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「白い命の黒の果て」
“十三月のカルテ” のその後のストーリーです。
キヨ×レトルト
ご本人様達とは全く関係ありません。
全て私の妄想です
楽しんで頂けると嬉しいですヽ(*^ω^*)ノ
「……キヨくん、まだ来ないのかなぁ」
レトルトは真っ白な世界の片隅に座り込み、膝を抱えながらぼんやりと呟いた。
どこを見ても白。
空も、地面も、その先も。
境界すら曖昧で、どこまで続いているのかも分からない。
レトルトはあの夜を思い出していた。
キヨの歌声を背中に感じながら、渡ったキラキラと輝く光の橋。
本当は何度も振り返りたかった。
最後までキヨの顔を見ていたかった。
本当は一緒に渡りたかった。
手を繋いで、一緒に歌いながら、笑って。
でも、キヨが言っていた。
――絶対、振り返ったらダメだよ。
って。
だから我慢した。
ずっと前だけを見て歩いた。
歌いながら。
そして、渡りきった先には大きな門があって
それをくぐったら、 この真っ白な世界にいた。
「……遅いなぁ」
きっと今頃、死神終了の手続きとやらに時間がかかっているんだろう。
どうせキヨのことだ。
どこかで寄り道してるのかな。
面白そうなものを見つけると、すぐそっちに行っちゃうし。
もしかしたら、誰かと喋ってるのかな。
何度うるさいって怒っても1人でずっと喋ってたしな。
そんなことを考えて、ふっとレトルトは笑った。
白い世界には、レトルトの同じような人がたくさんいた。
笑い合う声が響いて、ふわふわと 浮いている様な心地よい場所。
どうやらここは――天国らしい。
「……なんで天国?」
最初は本気でそう思った。
人間だった頃の自分は、誰かのために生きたわけでもない。
人の役に立つようなことをした覚えもない。
毎日仕事をして、家に帰って、寝る。
ただそれだけ。
淡々と生きて、淡々と終わった人生だった。
最後の1ヶ月を除いては….。
なのに、どうして。
どれだけ考えても答えは出なかった。
だから考える事をやめた。
最初にここへ来た時、 レトルトは突然ひとり置いていかれたような気持ちになった。
さっきまで隣にいたはずなのに。
ずっと一緒にいたはずなのに。
ここにはキヨがいない。
胸の中がぽっかり空いたみたいだった。
喋りかけられても適当に返した。
それどころか冷たく言葉を切ることもあった。
そしていつも、この白い世界の端っこに座っていた。
誰とも関わらず、 ただ一人。
キヨを待っていた。
そんなレトルトに、周りの人たちは何度も優しく声をかけてくれた。
最初は鬱陶しいと思っていた。
放っておいてほしかったし、 キヨ以外と話す気なんてなかった。
でも、いつの間にか 少しだけ言葉を返すようになっていた。
レトルトも少しだけ笑うようになっていた。
「レトルト、また待ってるの?」
今日も声をかけられる。
レトルトは膝を抱えたまま、小さく頷いた。
「……うん」
「そのキヨってやつ、本当に来るのか?」
「後から来るって言ってたもん!」
レトルトは強く言い返す。
相手は困ったような顔で、
「でも、死神だったんだろ? そんな奴が天国に来れるのか?」
一瞬、 胸の奥がぎゅっと苦しくなった。
でも次の瞬間には、レトルトは顔を上げていた。
「来る! 絶対来る!」
思った以上に大きな声が出てしまい、 周りが少し驚いた顔をする。
(――キヨくんは絶対、嘘なんかつかない。)
心の中でそう言い切る。
だから今日も レトルトは白い世界の片隅で、愛おしい彼を待ち続けていた。
「ねぇ、キヨくん。早く来てよ。じゃなきゃ
キヨくんのこと忘れちゃうやん」
レトルトは今日も白い世界の隅で膝を抱えていた。
どれだけ待っただろう。
数日しか経っていない気もするし、何年も過ぎた気もする。
ここでは時間の流れが分からない。
朝も夜もない。
ただ白い世界だけがどこまでも続いていた。
「……不思議やな」
小さく呟く。
そういえば前にキヨが言っていた。
――時間の感覚がない。不思議な感じ。
あの時は何のことか分からなかったが、 今なら少しだけ分かる気がする。
時間が止まっているようで、進んでいるようで。
待っているはずなのに、何を待っているのか分からなくなりそうな感覚。
レトルトはぼんやりと、キヨとの会話を思い出していた。
そして同時に キヨと過ごした愛おしい日々も、ゆっくりと頭の中に浮かんでいった。
思い出せば思い出すほど、胸の奥がじんわりと熱くなった。
騒がしいゲームの時間。
くだらない会話。
毎日隣にいた気配。
あんな日々が自分に来るなんて思っていなかった。
ずっと一人で生きていくと思っていた。
なのにキヨは、勝手に隣に居座って
勝手に笑って
勝手に特別になっていった。
幸せだった。 本当に。
レトルトは唇を少し噛んだ。
「……キヨくん、逢いたいよ」
ぽつりと零れた声。
その瞬間、目の奥が熱くなった。
うっすらと浮かんだ涙が、白い地面へ静かに落ちた。
レトルトが下を向いていた、その時だった。
背後から聞き慣れた声が飛んでくる。
「おーい? レトルトー! なんだ? また泣いてんのか? 相変わらず泣き虫だなぁ」
振り返らなくても分かる。
いつも何かとレトルトを気にかけてくれる人だった。
レトルトは慌てて目元を擦る。
「べ、別に泣いてない!」
少し強めに返す。
すると後ろから、呆れたようなため息が聞こえた。
「あーあ、 せっかくいい話持って来たのに教えてやんねーぞ?」
からかうような声。
レトルトはぴくっと反応した。
「……ごめんて。 で、どんな話?」
勢いよく振り返る。
さっきまでの涙なんてなかったみたいに、少しだけ目を輝かせながら。
「レトルト、お前ここに来る時でかい門くぐっただろ?」
軽い調子の声に、レトルトは瞬きをした。
「……門?」
「そうそう。めちゃくちゃデカいやつ」
その人は白い空間の向こうを指さした。
「そこな、天国の入り口らしいんだよ。 来たやつは全員、絶対そこ通る」
レトルトはゆっくり思い出す。
あの夜。
キヨと一緒に歌いながら渡った、光の橋。
その先にあった、眩しいほどの白い門。
あれのことだろうか。
「……うん。通った」
ぽつりと答えると、相手はそれそれと頷いた。
「でさ、その門なんだけど」
少しだけ間を置いて、続ける。
「そこに門番がいただろ?」
軽い口調のまま、その人は続けた。
「その門番、定期的に変わるらしいんだよ。
で、もうすぐ交代の時期らしい」
レトルトは瞬きをした。
「……交代?」
「そうそう」
その人は笑う。
「お前、やってみたら?」
少しだけ声がやさしくなる。
「そこならさ、お前が待ってる“キヨ”ってやつが来たら、すぐ分かるじゃん」
その言葉が落ちた瞬間 レトルトの胸の奥が、ぱっと明るくなった。
そこに立っていれば キヨが来た時、すぐ分かる。
今までただ待つことしかできなかった自分が
“迎えに行ける側”になる。
「やる!!!」
迷いはなかった。
いつも寂しそうに俯いていたレトルトの目が
キラキラと輝き始めた。
続く
コメント
4件

続編って単語だけで泣きそうになりました。 続き楽しみすぎる🤦♀️ レトさん、キヨに会えるかな…🥲︎

まさかこんなにはやく続編を書いてくださるなんて、!!楽しく読ませていただきます!!