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「それじゃあ今日はこれくらいにしておこうか」
今日の授業が全て終わり、放課後となったことでクラスメイト達は部活に行ったり帰宅したりしている中、僕は担任教師である鈴木先生によって呼び出された。
一体どんな用件なのかと疑問を抱きつつ職員室へと赴くと、そこには鈴木先生だけではなく見知らぬ女子生徒の姿もあった。
「あの……それでご要件というのは?」
「ああ、実はな……君には彼女のサポートをしてもらいたいと思っていてね」
「彼女ですか?」
「ほら、自己紹介して」
鈴木先生の指示を受けた彼女は小さく会釈をしながら口を開く。
「初めまして。私は一年三組の天宮沙耶架よ」
「えっと……私は二組の小日向吹雪といいます」
「よろしくね吹雪さん! それじゃあ早速だけど――」
「ちょっと待った!」
挨拶を交わして早々に話を切り出そうとしてきた沙耶架に対して、慌ててストップをかける。
いくらなんでも性急過ぎるでしょう!? もう少し段階というものがあって然るべきだと思うのだが。
「何かしら?」
「いやあのですね……せめて自己紹介ぐらいさせてくれないかなぁ~なんて思ったりするんですけど……」
「ああそういうこと。別に構わないわよ」
意外にもあっさり承諾してくれたことに安堵しつつ、改めて正面から向き合ってみる。
背筋を伸ばし凛とした佇まいでこちらを見据えてくる少女はまさしく高貴な令嬢といった感じで、さすがは聖鳳学園の生徒だと言わざるを得ない。
「それでお話というのは?」
僕は目の前の少女に視線を合わせながら口を開いた。
ここは学校の屋上であり、普段なら立ち入り禁止となっている場所でもあるのだが……
何故か今日に限って鍵が開いていたため、こっそり侵入してみたらそこに先客がいたという訳だ。
しかもそれがこの学園でも有名な生徒会長さんだったというのには驚かされたけどね。
ちなみに彼女とこうして顔を合わせるのはこれが初めてではない。
以前生徒会室で会った時に挨拶を交わしたくらいの関係ではあるんだけど、まさか向こうから呼び出しを受けるとは思ってもいなかったよ。
「貴方の噂は既に聞いていますわ。なんでも入学してからたった二ヶ月で中間テストの成績一位を独占し続けたとか」
「いえ、たまたま運が良かっただけです」
「謙虚なのは美徳ですけど、時にはそれも必要かもしれませんね。でもそれでいて強気の姿勢を忘れないでください」
「うん、分かったよ」
昼休みの時間を使って相談に乗ってくれた七海先生の言葉を思い出しながら返事をする。
彼女は今年新任してきたばかりの若い教師ではあるが、その教え方は実に分かりやすくて分かりやすいと評判らしい。
確かに話していてとても楽しかったので納得できる部分が多い。
「……じゃあそろそろ行くかな」
そう言って椅子から立ち上がり教室を出ることにした。
廊下に出ると、ちょうど隣のクラスから出てきた彼女と目が合った。
彼女はこちらを見ると嬉しそうな表情を浮かべたが、同時に少しだけ顔を赤くして俯いてしまった。
やはり彼女にとって今の自分は話しかけにくい存在になっているようだ。
「それじゃあまた後でね」
それだけ告げると早歩きでその場を離れていく。
こうして逃げられるのも慣れてきた気がするが、それでも胸の奥にチクリとした痛みを覚える。
だけどこれも仕方のないことだ。
だって今まで避けていた自分が急に近寄ったところで迷惑にしかならないのだから。