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※プロローグを先にお読みください。
憶えている。
あの記憶も、この笛も。
“生まれた時から”
◆一月七日
地球ではないどこかの世界。
その世界について人々が知ることはそう多くない。己が立っているこの星のみがこの世の全てだった。
その星の決して大きくない大地の端に今日で五歳の誕生日を迎える男の子を持つ家族が住んでいた。「お誕生日おめでとう。セル。今日であなたは五歳になるのよ。」
母はふんわりとした笑みを浮かべ、その男の子の頭を撫でる。
「そろそろセルも学園に通わせる時期だな。」
にっ、と笑い父はセル、本名を『カナクト・セムロル』の深い黒の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「母上、父上。ありがとうございます。身共は大変嬉しく思います。」
もう親としては慣れたことで、何故かセルは、子供にしては随分大人びていて、『拙者』や『某(それがし)』、『身共』と言った一人称を使い、古い言葉を使う。
さて、と言い、ケーキを囲んで座っていた父が立ち上がり、自室から小包を持ってきた。
「プレゼントだ。『魔石のブレスレット』だ。」
蒼色の結晶を受け取り再び礼を言う。
学園に通うまであと三か月。
◆学園
ゴーン、ゴーン。という重く響く音が学園中を駆ける。「これより、『レアステド国立学園』の入学式を開式いたします」
国立や私立など、地球と似たような仕組みがこの世界にもある。
ちなみに、この学園を中心にした小さな国はレアステドと言い、その国の学園はここだけだ。
「皆さんのような生徒さんを迎えることが出来て……。皆さんがこの学園で学び……。輝かしい未来を……。」
どの世界にもあるのだ。『永遠に続く校長の話』
そんな永遠も終わり、各自指定された教室へと入る。
そこで最初に、担任の『カクト先生』にこの学園の仕組み等を教わる。
学校は九年間あり、初等部、中等部、高等部を三年ずつ。中等部三年から、それぞれの進路を考えて、学部を選ぶ。
ちなみにこの話を真面目に聞いている生徒なんてほんの数名だ。
「さあ、生徒諸君。今日は入学式で疲れただろう。家に帰ったらゆっくり休むんだぞぉ。特に今日は、な…」
なぜかにやりと笑う先生にさようならと挨拶をして帰路につく。
翌日。
「さぁて、いきなりだがテストを行う!」
えぇ…。 聞いてないよぉ。 センセーいぢわる〜。など聞こえたがセルは大して驚きも、焦りもしていなかった。
(三度目の人生にあったでござるな…。)などと考えていた。
国語、算数、そして剣や魔法の実技テストがあった。
国語、算数については四度の人生で予習済み。
剣術については一度目の生業にて魂に叩き込まれている。
問題は魔法。
日本、ましては地球にすらない技術だ。
人間は魔法を扱うことは出来ないが、魔力(マナ)は持っていた。ただ、火や水などの魔法現象に変えることが出来ない。そこで人間は、強力な武器の一つである知識を使った。『魔石』を伝って魔力を魔法現象に変えることに成功したのだ。
が、普通の人なら魔力の流れは分かるのだが、セルは魔力の流れを感じることができない。「次。セムロル」
先生に呼ばれ、ここに来て焦り始めた。
(いや、きっと平気でござる。魔石に力を込めて見れば出来るはずじゃ。)
左腕の魔石を的へ向け、右手を魔石に被せ、目を瞑り。
何か流れを感じている訳でもないが、こんな構えをとっていると今更出来ませんだなんて言えない。
(……!)
力を込めてみたものの、何も発生しない。
「どうした〜?早く撃ってくれ〜」
(致し方ない。白状をしよう。……む?)
誰もが目を疑った。
風も吹いていない。周りに人もいない。
魔石から的に向かって地に描かれている一本の線。
……的は静かに、倒れていた。