テラーノベル
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2話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
「どこに行けば門番になれるの?」
レトルトは身を乗り出すように聞いた。
さっきまで隅で膝を抱えて、しょんぼりしていたは思えない程に。
そのあまりの変わりように、相手は目をぱちぱちさせる。
「た、多分…… 阿弥陀如来のところに行けば……いいと思うけど」
「わかった!」
返事が早い。
「で? どこにいるの!? 」
レトルトは鼻息を荒くして顔を近付けた。
「え、えっと……」
少し後ずさりしながら、相手は遠くを指差した。
「あそこに……いると思う」
視線の先。 白い世界の向こうに、巨大な光の渦が浮かんでいた。
まるで空そのものが回転しているみたいに、ゆっくりと眩しく揺れている。
レトルトの目が、一気に輝いた。
「ありがとう!」
その言葉だけを残して レトルトは勢いよく駆け出した。
「お、おい! 場所合ってるか分かんねぇぞ!?」
後ろから声が飛んできたけれど、 もう聞こえていなかった。
レトルトの頭の中に浮かんだのは1つだけ。
――キヨくんを、迎えに行ける。
ただ、それだけだった。
レトルトは脇目も振らず、一直線に光の渦へと走っていく。
ただ前だけを見て。
――キヨくんに逢える。
その思いだけがレトルトの足を前へ前へと動かしていた。
勢いのまま光の渦へ飛び込むと、 眩しさに思わず目を細めた。
その瞬間。
ふわり、と 全身を包み込むような暖かさが広がった。
どこか懐かしくて、安心してしまうような
肩の力が自然と抜けていくような、不思議な感覚。
さっきまで必死に走っていたはずなのに、 気付けば足が少しずつ遅くなっていた。
走る速度は歩く速さになり、 歩く速さはやがて止まる。
そして、 気付いた時にはレトルトは光の中にぽつんと立っていた。
どこまでも柔らかな光だけが広がっている。
空も地面も境界がなくて、 白とも違う世界。
でも一一。
そこには、何もなかった。
誰もいない。
何もない。
ただ、優しい光だけが続いていた。
ぼんやりと立ち尽くしていた、その時だった。
どこからともなく、声が落ちる。
「私に、何か用かな?」
優しい声だった。
ただ優しいだけではなく、 胸の奥にすっと入り込んでくるような 懐かしいような声。
聞いているだけで、なぜか涙が出そうになるような――言葉では上手く表せない、不思議な声。
レトルトは肩を震わせ、慌てて辺りを見回した。
「え、えと……」
誰もいない。
なのに、確かに聞こえる。
「……えっと、阿弥陀如来……さん?ですか?」
言ったあとで少し固まる。
(呼び方これでいいのかな……)
急に不安になった。
怒られたりしないだろうか。
そんなことを考えている間にも、しんとした光の空間は静かなままだった。
レトルトは慌てて頭を下げる。
「お、お願いがあって来ました!」
思わず声が大きくなる。
必死だった。 ここで断られたら困る。
絶対に、絶対に、聞いてもらわなきゃいけない。
レトルトはぎゅっと拳を握りしめ、姿の見えない声の主を見つめるように顔を上げた。
しばらくの静寂の後、 柔らかな光が静かに揺れた。
すると――ふっと、優しい笑い声が落ちる。
「ふふ…… 言ってごらんなさい」
全部分かっているような、穏やかな声。
その声に少しだけ緊張がほどけて、レトルトは胸元をぎゅっと握った。
「えっと……」
言葉を探す。
「友人(?)から、ここへの入り口にあった門の……門番が交代するって聞いて……」
「それで……」
一呼吸おいて、
「俺に、やらせてもらえませんか?」
思わず前のめりになる。
「お願いします!」
「俺、待ってる人がいるんです!」
「絶対来るって約束した人がいて……」
「だから、もし門のところにいれば…… 来た時、すぐ分かるから……!」
最後の方は、懇願するような声になっていた。
「おぉ……もうそんな時期か」
声の主は、どこか懐かしむように小さく呟いた。
「門番はなかなか骨の折れる役だぞ? 耐えられるか?」
