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七月診療所の特別な入院室。ふっかふかな大きいベッドが二つあって、Wi−Fi完備で無料の大きな壁掛けテレビもある。南向きな壁の全面には1枚ガラスが嵌め込まれていて、様々な色の花たちが奥の中庭で美しさを競っていた。カーテンは空色で壁は淡い桜色。薄灰色な天井も部屋の明るさで白に見えてしまう。入院患者が安心して過ごせる快適な空間だった。
「はい。消毒完了。…経過も良好だね。…ん?。…どうしたの?リン。」
「…レオくん…ここに座って?。(…ちょっとくらい…甘えてみても…)」
「…ああ。ここでいい?。…ん?起きたいのか?。ちょっと待って。…んあ?。…はぁ…リンっていい匂いがするね。…ん?…お腹、痛くないか?」
「……うん。大丈夫。…レオくんもいい匂い。…それに、あったかい…」
そして昨日恋人になってくれた八門獅子くんは、今日も変わらずいい匂いがしてとても優しい。香りと言っても市販の高級コロンとかじゃなくて、レオくん特有のニオイだと思う。本人も何もつけてないって言ってるし。
シーツの下でネグリジェの裾を直したわたしは、やっぱり彼に甘えてしまう。多分これは、私の無意識な防衛本能だ。傷付けられた現実から逃げるように、わたしは初対面な八門レオ君を信じた。その思い切りと彼の言葉で私の心は随分と軽くなったのだ。とても優しい黒髪の美男は、東雲鈴の絶対的な味方だと信じている。私の為に怒り…涙ぐんでくれた人だから。
「…リン。(…そりゃ不安だよな。…俺でいいなら…支えてやりたい。…俺を産んだ母親も…きっとこんな辛い想いをしていたんだろう。でもリンは死んじゃいけない。…お前はこれから輝くんだ。だから、絶対に死ぬな?)」
「レオくん♡。(あはぁん♡ムラムラが止まんないよぉ♡。この心を鷲掴みにする肌の香りとぉ狂おしいほどの抱き心地♡。レオくん……好き♡)」
「……リン?。もう横にならないと傷が開いちゃうぞ?。…ん?どうしたの?リン。…え?…あらら。俺のこと…押し倒しにかかってるのかな?」
「うん♪。だって恋人だもぉん♡…イチャイチャするのは当然でしょ?。(今のわたしが身体を預けられるのは…レオくんとカスミ先生だけだわ。仰向けに寝ていると…あの眼に見られている様な気がするの。だから安心できるレオくんにくっついていたいのよ。ごめんなさい…わがままで…)」
レオくんが優しいのを良い事に、わたしはまたも無茶をしてしまう。あろうことか彼を、ベッドの中に引き込みにかかったのだ。右の脇腹の傷が少し突っ張るのだけれど、どうしてもレオくんに抱きしめられたいとゆう欲望に駆られてしまった。そんな私の邪を知ってか知らずか、彼は素直にベッドに乗ってくれる。私が無言で両腕を広げると…少し驚いて見せた。
「ははは。俺が心配してるよりもリンがタフで良かったよ。…いいの?。(誰かに触れていたいのか。赤ん坊が母親にくっつきたがるのと同じ心理状態なんだろう。…身体の傷は自然に癒えても…心の傷は根深いからな…)」
「んあん♡。レオくぅん♡。(あはぁん♡レオくんの抱きしめ方がぁすんごく優しいよお〜♡好きにしてぇ♡。もう…おっぱい圧しつけちゃお♡)」
身を寄せて抱きしめてくれたレオくん。彼の肩に顎を乗せたわたしは、軽く背を反らして乳房をわざと圧し当てた。乳首と乳房からゾクゾクと伝わる擽ったい様な甘い快感。そして密着していることで感じる彼の体温が、わたしを大きな安心感で包んでくれた。だけど、こんなに幸せなのに、私の彼への欲求は更に膨れ上がってしまう。いっそこのままセックスにっ!
