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旧音楽室の空気は重く、誰もが喉の奥に鉛を詰め込まれたように息苦しさを感じていた。
光を失った窓から月明かりが差し込み、床に薄い模様を描く。
「……冗談じゃないよ。今の音、誰が弾いたっていうの?」
里奈が小声で震えながら言う。
「落ち着いて。ピアノが鳴ったのは事実だけど、理由はあるはず」
香里は必死に冷静さを保ち、双子の妹を支えた。
理沙が懐中電灯を持って楽器庫へ近づく。
格子の奥には小さな金属の光――それは間違いなく「カギ」だった。
「やっぱり……これが“第一の鍵”ね」
「でも、錠前が……」
瑞希が南京錠を引っ張るが、硬く閉ざされている。
普通に壊すには無理がありそうだった。
そのとき、真綾が震える声で囁いた。
「ねえ……見て。南京錠の横、何か文字が刻まれてる」
懐中電灯を当てると、そこにはかすれたアルファベットが浮かび上がった。
「PLAY」――その一言。
「……弾けってこと?」
穂乃果が思わず笑いそうになったが、すぐに顔を引き締めた。
「このピアノを、正しく弾けば鍵が開く……そういう仕掛けかも」
菜乃花が青ざめながらも口を開く。
「でも、もし間違えたら……?」
答えは誰も出せなかった。
ただ、背筋を走る冷気が「試練を失敗すれば取り返しがつかない」と告げていた。
理沙が楽譜を開き、暗号を読み解く。
「最初に書かれていた“C-A-G-E”……これは音名よ。
ド(C)、ラ(A)、ソ(G)、ミ(E)……この順番で弾けってことだと思う」
真綾が不安げに首を振る。
「でも……勝手に鳴ったピアノに触れるなんて……」
「やるしかない」
香里が短く言った。
緊張に包まれる中、理沙はゆっくりとピアノに座る。
冷たい鍵盤に指を置き、一音目を押した。
――ポロン。
音が響いた瞬間、空気が微かに震えた。
二音目、三音目、そして最後のミを弾く。
――チャリンッ。
楽器庫の南京錠が、ひとりでに外れ、床へ落ちた。
「開いた……!」
瑞希が声を上げる。
だが、その直後。
ピアノの蓋がガタンと勝手に閉じ、音楽室全体に冷たい風が吹き抜けた。
「きゃあっ!」
里奈が悲鳴をあげ、全員が身を寄せ合う。
理沙が震える手で楽器庫を開き、中の“鍵”を取り出す。
それは古びた真鍮製の小さな鍵で、首元には「1」と刻まれていた。
「……やっぱり、これが“第一の鍵”」
理沙の声は震えていたが、その目は鋭く光っていた。
だが七人が安堵したのも束の間、校内放送が再び鳴り響いた。
――ジジジッ。
『……よくぞ、第一の鍵を手に入れた。
だが油断するな。
次は“鏡の間”にて待つ。
試練を越えられるのは、果たして何人か……』
「鏡の間……?」
穂乃果が顔をしかめる。
菜乃花は思わずつぶやいた。
「……それって、理科準備室の奥にある“鏡実験室”のこと……?」
七人は再び息を呑んだ。
夜の学校の闇は、ますます深くなっていく。