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今日は先日の塚本の提案通り、外でのデートだ。彼の運転する車で、以前にも立ち寄った道の駅に向かっている。
そこに決めたのは、その建物の裏手にコスモス畑があって、そこが見頃を迎えているらしいとの情報を得たためだ。そこは私たちの住まいから車でおよそ一時間。距離的にもちょうどいい。
渋滞に巻き込まれることもなくスムーズに目的地に着いた。駐車場に車を停めた後、早速目的のコスモス畑に足を向けた。
花畑は綺麗に整備されており、所々にベンチが置かれていた。中にはすでに花が終わった状態のものもあったが、白や黄色、オレンジ色、薄いピンク色から濃いピンク色まで色取り取りのコスモスが、時折吹く風に優しく揺れていた。
「なんだか可愛らしい色合いのコスモス畑よね。写真、撮って行こうかな」
私はごそごそとバッグからスマホを取り出した。気に入った花を何枚か写真に収めてから、間違いなく撮れているかを確かめた。それなりにうまく撮れている。そのことに満足して、私はスマホを再びバッグの中に仕舞い込んだ。
「写真はもういいの?」
それまで私の様子を黙って見守っていた塚本が、口を開いた。
「うん。ちゃんと撮れたから、もう終わりにするわ。この後は一回りしてみましょ」
「そっか。じゃあ……」
にっと笑ったかと思うと、彼は私の手にするりと指を絡めた。
「えっ、恥ずかしいよ」
「どうして?恋人ならみんなやってるよ」
「みんなではないでしょ」
「あはは。まぁね。確かに全員ではないだろうけど、少なくとも、ほらあそこの二人はそうだよ」
笑いながら塚本がちらりと目で示した先には、仲睦まじく寄り添って花を眺めているカップルがいた。よく見ると彼らも手を繋ぎ合っている。
「と、いうことで、俺たちも」
塚本は繋いだ手に軽く力を込めた。
「だからって、同じようにしなくてもいいのに」
照れ隠しにぶつぶつ言いながらも、私もまた彼の手にそっと指を絡めた。
「じゃ、あっちから回ろうか」
「う、うん」
私はどきどきしながら彼に寄り添って歩き、コスモス畑を一周した。花を満喫した後は道の駅の表口に戻る。
「さて、この後はどうしようか」
「そうねぇ」
私は建物の正面にある時計に目をやった。
「お昼にはまだ少し早いわよね」
「まぁ、そうだね。ここを出て戻りがてら、途中でどこかに寄って昼飯を食べてもいいし、ここで早めに済ませてもいいし、俺はどっちでも構わないよ。遠野さんはどうしたい?」
「それなら、ここで食べていかない?今回は洋食系ということで」
「洋食系?」
「えぇとね。あのお店だと思うんだけど」
私は彼の手を引いて、とある店の前まで行き、入り口脇に貼られているメニューを目で示す。
「どれも美味しそうなんだけど、特にパスタが美味しいって、雑誌に載っていたの」
「へぇ、そうなんだ。いいよ。今なら余裕で座れそうだし。でもそれなら、この前来た時、ここで食べても良かったのに」
「あの時は、このお店はまだチェックしていなかったのよね」
「なるほど」
「じゃ、入りましょうか」
言いながら店のドアを開けようとして、まだ彼と手を繋いでいたことに気がついた。私は慌てて彼の手から離れた。
「ご、ごめんなさい」
塚本は悪戯っぽい目をして笑う。
「まだこのままでいても良かったのに」
「まさか」
頬が熱い。それを隠すためにあえて真面目な顔をして、私は彼の先に立って店に入った。
昼時にはまだ早い時間帯だったため、待ち時間なく席に着くことができた。早速それぞれ希望のものを注文し、食事をすませて店を出た。塚本がふと足を止めて私を振り返る。
「お土産でも見ていく?」
「そうね。何か買って行こうかしら」
私たちは土産物が並ぶエリアに足を向けた。ご当地ならではの銘菓や地酒、小物類や工芸品などを眺めながら、のんびりとフロア内を歩く。
私の地元にある企業の商品コーナーもあって、そこにはジャムやドレッシング、ジュース、ゼリーなどが並んでいた。前回立ち寄った時は通り過ぎたのだが、最近は朝食でパンを食べることが多くなっていたから、ジャムでも買って行こうかと足を止める。どれにしようかとしばし悩んだ末に、いちごとあんずのジャム、その他には、サラダ用にドレッシングを二本選んでかごに入れた。
「会計してくるね」
塚本に声をかけてレジに向かおうとしたが、彼にかごをひょいと取り上げられてしまった。
「俺が払ってくるから、遠野さんはこの辺で待ってて」
「えっ、そんなわけには……」
塚本は私の言葉を遮り、にっと笑う。
「今度これを使って手料理でも振舞ってくれればいいから。じゃ、行ってくるね」
「あ、あの……っ」
引き留めようとする私に目くばせして、彼はさっさとレジに向かって歩いて行ってしまった。
その背中を眺めながら、私はぼそりとひとり言をつぶやく。
「今度手料理をっていうのは、今度私の部屋で会おうっていうこと、よね」
前回彼の部屋に行った時のことが思い出された。同時に、その時の彼の言葉も頭に浮かぶ。
次回部屋で会ったらこれで終わらない気がする――。
おかげで、一度落ち着いたはずの鼓動が再びうるさく騒ぎ出した。落ち着けと自分に言い聞かせるだけでは足りなくて、意識を逸らすために何か別のことを考えてみようと思いつく。そこで、綺麗に並べられた商品をあえて一つ一つじっくりと眺めてみた。次第にその効果が表れ出し、ようやく気持ちが落ち着き出した、と思った時だ。
「もしかして、美祈ちゃん……?」
名前を呼ばれて背筋が強張った。それは聞き覚えがあるどころか、とてもよく知る声だった。