「リン…あの。俺ちょっとヤバい。(うわっ!?リンのおっぱい!ホントにプルンプルンだった!。しかもめちゃくちゃ押し返してくるしっ!。カスミさんのも弾力凄いけど…リンのは更に凄いなぁ。…う!?股間が…)」
「あん。んん?どおしたの?レオくん。(ああん、離れちゃイヤぁ。でもヤバいって、もしかして起っきしたのかな?。とゆうことはぁ〜汚れたわたしでもレオくんとセックスできちゃうってことよね!?。うふふふ♡)」
しっかりとわたしの背中に回されていた温かい腕がスルリと離れてしまった。少しだけ焦り気味なレオくんは素早くベッドから降りると、ちょっと腰を引いたまま扉のない出入り口へと消えてゆく。あ〜ん。淋しいよぉ。あわよくばキスをして、あわよくば乳揉みされて、あわよくばひとつに…とか妄想していたのに。私はやっぱり真正のドスケベなのだと確信する。
結局、わたしの恋人になってくれたばかりの八門獅子くんは、やっぱり奥手なウブだった。あんな事をされたばかりなのに、わたしはどうしても男である彼に触れたくなってしまう。そして私を犯し、殺そうとした徳元裕二とゆう奴を…人間じゃないんだと思うようになった。『そう思うように』とレオくんが言ってくれたのだ。信じると決めた彼の言葉は絶対だから。
「はぁ。ただいまぁレオちゃあん。計画、取り付けましたよぉ。ふぅ…。あ、リンちゃんはどうしてますかぁ?ご飯はちゃんと食べましたかぁ?」
「お疲れカスミさん。リンなら眠ってるよ。昨日の今日だからね?気丈に振る舞っていてもダメージの回復はまだまだだ。心の傷も…身体もね…?」
「そうですかぁ。それでレオちゃんはぁ、あの糞虫をどおなさるつもりなのですぅ?。…生かす価値もない害虫ですからぁ〜肉片にでもしてお魚さんの餌にする方が世の為かと思いましたけどぉ。あ…そんなものを食べるお魚さんがかわいそうですねぇ?。やっぱりドロドロにしちゃいます?」
使いに出していた霞さんが帰ってきた。なんだかゲンナリしているので相当なストレスを感じていたらしい。俺がアイツに直接会うのは、公園の道で擦れ違っているので好ましくないのだ。イモ虫程度の記憶力では覚えてもいないだろうが、慎重に運ばなければ仕損じる。そして今回は回りくどい手段を取ることにした。類は友を呼ぶらしいので多少は期待している。
「…いいや…今回は、この国の国家権力と…司法に委ねてみるよ。」
「にゃっ!?日本の警察に?。…優しすぎませんかぁ?レオンさまぁ。相手は卑劣な強姦魔なのですよぉ?死を持って償わせるのが当然ですぅ。」
「いいや。今までの俺のやり方じゃ…被害にあった女の子達は安心して暮らせないことに気づいたんだ。…切り刻んだり磨り潰したり、細かい肉片にして…加害者が死んだ証拠を残してこなかったのがダメなんだよ。自分を傷つけた憎い男が…もうこの世にいない事実を被害者に伝える為には、 その真実が大々的に拡散されないと話にならない。でもSNSだとデマもあるし、死んだ信憑性が低くなる。…だから…国家権力を利用するのさ。」
「ふむふむ、なるほどぉ。でも特定されたりしませんかぁ?。今は昔と違ってぇ〜その辺を歩いている皆さんがぁ〜新聞記者みたいなものですしねぇ。それでも、レオンさまなら大丈夫ですねぇ♡。あ、今日のご褒美は無いのでしょうか?。かすみ、スゴく頑張ったのですよぉ?レオン様ぁ♡」
妖艶なお尻のラインが際立つタイトなミニスカートと、シンプルながらも胸元がはち切れそうな真っ白なシルクのブラウス。薄手のジャケットを壁フックに吊るした彼女が、少しだけ頬を膨らませながら近づいてくる。
「ご褒美は…徳元裕二を裁いてからな?。あ、こらこらカスミさん、何を俺の膝に乗ろうとしてるの?。…お?…あ。もう、仕方ないヤツだなぁ。」
「うふふふふぅ♡。そんなこと言ってぇ、かすみのおしりの感触も大好きなくせにぃ♪。…あ。レオンさま?。まさか…反り立ちなされてますぅ?」
「あ…ああ。さっきリンに抱きつかれてな。なぜだか過剰に反応してしまった。…カスミさんのおっぱいはすごく安心できるのに対し、リンのおっぱいだと俺の肉体は生殖的に反応してしまうらしい。…初めてのことだ…」
キッチンのカウンターの前で、木製の高椅子に腰掛ける俺の腿にプリンとした素敵な感触が乗り上げてきた。こんな戯れは茶飯事であっても俺はなかなかに慣れない。それでも霞さんとは随分と長いつきあいだ。実の姉のように何かと世話を焼いてくれるし、就寝時は同じベッドで眠りにつく。
「!?。もしかしたら『新生の暦』が近いのかも知れませんねぇ?。どおでしょうレオン様、かすみのマンマンでぇ新生の練習をなされてはぁ?」
「はぁ。それも良いかもしれんが…リンの前ではその名で呼ぶなよ?カスミ・デ・ナルスムーン。…それと……夜は一緒に寝るんだし、そろそろ降りてくれ。カスミさんのお尻に当たって変な感じなんだよ。…ほら降りて。」
「や。ですぅ♡。ほぉらぁ〜レオちゃあん?。かすみが腰をこうするとぉ気持ちいいでしょお?。うふふふっ♡。とっても硬くて凄いですぅ♡。んあっ♡。…あ♡。…レオちゃん…向き合ってもいいですかぁ?。我慢が…」
「お!おいおいカスミさん!擦れてるって!。うっ!あ!。こらこら!」
これは非常事態だ!。彼女はタイトなミニスカを摺り上げると、お尻の位置をずらしながら股間を重ねようとしてくる。朝の反り立ちは仕方ないとしても、今の俺の下半身は快楽を求めているのだ。この状態で刺激されれば!俺はカスミさんを確実に傷つけるだろう。そして我慢にも限界がっ!
