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花火大会の当日。宿川の河川敷は、昼間から多くの人でごった返していた。河川敷の、野球やサッカーのコートが何面も取れる大きな広場が会場となっている。市のキャラクターがデザインされている特設ゲートをくぐる、人々の顔は笑顔で溢れていた。メインの特設ステージでは昼の部として、市内の中高生吹奏楽部による演奏や軽音楽部のライブ、コーラスサークルの歌などが披露されている。屋台エリアも設けられていて、たこ焼き、焼きそば、かき氷など、様々な屋台が軒を連ねていた。
拓馬達四人は昼過ぎには会場に入っていた。花火の時間までには早過ぎるが、直前になったら、会場に近付く事すら出来ない可能性があるからだ。
四人とも今日はジーンズとスニーカーなど動きやすい服装で来ている。和也の事故を防ぐための服装で、浴衣を着たがっていた彩も三人がそれらしい理由をつけて同じような服装にさせていた。
「リンゴ飴美味しー」
彩がリンゴ飴を頬張り満足そうに笑う。
和也と彩は昼の部の屋台やステージを目一杯楽しんでいる。一方、拓馬と明菜は周りに神経を張り巡らせ、なにか異常があればすぐに対応出来るように気構えていた。
一通り会場内を楽しんだ後、四人は花火鑑賞の為に場所をキープした。
「ねえ、和也君は本当に自分の命が危険だとわかっているの?」
四人が芝生の上に座って談笑している時に、明菜は声を潜めて拓馬に訊ねる。
「いや、わかっている筈なんだが……」
「確認しておいた方が良いんじゃないの?」
「そうだな」
内緒話が終わると拓馬は立ち上がった。
「ちょっとトイレに行ってくるよ。和也も今の内に行こうぜ」
「そうだな、そうするか」
拓馬に誘われた和也が立ち上がるのを見て「あ、私も行こう」と彩も立ち上がる。
「えっ? 彩も行くの? 明菜が一人になるよ」
和也と二人になりたい拓馬が、彩に諦めて貰おうと言う。
「ごめん。さっきから我慢していて、誰かが行くのを待ってたの」
「良いよ、私が留守番しているから」
明菜はあまりしつこく彩を止めると、和也が行かなくなると思ってそう言った。
多くの仮設トイレが設置されていたが、人も多く、順番待ちの列が出来ている。彩は女子トイレに行き、拓馬と和也は男子トイレの最後尾にならんだ。
「おい、今日、事故に遭うかも知れない事を覚えているのか?」
「もちろん、覚えているよ」
和也は拓馬に即答する。
「じゃあ、ちゃんと警戒しろよ。一秒でも二秒でも、少しでも早く異変に気付いたら助かる可能性は上がるんだぞ」
「大丈夫。ちゃんと警戒はしているよ。でも、事故が起こるとしても小規模なものだと思うんだよ。もし何人も死傷者が出るようだと大事件になって拓馬も詳細を覚えている筈だろ?」
「そう言えば、そんな事故が起こった話は知らないな。俺が無関心だった所為かも知れないが」
「たぶん、俺一人が死ぬような小さな事故なんだよ。新聞の隅に載るような。なら可能性は限られてくるから、交通事故とか何かの落下物とかに気をつければ良いと思うんだ」
そう言われると和也の主張にも一理あると拓馬は考えた。
「まあ、確かにそうか……」
「この広場は大丈夫だから、拓馬達も楽しめよ。常に緊張していると、効率が悪いぞ」
なにか言いくるめられた気もしたが、とにかくちゃんと意識してもらう事は出来たので、拓馬は納得した。
思っていたよりトイレに時間が掛かり、明菜の元に戻った時には日が傾きだしていた。入れ替わりに「私も今のうちに行って来るよ」と言って明菜が一人でみんなから離れた。
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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