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七人は昇降口を離れ、校舎の奥へと足を進めた。
懐中電灯の光が廊下の壁を照らすたび、掲示物やポスターが揺れ、まるで誰かが覗いているように見える。
「……足音、私たちだけのだよね?」
浜野里奈が怯えた声を出すと、隣の浜野香里が冷静に答える。
「深呼吸して。パニックになったら見えるものも見えなくなる」
やがて彼女たちは二階へと上がり、旧音楽室の前に辿り着いた。
この部屋は数年前から使われておらず、昼間でも立ち入る生徒はほとんどいない。
「音楽室って……ピアノとか残ってるのかな」
深沢真綾が震える声でつぶやいた。
「夜に聴こえたら絶対怖いよね」
谷本穂乃果が、わざとからかうように笑った瞬間――。
――ポロン……。
部屋の奥から、一音だけピアノの音が響いた。
全員が同時に凍りつき、息を呑む。
「い、今の……誰か弾いた?」
小柳菜乃花が懐中電灯を構えながら、恐る恐るドアを開ける。
旧音楽室は薄暗く、埃をかぶった机や椅子が並んでいた。
奥には黒光りするアップライトピアノがぽつんと置かれている。
誰も触れていないはずなのに、鍵盤が一つだけ沈んでいた。
「やめようよ、こんなの!」
里奈が泣きそうになるが、原口理沙が目を細めてピアノへ歩み寄る。
「待って。……譜面台に何か置いてある」
譜面台には、古びた楽譜が一冊。
その表紙には赤いインクで大きく「第一の鍵」と書かれていた。
「……これ、ヒント?」
穂乃果が声を潜める。
理沙がページをめくると、中には音符ではなくアルファベットの暗号が並んでいた。
それはまるで、曲の形を借りた暗号文のように見える。
『C-A-G-E』
最初の行には、四つの文字だけが大きく書かれていた。
「……ケージ? 檻?」
瑞希が首をかしげる。
「いや、これは……音楽室の“楽器収納庫(Cage)”のことだと思う」
理沙が冷静に分析する。
七人が後ろを振り向くと、教室の隅に鉄格子のついた大きな楽器庫があった。
錆びた南京錠で閉じられているが、その中には何か光るものが見える。
「まさか……あれが“鍵”?」
香里が低くつぶやく。
だが次の瞬間、
――ジャーンッ!
ピアノがひとりでに鳴り響き、椅子がガタガタと揺れた。
七人は一斉に悲鳴をあげた。
旧音楽室そのものが、生きているかのように彼女たちを試していた。