あと100年前に廃校って……色々無理があるだろ!
実際この学校、合併になってから2年も経ってないはずだ。
今だって地域の会議や貸教室として使われていて、日中は賑わってるのを知ってるぞ。
アタシが嗜めたところできっとメガネは聞きゃしないから、できれば有夏チャンが何とかしてほしいところなんだが。
まぁ無理か。
アイスを食べ終わった有夏チャン、途端にこの状況に飽きたようで、ひたすらボンヤリしているし。
「YouTubeといったら心霊系が花形だろ。俺は稲川淳二大先生を尊敬しているけど、でもYouTubeの世界でウケるのはガチの心霊スポット行ってみました系なんだ」
急に分析が始まった。
何にせよ、幾ヶ瀬が迷走しているのは明らかだ。
そんな妙な知恵を回さなくても、大好きな稲川先生をお手本に巧みな話術で聞く人の心をつかめば良いじゃないかと思うんだが。
チャンネル名だって『ヘンタイメガネのエロエロ動画』で良いじゃねぇか。
って、アタシもセンスねぇや。
「この学校の七不思議を今から一気に撮って、1日ずつ配信しようと思う。そうすれば、数時間の労働で7日分録り溜められるから効率が良い。お得だ!」
いや、新人YouTuberが何をセコイ計算してるんだ。
効率とか、お得とか言ってる時点でダメだろう、その「怨念チャンネル」。
ツッコミ疲れたアタシは喉のイガイガを治そうとエヘンと咳をした。
咳払いの残響が夜の運動場に吸い込まれ、校舎に跳ね返る。
夜の学校……あらためて見るとやはり不気味だ。
「な、七不思議なんてあるんですか、この学校に。ヤダ、コワーイ」
アタシがおどけてみせたのは、恐怖を振り払うためだ。
今更ナンだが、後半部分は無視された。
「学校には七不思議があるものなんだ。な、有夏!」
有夏チャンはこの期に及んで平然としている。
姉ちゃんより怖いモノはないというのがヤツの自論だから、今更オバケなんて怖くないのかな。
無言で校舎を見上げる様は……うん、カッコイイ。
その顔面はカッコイイ……のだが?
「七不思議か……例えば学校には巨人が潜んでるけど、巨人は実は巨人じゃなくて。うん、そういう意味だな」
「うーん、有夏。何でも巨人で例えるのはやめようか……」
無念だ。有夏チャンはアホだった。
キメ顔が残念でならない。
「あっ、俺、明日早番なんだった。睡眠時間を確保したいから、とっとと潜入しちゃおう。ホラ、カメラ、ちゃんと付いてきてよ! この役立たず!」
「ハァ、ちゃんと撮ってますよ……」
ヘンタイメガネよ、お前は仕事を辞めてYouTuberになったんじゃなかったのかよ。
明日の出勤のことを考えてどうするんだ。
見上げた社畜だな。
何もかも本末転倒じゃねぇか、この企画。
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