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迅が浴室を出て行ってから、早速私はバスルームに入った。彼に初めて自分の裸身を晒すことになると思うと、洗うのも念入りになる。
ざっとシャワーを浴びて、浴室を出た。体を拭いている時に洗面台の鏡が目に入る。そこに映る自分の上半身にどきりとし、不安になった。
ついさっき、服の上から彼に触れられただけで、体も気分もおかしくなりそうだった。それなのに、彼と直に肌を重ね合わせた時、いったい自分はどうなってしまうのだろうと、その時を迎えることが怖くなった。しかしきっと、彼に任せれば大丈夫だと思い直し、また、自分に言い聞かせた。
用意してきたルームウェアを身につけて、私は迅がいるリビングへ戻った。部屋に入ってすぐに気づく。テーブルの上が綺麗に片づけられていた。キッチンに目をやると、迅が食器を棚に戻し入れているところだった。
「あの、シャワーありがとう。それから、ごめんなさい、全部片づけさせちゃって……」
「全然問題ないよ。それに今ちょうど終わったしね」
迅はカウンター越しに私をまじまじと見ていたが、その口元にふっと笑みを刻む。
「可愛いの、着てるね」
「えっ、あ、そうかな」
「もしかして、新しい?」
「え、ど、どうしてそう思うの?」
「うぅん、なんとなく?」
迅の勘の良さに驚き、また動揺した。気づいてくれたことが嬉しいような、気づかないでいてほしかったような、複雑な気持ちになる。実は彼の言う通り、少しでも彼に可愛い、綺麗だと思われたくて、今夜のために新しく購入したルームウェアなのだ。
キッチンから出てきた彼は、私の体に腕を回す。
「新しいとかそうじゃないとか関係なく、美祈ちゃんらしくて可愛いよ。今すぐ押し倒したいくらいにね。俺もシャワーしてくる。少しだけ待ってて。好きな場所でね」
迅の囁きに、私はぎくしゃくと首を縦に動かした。
彼は腕を解いて私の額に軽くキスを落とし、部屋から出て行った。
その背を見送った後、部屋に一人きりとなった私は、ソファに腰を下ろしたものの、急にそわそわと落ち着かなくなった。このままじっと座って彼を待っているよりは、何かしら動いていた方がまだマシのような気がしてくる。
ソファから立ち上がり、バッグの中身を整理したり、ツリーの飾りの傾きを直したりと、少しでも緊張感を和らげたくてあれこれ動いていたが、ふと思いつく。
「ワイン、一口だけ飲んじゃおうかな。気分が落ち着くかも」
自分を納得させるための理由を付け加えて、自由に使っていいと言われているキッチンに向かった。
冷蔵庫を開けて、中からワインのボトルを取り出した。グラスに少しだけ注いでボトルを再び戻した後、この場で一気に飲み干してしまおうと思った。
しかし、それはさすがに行儀が悪いと自分を止めて、ソファに戻る。チカチカとした光を纏ったままのクリスマスツリーを眺めながら、私はちびちびとワインを舐め始めた。
ワインの残りがあと半分ほどとなった時、迅が戻ってきた。裸の上半身にタオルを無造作にかけている。
初めて目にする彼の姿に、私は目のやり場に困ってしまった。
「ワイン、飲んでるの?」
私はワイングラスに視線を当てながら頷いた。
「美味しかったから、もうちょっとだけ、と思って」
「ふぅん?」
なぜ今またワインを飲んでいるのか、迅はその理由を察したかのようにくすっと笑った。私の傍までやって来て、ソファに腰を下ろす。
すぐ隣から、シャワーの名残のソープの匂いが漂ってきて、私の鼓動は騒がしさを増した。緊張感から来るこの息苦しさから、ほんの少しの間だけ逃げたくなる。
「迅君も少し飲む?今持ってくる」
言いながらそそくさと立ち上がろうとしたが、手首を迅に捉えられた。
「美祈ちゃんのグラスから、少しもらうから大丈夫だよ」
「で、でも、私の飲みかけよ……」
「いいから、ここにいて」
じっと見つめる迅の目に負けて、私はすとんと腰を下ろした。
迅は満足そうに微笑んだかと思うと、私が口をつけていたグラスに手を伸ばし、それをくいっと傾けた。
本当にそこから飲むのね、と苦笑している私の前で、彼はグラスをテーブルに戻した。
そのままワインを飲み込むのだろうと思いながら、迅の様子を見守っていたが、彼の手が私の方へ伸びて来てはっとした。
何が起きたのか確かめる間もなかった。気づいた時には、私の頭を抱いた迅に唇を塞がれていた。
いつものようにキスされるかと思い目を閉じたが、違和感があった。温んだ液体がじわりと私の唇を濡らしていた。
そこで初めて、迅が口移しでワインを私に飲ませようとしていることに気が付いた。
彼はぐいっと唇を押し付けてくる。
私は迷いながらそっと唇を開いた。少しずつワインが口の中に流れ込んできて、喉の奥へと落ちていったが、うまく飲み込めなかったワインが口元からこぼれた。それが胸元まで伝い落ちていく感触に、私はぴくりと肩を震わせた。
迅は唇を離し、私の口元を手の平でそっと拭った。肩を軽く上下させて息をついている私に苦笑を見せる。
「ごめん。やっぱりドラマや映画みたいにはいかないな」
「せっかくシャワーしたのに……」
「後でまたシャワーすればいいよ」
迅は言いながら身をかがめ、私の喉に舌を這わせた。そこを濡らしたワインを舐め取る。
「じ、迅君……」
「ベッドに行こうか。俺、もうこれ以上は待てない」
胸元を彼の熱い吐息が撫でた。
全身にぞくぞくするような甘い疼きが走る。シャンプーの香りがする彼の髪に口づけながら、私は小さくかすれた声で答えた。
「えぇ……」
それをきっかけにして迅は立ち上がり、リビングの電気を消した。私の腰に手を回した彼は、ツリーの電飾の灯りだけを頼りに隣の寝室へと足を向けた。