気遣うような優しい問いだった。
けれどレトルトの返事は、一瞬だった。
「大丈夫です! やらせて下さい!」
深く頭を下げる。
迷いなんて、ひとつもない。
キヨを待てるなら。
キヨを迎えに行けるなら。
それだけでよかった。
しばらくの沈黙の後、 優しい声が静かに空間へ落ちた。
「よかろう。 レトルト、貴方に門番を任せる 。しっかり励みなさい」
その言葉と同時に、空気がふっと静かになる。
さっきまで確かに感じていた気配が、ゆっくりと薄れていった。
レトルトはぱっと顔を上げた。
そして――笑った。
ここに来てから一番嬉しそうな顔で。
「やった……!」
気付けば、光の中を走り出していた。
前へ。
ただ前へ。
そして、 光の先へ飛び出した。
その瞬間。
目の前には、あの日見た巨大な門が立っていた。
白い世界へ続く、大きな門。
その日から レトルトは門の前に立ち続けた。
何百。
何千。
数え切れないほどの白い魂が、光の道の向こうからやって来る。
ふわふわと漂う、小さな命の光。
門をくぐるたび、その光は姿を変えていく。
レトルトは、その一つ一つを見つめ続けた。
赤い襟足じゃないか。
目は赤くないか。
声は。
歩き方は。
――キヨくんじゃないか。
誰よりも真剣に。
誰よりも必死に。
何度も、何度も探した。
でも。
今日も違う。
明日も違う。
次も、 その次も….. 違う。
心が折れそうになる日もあった。
どうして来ないんだろう。
もしかして迷ってるのかな。
まだ手続き終わらないのかな。
そんな不安が胸を埋め尽くしそうになる度、 レトルトは思い出した。
――ずっと一緒にいような。
――後から追いかけるからさ。
あの日の声。
あの日の笑顔。
その約束だけを、胸に抱きしめながら。
レトルトは今日も門の前で、愛おしい人を待ち続けていた。
どれだけの月日が流れたのだろう。
いや――流れたのかどうかも、もう分からない。
この世界には朝も夜もない。
時間の感覚なんて、とっくに曖昧になっていた。
それでも今日も、レトルトは探していた。
門の前を走り回って。
何度も目を凝らして。
白い魂が現れるたび胸が跳ねる。
「……!」
少しでも似た雰囲気を見つければ駆け寄った。
声は。
背格好は。
笑い方は。
そして――違う。
「……また、違う」
レトルトは小さく呟いて、肩を落とした。
何度目だろう。
何百回。
何千回。
もう分からない。
俯いたまま、ぎゅっと拳を握る。
(ねぇ、キヨくん……どこおるん? 俺もう、うまく飛べるようになったで?)
(早く見に来てよ)
胸の奥で言葉だけが溢れる。
その時だった。
突然、 頭の中に静かな声が響いた。
「レトルト。私の元へ来なさい」
優しくて、どこか安心する声。
阿弥陀如来の声だった。
レトルトは顔を上げる。
そして少しだけ不思議そうな顔をしたあと
「……なんやろ」
ぽつりと呟き、トボトボと光の渦の方へ歩き出した。
どこか、重たい足取りのまま。
気付けばまた、レトルトは光の中にぽつんと立っていた。
あの時と同じ どこまでも続く柔らかな光。
暖かくて、不思議と心が落ち着く場所。
レトルトは辺りを見回した。
すると、優しい声が静かに降りてくる。
「レトルト、 今まで本当によく励んでくれた。 良い行いだったよ」
全部を包み込むような、安心する声だった。
「今日は貴方に、良い話をしようと思って呼んだ」
レトルトは少しだけ目を丸くした。
「……良い話?」
不思議そうに首を傾げる。
「門番は、きつかっただろう? 誰もがやりたがることではない。 それを貴方は率先して引き受けてくれた」
「本当にありがとう。 感謝しているよ」
その言葉を聞いて、 レトルトは少しだけ困った顔をした。
きつくなかった、と言えば嘘になる。
待っても待っても来ない日々。
期待して、落ち込んで、 何度も心が折れそうになった。
でも、”キヨに逢いたい”その一心で
自分はここにいた。
それだけだった。
「貴方を――下界へ降ろそうと思っている」
穏やかな声が、静かに落ちた。
「……へ?」
間の抜けた声が出た。
レトルトはぱちぱちと瞬きをする。
(下界? 何の話?)