「ウウウウウ。………シャーーーーーっ!!!。フゥウウウウウ…ウゥ…」
「ひっ!?。あらクロちゃん。……なんだかスゴ〜く怖いですよぉ?。はぁい、降りますよぉ…降りればいいのでしょお?。…もう、レオちゃんはクロちゃんまで味方につけてぇ。お姉ちゃんは…もの凄く悲しいですぅ。」
「シャーーーッ!!。ふぅうううううううぅ。……シャーッ!。…ウウ…」
「は!。はいはい。クロちゃん…そんなに怒らなくてもいいでしょお?」
俺達のすぐ足元で『ヤんのか!?』態勢の黒猫が『イカ耳』になって霞さんに牙を剥く!。普段はとっても仲良しな一人と一匹なのだが、俺にのっぴきならない危機が訪れると、こうして助けてくれるのだ。ありがたい。
「ありがとな?クロ姫。スッゴく助かったよ。お礼に焼き鳥五本だな?」
「うにゃあん♪。…ぐるぐるぐるぐる。…………しゃーーーっ!。ううう…」
素敵な感触が去ったあとに、ぷにっとした肉球が四つ。その熱が逃げ始めた俺の腿上にひらりと乗ってきた。懐っこい大きな眼で俺を見上げた直後にカスミさんを激しく威嚇する。この娘は滅多にイカ耳になんてならないのに、よっぽど目に余ったらしい。色んな意味で頼れる診療所の首領だ。
「ひっ!クロちゃんはいつだってレオちゃんのお膝に乗れるのですねぇ。同じ女としてぇ…この上なく悔しいですぅ。え〜ん、レオちゃあん。今夜は寝かせたげませんからねぇ?朝まで付き合わせちゃうんだからぁー!」
「どうせスマホゲームかテレビゲームだろう?。受胎してしまうような行為の他なら何でも付き合ってやるよ。…でも、久々に淫らな気分だなぁ。カスミさんが良いなら戯れる?。ホントに眠れなくなるかもだけどさ…」
「え!?。賜りましたぁ♡謹んで戯れさせて頂きますぅ♡。(やったあ♪九ヶ月ぶりのお戯れ〜♡。…また…蜜吹いちゃうかも♡。あ〜ん♡今から待ち切れないですぅ♪。…今夜は後ろから?でも前からも素敵だしぃ♡)」
何やら霞さんが、ソワソワしながらクネクネしている。戯れとは人界のセックスにも似た独特な触れあいだ。違いと言えば、性器を挿入しないことだけだろう。全裸で抱き合い、心ゆくまで愛撫しあう。互いに信頼できる者同士にしかできない疑似性交だとも言える。しかし戯れ中にパートナーから暗殺された者達もいるらしいので、あまり頻繁には行わない儀礼だ。
俺はそもそも純粋な人間ではない。融和的な魔族だった母と、日本人の男の間にできた魔人だ。母が人間で父が魔族とゆう例は案外と多くとも、その逆はとても稀だと言える。しかし俺は産んだ母の顔を知らない。俺が物心つく前に自ら命を断ったからだ。父も解らない俺は余所者とされ、同格の種族に受け入れられなかった。しかし実母の犠牲を持って生かされる。
しばらくして俺は単身、人界に送り返されて、国が営む孤児院で育った。外観は人間そのものなのが功を奏したのだが、母の血の影響は成長とともに現れ始める。そして数えで15になった頃…俺は孤児院を抜け出した。
夜の街に潜み、先天的な体臭で女たちを魅了した。金も食料もその女たちが与えてくれる。しかし俺は…春を売る彼女たちに多くは望まなかった。
そして知った、男尊女卑を尊び女性虐待さえ黙認している日本とゆう国の腐った日常。力の強い男は、肉体的に弱い女を暴力で抑え込むと、ありとあらゆる不条理で残酷な強要を下すのだ。刃向かえば容赦などしない。
とにかく欲するのは、カネ!カネ!カネ!ばかりだ。国の法に触れると知りながらも、無関係な他人を騙してでもカネを毟り!平穏に暮らす弱者の家に押し入ってはカネを奪う!。行き過ぎた資本主義の悪しき副産物だ。
そして何よりも頭にきたのは、己の腐った性欲を満たすためだけに見知らぬ女性を襲い!脅し!犯し!殺す!。そして時には売春婦として売り飛ばすのだ。魔族だってやらないその卑劣さは、俺にとっても無関係ではなかった。俺の父もその一人だからだ。女性への性暴力とゆう残虐な行為は、被害者を生きながらに殺すのと同等と言える。罰が極刑でも生温いのだ…