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スタートヽ(*^ω^*)ノ
キヨはベッドのまわりを子どものようにぐるぐる回っていた。
『っしゃぁぁ!!レトさんとデート!デート!』
病室のカーテンまで揺れるほどの勢いで跳ねているキヨの姿を レトルトは苦笑しながら見つめていた。
「そんなに喜ばれたら……恥ずかしいやん……」
頬を赤くしながら笑うレトルト。
やがてキヨもようやくテンションが落ち着いて、
息を切らせながらベッドの脇に腰を下ろした。
『ふぅ……ごめん、ごめん。ちょっと嬉しすぎて暴れたわ』
笑いながら後頭部をかくキヨ。
レトルトは少し俯いて、小さな声で言った。
「でも…俺、ずっと入院してるから……街のこと、全然わからへん」
指先をもじもじさせながら、視線を落とす。
「どんな場所があるかも、どこ行ったら楽しいかも……なんも思い浮かばへん」
その声にはほんの少しの寂しさと、自分を責めるような響きがあった。
キヨはそんなレトルトを黙って見つめてから、
そっとその手を両手で包み込んだ。
『……じゃあさ』
真剣な目でレトルトを見つめながら、
少し笑みを浮かべる。
『俺がデートプラン、全部考えてもいい?』
「えっ……?」
「レトさんが知らない景色、俺が見せる!
行ったことないとこ、いっぱい行こ!
外の空気も、風も、全部――俺が一緒に感じさせてあげるからさ』
その言葉はまっすぐで、眩しいくらいの温かさがあった。
レトルトは少し唇を震わせながら、
その手のぬくもりを感じるように握り返す。
「……ありがとう、キヨくん」
柔らかく笑ったレトルトの頬には、
ほんのりと嬉し涙の光が宿っていた。
その夜、キヨは珍しく机に向かい、ノートにデートプランを書き出していた。
『うーん、人混み多すぎると疲れちゃうかな……』
『移動距離長すぎるのもレトさんにきついかも……』
レトルトの体調を考えながら、頭を悩ませるキヨ。
何度も書いては消し、書いては消し。まるで完璧を追い求める職人のように、ノートのページはあっという間に埋まっていく。
キヨは手元のノートをぐしゃりと握りしめた。
『……夜はどうしようかなぁ……』
外泊が許可された喜びと、でも夜どうするかの悩みがごちゃ混ぜになって、考えがまとまらない。
スマホを手に取りレトルトに連絡する。
『レトさん、デートの事なんだけど外泊ってことは夜どこかに泊まるよね?俺んちでもいいけど….』
言い終わるのを待たずして、レトルトはキヨの言葉に被せる様に呟く。
「あの……俺の家に泊まる?」
その声に、キヨは思わず顔を上げた。
『え、えっ……!?…いいの?ご両親に許可とか取ったほうがいい…よね?』
「……俺の親、ほとんど家にいないから…大丈夫….」
レトルトの声は緊張で少し震えていた。
キヨは心臓がドクドク鳴るのを感じながら、
小さく笑って頷く。
『……じゃあ、泊まる』
レトルトも嬉しそうに微笑み返し、
電話越しに照れ合いながら電話を切った。
仲のいい友達にも相談しながら、キヨはなんとかデートプランを完成させた。
定番のコースばかりだけれど、レトルトが喜んでくれることを考えると自然と笑みがこぼれる。
小さな不安もあったけれど、それ以上にワクワクと期待で胸が弾んでいた。
『よし、完璧!レトさん喜んでくれるかなぁ』
キヨは何度もノートを見返しながら、来るべきデートの日を心待ちにするのだった。
一方その頃、レトルトは初めてのデートに心を躍らせるどころか、オロオロして落ち着かない様子だった。
「レトルトくん? なんだかソワソワしてるけど、どうした?」
研修医が心配そうに声をかける。
「牛沢先生〜……」
レトルトは半泣きになりながら、小さく震える声で答えた。
「好きな人と……デートに行くんです……!」
その言葉に研修医は驚き、そして微笑む。
「おーー!それはドキドキするなぁ!…でも、なんでそんな不安そうな顔してんだよ」
レトルトは思わず牛沢に相談した。
「デート……初めてで、何を着て行けばいいのか分からなくて……」
ずっと入院生活を送ってきたレトルトの事情をよく知る研修医の牛沢は、少し困ったように笑いながらも、優しく声をかけた。
「本当はこんなこと、しちゃいけないんだけど……内緒な?俺の普段の私服で、レトルト君に似合いそうなやつを持ってくるから、二人で選ぼうか」
その提案に、レトルトの目は一瞬で輝きを増した。
次の日
牛沢はベッドの上に自分の私服を広げて、どれがいいかなあと悩んでいた。
隣ではレトルトがソワソワしながら落ち着かない様子で座っている。
「これはどう? こっちは?」
牛沢はまるで着せ替え人形のように、レトルトに服を試着させていく。
「これは子供っぽすぎるな……」「これはイメージと違うかも……」
何度も試行錯誤を重ね、やっとレトルト自身も納得できるコーディネートが決まった。
バッテンの目をした黒い猫が描かれたディーシャツに、オーバーサイズのMA-1。
細めの黒いパンツに白いスニーカー。
「わぁ、今までこんな格好したことない!」
レトルトは大喜びで目を輝かせる。
初めてのデートを前に、心の底からワクワクが溢れていた。
牛沢は、服を着てくるくると鏡の前を回るレトルトの姿を見て、思わず口元をほころばせた。
「似合ってんじゃん!これ着て思う存分楽しんでこいよ!」
その言葉に、レトルトは照れくさそうに笑いながらも頬を赤く染める。
嬉しそうに袖を伸ばしては鏡をのぞき込み、子供のように何度も姿を確かめていた。
そんなレトルトの姿を見て、牛沢もつられるように笑う。
「ほんと、元気になったなぁ……」
その表情には、心から安堵したような優しい色が浮かんでいた。
続く