そんなレトルトに、声は変わらず優しく続けた。
「貴方の魂を、再び人間として生まれ変わらせようと思っている」
その瞬間、 レトルトは固まった。
「……え」
人間として――生まれ変わる。
「貴方は人間だった時も、 そして魂になってからも 誰かを救い、助け、導いてきた。
その行いに、相応しい贈り物だよ」
レトルトは目を見開いたまま、首を横に振る。
「俺は……そんなこと……」
そんな立派なことしてない。
誰かを救った覚えなんてない。
ただ、自分は キヨを待っていただけだ。
すると、優しい声が少しだけ笑った。
「いや、 貴方はそう思っていなくても 救われた魂が、確かにいたんだよ」
ふわりと光が揺れる。
「でも、俺は……待ってる人がいて」
レトルトは言葉を途中で止めた。
胸の奥に引っかかるものがあって、うまく続けられない。
ここで待つと決めたのは、自分だ。
キヨも、必ず来ると言った。
それを信じて、ずっとここにいた。
その想いを簡単に手放すことはできなかった。
静かな光の中で、声は少しだけ間を置いた。
「確かに。 貴方が待っている人は、なかなかここへは来ないな」
その言葉に、レトルトの胸がきゅっと締まる。
でも声は続けた。
「では、こうしてみてはどうだろう?」
レトルトは顔を上げる。
「貴方は先に、人へと生まれ変わり 人間として、待ってみてはどうだろう?」
「ここは時間という感覚がない世界だ。 それも悪くはない」
「だが――」
少しだけ、優しい間。
「命という限られた時間の中で 愛を育むというのも、なかなかいいものではないだろうか?」
その言葉は、不思議と甘く響いた。
永遠に待つ世界。
終わりのない静寂。
その中で信じ続けることもできる。
でも。
限りがある時間の中で、もう一度キヨと出会うという選択。
レトルトは唇を噛んだ。
(人間として……待つ)
「それに……」
声が少しだけ、楽しそうに落ちる。
「人間になり、その想い人と出逢えれば、
“あんなこと”や、“こんなこと”もできるかもしれんなぁ」
くすくす、と光の奥で笑いが混じった気配がした。
その瞬間。
レトルトの顔が一気に熱くなる。
「……っ////」
耳まで赤くなるのが自分でも分かる。
(ちょ、ちょっと待って…. 阿弥陀如来がそんなこと言っていいのか。 “あんなこと” や ”こんなこと”って///)
レトルトは咳払いをして誤魔化すように視線を逸らす。
「ま、まぁ….それも…いいかな////」
小さくぼそっと呟いた。そして、
「俺!生まれ変わります!」
レトルトは赤くなった顔のまま、勢いよく声を上げた。
一瞬の迷いもなかった。
その言葉に、光の奥から嬉しそうな声が返ってくる。
「そうか、そうか! では、貴方を下界へ降ろそう! 楽しんで生きなさい!」
明るく、優しい響きだった。
まるで旅立ちを祝うみたいに。
その言葉を聞いて、レトルトは一歩前に出かけて――
「あ、ちょっと待って!」
ぴたりと止まる。
「記憶は!? 俺の記憶はどうなるの!?」
慌てて問いかけた。
胸の奥が急に不安になる。
もし全部忘れてしまったら。
キヨのことも。
約束も。
待っていた日々も。
全部なくなってしまうのなら――
光の中は一瞬だけ静かになった。
「そうだなぁ…」
声は少しだけ考えるように間を置いた。
「病死や事故死、自殺や他殺といった、生前に悲しい思いをした記憶は消すことにしているが…… 貴方はそうではないな」
やわらかい光が、静かに揺れる。
「残して生まれ変わりたいか?」
その問いに、レトルトは一瞬も迷わなかった。
「うん!! 全部残しておいてください!」
はっきりとした声だった。
過去も、寂しさも、待っていた時間も。
全部ひっくるめて、自分だから。
少しの沈黙のあと。
「よかろう!」
明るい声が響いた。
「記憶はそのままに生まれ変わるがいい。
さぁ、行っておいで!」
その瞬間だった。
レトルトの身体が、ふわりと白く光り始める。
境界が溶けるように、輪郭が柔らかくなって
まるで光に抱かれているみたいにあたたかくなる。
恐怖はなかった。
ただ、少しだけ胸が締まる。
(キヨくん……)
そう心の中で呼んだ瞬間。
レトルトはゆっくりと目を閉じた。
続く。
コメント
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先が明るくなってきたぞ……! でも、「出逢う」って、そんな簡単に出来るものなんかな…? ドキドキする😍💓
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