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八雲瑠月
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【見ない顔だな。ラノケンの新入りか?】
双子の女子生徒は声を揃え、同じタイミングで書也の顔を覗き込んだ。
「ライトノベル研究部の物部書也、一年です」
「新聞部の諜報院聞姫」
うさ耳の付いたヘッドフォンが聞姫。
「同じく妹の口姫だ」
鼠色の布マスクをしているのが口姫のようだ。
そして名刺をまるで刑事ドラマの警察手帳のように見せ、双子の聞姫と口姫は書也に渡した。
「はぁ」
名刺はかなり作り込んであり、SNS、ブログのURLやら電話番号、QRコード、顔写真までカラー印刷されている。名刺を見ると、二年の社会学科らしい。
「しかし、新しい新入部員とは……誤植はともかくとして、情報は聞いていないぞ」
聞姫がむすっとした表情で言う。
「きっとエロスの奴が、情報を渡さずに出し抜こうとしてやがりますよ」
口姫がマスクをずらし、にやけた顔で聞姫の耳元で言う。
「エロス、許さん! 口姫、ラノケン部室に家宅捜査だ!」
「ラジャー!」
聞姫と口姫がするりと、部室のドアを勝手に入って行く。
「ちょっと勝手に困ります!」
いくら新聞部で先輩とはいえ、常識がなさすぎる気がした。止めようとするが、聞姫と口姫は部室の中を自由奔放に動き回る。聞姫は小型のアクションカメラで部室を撮り、口姫は手帳型ケースのスマホを操作している。
「ちょっとエロス先輩よぉ。話が違うんじゃねぇですか?」
口姫が手帳ケースのスマホをエロスに向けながら、ヤクザのような喋り方をする。聞姫はそれを楽しそうにアクションカメラで撮影している。
「現国学院新聞に載せる小説でしたら、すぐに終わりますわ」
エロスは溜息をついて言う。
「そうじゃねえ! 新入部員の事を何で黙ってた?」
口姫が長机を叩く。
「言う必要あります?」
エロスが疲れたような表情で言う。
「エロス先輩よぉ。まさかお前……新入部員に小説を書かせずに上級生だけ手柄を横取りする気じゃねぇだろうな? 名誉ある現国学院新聞の小説が載るのは厳選な審査をして、たった一人だ。それを伝えてなかったなんて言わねぇよな?」
口姫がエロスの顔を覗き込むように睨み続ける。
「すいません……伝え忘れていただけですわ」
エロスが頭を下げる。
「今日の号外は……ラノケンのエロス先輩、後輩のパワハラ発覚!? 学校新聞の小説候補を一年だけ外すと……」
聞姫が独り言のように言い、アクションカメラを回しながら、手帳ケースのスマホを片手で操作する。
戸惑う書也と愛に理香が口を開く。
「気にしなくて良いよ書也君、愛君。新聞部の締切は思った以上にシビアなんだ。いくらSSの短さでも締切が一週間もない事がある。入部したばかりの人間にいきなり難題をふっかけるのはかぐや姫か、うちの新聞部ぐらいだろう」
「言ってくれるじゃねぇか論理屋! だけどなぁ。お前のド外道物語は一度も審査に通った事はない。お前の代わりに一年に任せた方が良いんじゃないかって、考えてる」
「それは酷い言われようだね……まあ、私の小説が学内向けではない事は認めるよ。どうも癖で道徳に反した事を書いてしまうようだ」
顔を近づける口姫に理香は参ったといった風に両手を上げるも、その顔は少し笑っているように見えた。
「一年の……語部だっけ? 今から書けるって言うんだったら、待っても良いんだけどなぁ」
口姫の言葉に書也は手を横に振る。
「無理ですよ。朝練の時間、もう三十分もないじゃないですか」
部室の壁掛け時計を見ると八時を回っていた。朝礼が始まるのは八時半だ。
「わ、わたしは新聞部の小説の事は覚えていて……書いてきました!」
愛はキューピッド人形のUSBメモリを好きな人にバレンタインチョコでも渡すかのように頬を染め、聞姫に差し出した。
「誤植か……確かに中等部の体験入部時には、お前の小説を見ていなかったな」
「駄目よ!? 愛のはまだ編集が終わってないの!」
友美が駆け寄り、愛のUSBメモリを取ろうとするが、先に聞姫が奪い取ってしまう。
「編集が終わってないだぁ? 他人の小説をお前が管理してるのか熱情さんよぉ?」
聞姫が怪しそうに何度も愛のUSBメモリを眺め回す。
「誤植、この小説を私に渡すって事は当然に完璧な作品として仕上がっているって事で良いよなぁ?」
「……は、はい」
自信なさげに言う愛に書也は両手で頭を押さえる。
「愛、お前!?」
「口姫! 念の為にデータチェックだ。論理屋のようなド外道物語か、エロス・セック●部長様のド変態小説か、それとも怪奇のようなやべぇ奴しか出てこない小説か、熱情の設定破綻小説か……どんな爆弾が眠ってるか分からねぇからな」
聞姫が愛のUSBメモリを口姫に投げ渡す。そして口姫は素早い動きで教子先生のデスクトップPCを立ち上げ、愛のUSBメモリを挿入した。
「エロス・セック●ではなく、エロス・セックですわ! それより勝手にやめなさい! それは教子先生のパソコンですのよ!」
「そう……さすがにプライバシーの侵害!」
エロスと幽美が駆け寄り、口姫を止めようとするが、聞姫がバスケットボール選手のディフェンスのように両手を広げ、二人に立ち塞がる。
「これは新聞部の小説掲載の為に拝借する。それに本人の同意を得ているなら、プライバシーの侵害もないだろがぁ!」
「そうそう。さすがにルーキーの小説は信用ならないからなぁ。この編集のプロである口姫様が修正箇所をレクチャーしてやろう」
いくら一般的に扱っているPCといえども、教師が扱うPCである。そのパスワードは突破できないはずなのだが、口姫は少し考えてから、入力して一発でログインしてしまった。
「どうしてログインできるんだ!?」
書也が声を上げる。
「まあ、教子先生の生年月日がパスワードという事はよくやる手だよ。これだな……学校新聞提出用小説と……」
口姫はワープロソフトを立ち上げ、愛のUSBメモリを読み込んだ。
「こ、これは!?」
PCのモニターに映り込んだ文字を見た口姫は思わず声を上げる。
「どうした口姫!?」
呆然とする口姫に必死にブロックしていた聞姫がPCの方に振り向いた。