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見物場所に戻ってからは拓馬も少し緊張を緩めた。
――確かに何も無い広場でピンポイントに事故など起こる筈がない。帰りに集中しよう。
明菜がトイレに行ってから三十分経過したが、まだ戻って来ない。いくら混んでいても、もう帰ってもいい頃だと拓馬は焦り出した。
――何かあったのだろうか? 場所がわからなくなったのか?
気になったので、電話してみたが、明菜は出ない。
「俺、ちょっと明菜の様子を見てくるよ」
「ああ、気を付けてな」
拓馬は和也達と別れて、トイレに向かった。自分達が行った時より人は増えている。
――列が長くなって時間が掛かっているだけなら良いが。
拓馬がトイレの近くまで行くと、明菜が男と揉めていた。
「明菜!」
「あっ、拓馬君!」
明菜は拓馬に駆け寄ろうとしたが、男に前を塞がれる。その男を良く見ると雄二だった。
「やっと来たな拓馬。男の友情を裏切って女と遊ぶのは楽しいか?」
雄二は普段からは考えられないような、怒りと憎しみの表情で拓馬をなじる。
「拓馬君は人を裏切るような事はしないわ!」
「こいつとは、今日海に行ってナンパする約束だったんだ。それを自分一人彼女が出来たからってキャンセルしやがったんだぞ……」
雄二は途端に悲しそうな顔になる。
「だから前に説明したじゃないか。今日までは見逃してくれよ。明日からは付き合うから」
「うるせえ! お前一人こんな綺麗な娘を彼女にしやがって……」
雄二の気持ちが拓馬には痛い程分かる。男子校でクラブ活動していると暇な時間など無い。本当に同世代の女の子と話す機会がないのだ。同じ仲間だと思っていた友達に彼女が出来、オマケに自分達との付き合いが悪くなれば嫉妬もしてしまうだろう。
拓馬は雄二にここまでさせたのは自分が悪いと思い、ゆっくりと膝を地面に着き、両手を前に着いて土下座した。
「すまん。これで許してくれ」
雄二は土下座する拓馬の姿を見て驚き、憑き物が落ちたように普段の自分を取り戻す。
「えっ? い、いや、そこまですんなよ! いや、すまん、俺もどうかしてた。お前が羨ましかったんだ」
雄二は明菜の前から離れ、土下座している拓馬を立ち上がらせた。
「今度女の子紹介してくれれば良いから。仲良くやれよ、じゃあな!」
雄二は焦りながら逃げるように離れて行った。
「大丈夫か? 明菜」
拓馬は明菜に声を掛ける。
「助けてくれて、ありがとう。あの人友達だったんだ」
「ごめん、本当は良い奴なんだけど、俺達は女っ気が無いから、彼女の話は敏感な問題なんだ」
「なんとなくわかるよ。最初は『拓馬の彼女さんですか?』って丁寧に聞かれたくらいだから。私もそれで安心して、つい足を止めちゃって。普段ナンパなんか無視するのに」
「本当にごめん。許してくれ」
拓馬は申し訳なさ過ぎて、雄二の分まで謝った。
「うん、もう気にしてないよ。そうだ、今度友達紹介してあげようよ。きっと喜ぶよね」
「ありがとう。そうして貰えると助かるよ」
「決まり、約束ね! あっ、早く戻ろう。彩達が心配するよ」
明菜は拓馬の手を引いて歩き出した。
――拓馬君はこの約束の意味がわかっているのかな……明日以降も私と一緒に居ると言う事なんだよ……。
明菜は横を歩く拓馬の顔を見つめた。
拓馬と明菜は急いで和也達の元に戻ったが、そこに二人は居なかった。
「あれ? あいつら、どこに行ったんだ?」
「場所を間違えたかな?」
二人は周りから位置を確認したが、場所に間違いは無かった。拓馬は和也に電話するが、呼び出しは鳴るのに相手は出ない。
「電話も出ない」
「彩も出ないわ」
辺りはもう暗くなり、いよいよ花火大会が始まる時間だ。拓馬は和也達を探そうとしたが、広場中に人が混み合っていて、移動すらままならない。
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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