テラーノベル
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「レオンからの手紙……」
リズは瞳を輝かせながら封筒を差し出している。一見するとどこにでもあるシンプルな白い封筒だけど、表面には薄紅色の花びらが舞っているような細やかで美しい模様が施されていた。手紙を受け取る者の好みに合わせたかのようなそれに、自然と笑みが溢れる。
「確か、お戻りになられる直前に手紙で連絡すると仰ってましたよね。だから早くクレハ様にお渡ししたくて……」
「ありがとう、リズ」
「ほら、クレハ。これ使え」
リズから手紙を受け取ると、ルーイ様がペーパーナイフを手渡してくれた。彼もレオンからの手紙の内容が気になっているようだ。早く内容を確認しろと目で訴えてくる。そしてそれはリズも同じなようで……
彼らからの要望に応えるため、そして私自身の高ぶった気持ちを落ち着かせるためにも……早急に手紙を開封する必要がある。私は渡されたペーパーナイフを封筒の隙間に差し込んだ。
「……クレハ。レオンなんだって?」
「視察が想定していたよりも早く終わったそうです。それに伴い、日程が前倒しになったので予定よりも早く首都に戻れるとのことです」
「ほんとですか! 良かったですね、クレハ様」
「うん」
封筒の中には折りたたまれた便箋が2枚ほど入っていた。開くとほのかに漂う甘い香りが鼻を擽る。1枚目には視察に関しての大まかな報告……そして、2枚目にはレオンの心がこもった私への言葉が綴られていた。
自分がいなくて寂しい思いをしていないかとか、早く会いたいとか……抱きしめたいとか、好きだ、愛してるとか……凄まじかった。
幼い頃からレオンは本当に変わらない。いや、むしろ最近はより大胆になっているような気がする。彼から向けられる真っ直ぐな好意は私の心を酷く動揺させる。手紙の文面ですらその効力は絶大なのであった。
私に宛てられた個人的な内容をルーイ様やリズに公開するのは憚られるので、当たり障りのない部分だけを抽出して伝えることにする。何より恥ずかし過ぎる。
「この手紙を私に送ってすぐに帰宅の準備に取り掛かるのだと書いてあります。みんな変わりなくお元気で……お土産を楽しみにしていてくれだそうですよ」
「ということは、早ければもう数日中には帰ってくるってことか。当初の予定では後ひと月くらいかかるはずだったのにな。レオンのヤツ……クレハに会えないのが相当堪えたんだな」
「北部は遠いですもの。すぐに帰ることができないからこそ、会いたいというお気持ちが募ってしまったのでしょうね。きっと一日でも早く帰れるようにお仕事頑張られたのですね……レオン殿下」
ふたりにしみじみとそんな事を言われて、私はどんな反応をしたらいいのやら。実際に手紙には会いたい、寂しい、ツラいと……レオンの悲痛な叫びが書き連ねてあるのだ。こちらが言わずとも、ふたりには彼の心情を察せられてしまった。これでは一部内容を伏せた意味が全くない。
「何はともあれ、みんな怪我もなく無事に戻ってくるのであれば結構結構。俺もそろそろひとり寝がつらくなってきてたし……嬉しいなぁ。早くセディに会いたい」
問題なく生活しているように見えたけど、ルーイ様も寂しかったんだな。セドリックさんが戻ってくることに大喜びだ。
ユニレーム商会から手紙の返事はまだ来ないが、代わりに嬉しい報せが届いた。レオンからの手紙……私はもう一度便箋に書かれた文字を眺めた。相変わらず綺麗な字だ。
レオンたちが北部の視察から帰ってくる。少なくとも10日以内には————
ルーイ様とリズの前では冷静に振る舞っているけど、胸の奥から嬉しさが込み上げてくる。私も早く彼に会いたい。
「こんなに早くお戻りなら、クラルス学園への入学もおふたり揃って出来そうですね。レオン殿下がご一緒なら安心です」
クラルス学園の入学式まで、ひと月を切っていた。レオンは間に合うかどうか微妙とされてきたけど、帰宅が早まったことでその心配もなくなったことになる。
私とレオンが制服姿で並んでいるのを見るのが楽しみだと、リズは些か興奮した様子で語る。
私も彼の制服姿はまだ見れていない。レオンは今成長期で、身長がどんどん伸びて服のサイズがすぐに合わなくなってしまうらしい。そのため、制服も視察から戻ってきてから仕立てるなんて言っていたのだ。
早く帰ってきてくれるのは嬉しいけど、入学の準備もあるのでしばらくは慌ただしい日々を過ごすことになりそうだ。
「おっ、そろそろ40分経つな。ちょっとケーキの焼け具合見てくるわ」
ルーイ様に言われて時計に目線を移す。レオンの手紙に夢中になっていて気付かなかった。いつの間にかそんなに時間が経っていたのか。
「そういえば香ばしくて甘い匂いがしていますね。お菓子作りの最中だったのですね」
「この前クライヴ君から貰った栗でパウンドケーキを焼いてたんだ。リズちゃんも来たことだし、みんなでお茶にしようぜ」
話の続きは甘い物を摘みながらにしようというルーイ様の提案に、私とリズは二つ返事で頷いた。
ケーキの方はルーイ様に任せて、私とリズは中断していた飲み物の準備に取り掛かった。パウンドケーキにはどんなお茶が合うだろうか……
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水瀬葵
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