃袋がわんぱくな愉快な女だもんな……」
「なんて例え方をするんですか。可愛い彼女に向かって、もう……」
むくれてみせると、尊さんはテーブルの上にのっていた私の手に自分のそれを重ね、微笑んできた。
「食いしん坊も含めて、世界一魅力的な婚約者だと思ってるよ」
「む、むぅ……」
婚約者と言われ、私はむくれた顔をキープしようとして……、ニマァ……とにやついてしまう。
「体は正直だな」
そう言われ、私は目をまん丸に見開くと、他の客席のほうを見た。セ、セーフ……!
「ちょ、ちょっと。外で卑猥な事を言わないでくださいよ」
「じゃあ、顔面は正直って言ったほうが良かったか?」
「もう……」
私は下唇を出してむくれたあと、アイスを食べ終えてコーヒーを飲む。
「ちえりさん達へのお土産、どんな物がいいですか?」
「皆で食べられるデザート類がいいと思う」
「そうなんですか? お土産物って、生菓子系はあまり良くないかと思ってました」
結婚の挨拶に関するマナーをネットで調べたけれど、生菓子は相手の食べるタイミングが合わないかもしれないから、避けたほうがいいと書いてあった。
「場合により、だよ」
尊さんはそう言ってから、スマホを出して操作し、写真を見せてきた。
「これがちえり叔母さん」
「ん、どれどれ……」
身を乗り出して尊さんのスマホを覗き込むと、笑顔の集合写真がある。
「これが|裕真《ゆうま》伯父さん。五十七歳で『HAYAMI』の現社長。で、その息子の|貴弘《たかひろ》くんは副社長で三十四歳。専業主婦の奥さんが|菊花《きっか》さん、三十二歳。その長女の|心陽《こはる》ちゃん六歳、|愛菜《あいな》ちゃん四歳、|陽太《ひなた》くん二歳。こっちがちえり叔母さん。五十三歳で、ピアノ教室『|詩音《しおん》』グループの社長。……母は生きていたら五十五歳だ」
尊さんは一人ずつ順番に写真をピンチインして顔をアップにし、親戚を紹介していく。
今、名前は出なかったけれど、妹のあかりさんが生きていたら私と同じ二十六歳だ。
「で、こっちが|雅也《まさや》叔父さん、五十五歳。ちえり叔母さんの夫で、呉服屋『東雲』の社長。その長男の|大地《だいち》、三十歳。『東雲』の常務。長女の小牧ちゃんが小料理屋『こま希』をやってる二十九歳。次女の|弥生《やよい》ちゃんは母親のピアノ教室で講師をしてる二十七歳」
その写真には、さゆりさんが仲違いしたお祖母さんはいない。
尊さんがいる場で撮った写真なら、当然だろうけど。
「お祖父さんとお祖母さんは?」
尋ねると、尊さんはスマホをしまって苦笑いした。
「わかんね。二人とも子供と孫が俺と交流してるのは知ってるけど、黙認状態だ。ちえり叔母さん達は祖父母に俺の事を言わないし、逆に尋ねられる事もない。話題に出ても『元気にしてる』程度で、祖父母が何を言っていたかも言わない。……そもそも、何も言われてない訳だから、言いようがないんだけどな」
「なるほど……」
二十歳の尊さんは名古屋の本家まで行って祖父母の顔を見ようしたけど、結局会えず、自殺しようとした私に出会ったわけで……。