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#女主人公
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「……主文。被告人、白鳥美月は無罪」
法廷に静寂が訪れ、直後、怒号に近いどよめきが沸き起こった。
今回の幼稚園毒殺事件において
美月は「実の母親に罪を擦り付けられた犠牲者」として、勝利を掴み取ったのだ。
「先生…私、助かったのね?本当に、無罪なのね……!」
美月が私の腕に縋り付き、子供のように泣きじゃくる。
その涙が私のスーツを汚すのを、私は冷めた目で見下ろしていた。
「ええ、おめでとう。これでもう、あなたは自由よ。──この『檻』の外ではね」
裁判所の正面玄関を出た瞬間、私たちは無数のフラッシュの洗礼を浴びた。
待ち構えていたのは、祝福の声ではない。
「人殺し!」
「母親を売って自分だけ助かるのか!」
「10年前の真犯人はお前なんだろう!」
罵声が四方八方から飛んでくる。
恵子の遺書の内容は、すでに世間に知れ渡っている。
今回の事件は無罪でも、10年前の事件で
「無実の女性を死刑台へ送った元凶」として、美月は日本中の憎悪の対象となっていた。
私は震える美月を優しく抱き寄せ、カメラに向かって
「被告人のプライバシーを守ってください!」と叫んでみせた。
もちろん、彼女を逃がすためではない。
彼女を抱きしめる私の指は、わざと彼女の襟元を崩し
その怯えた醜い顔が最も綺麗にワイドショーに映るよう調整していた。
◆◇◆◇
その夜
私は美月を、身を隠すための「セーフハウス」へと案内した。
そこは、10年前に私と母が住んでいた、あのボロアパートだった。
「……ここ、どこよ。なんでこんな汚いところに……」
「一番安全な場所よ。誰も、弁護士がこんな場所にあなたを隠しているとは思わないもの」
私は電気も点いていない暗い部屋で、一輪のカーネーションを花瓶に挿した。
「美月、知ってる? 明日、10年前の事件の再審が決定するわ。……私の母、渡邉加奈子のね。あなたの母親が残した『遺書』が、決定的な証拠になったの」
「……っ。じゃあ、お母様はどうなるの?意識が戻ったら、あんなの嘘だって言い出すわよ!」
私は暗闇の中で、美月を見つめて微笑んだ。
「大丈夫よ。恵子さんは、二度と目覚めない。……病院の点滴に、少しだけ細工をしておいたから」
美月の息が止まる。
「あんた…、本当にお母様を殺したの……?」
「殺したのは、あなたよ。あなたが法廷で彼女を告発し、絶望させた。私はただ、彼女の『望み』を叶えてあげただけ」
「な……っ」
「…さあ、次はあなたの番よ、美月」
私はカバンから、一通の封筒を取り出した。
中には、新しい戸籍と、片道航空券。
そして、一瓶の「薬」が入っている。
「如月凛」としての私の正体を、美月はもう知っている。
だが、それを誰に話したところで、今の彼女の言葉を信じる者はこの世に一人もいない。
彼女は今、世界で最も孤独な「悪女」になったのだ。
「ねえ、美月。これから一生、名前を変えて、顔を変えて、怯えながら生きていく? それとも……お母様のところへ行く?」
私は、10年前に彼女が私に突きつけた選択肢を、そのまま彼女に返した。
美月は震える手で薬の瓶を掴み、床に崩れ落ちた。
「死刑囚の娘」だった私は、今夜、その呪いを美月へと引き継がせる。