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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
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翌朝。カーテンの隙間からやわらかな朝の光が差し込んでいたのを受け、目を覚ました。ぼんやりしている。ここは…睦月の部屋だ。隣を見ると彼と目が合った。
「おはよう、佑里香さん」寝起きの声は、いつもより低くて甘い。
「おはよう、睦月…」
思わず『睦月君』と呼んでしまいそうになる。
「起きて、都合のいい夢かもしれないって思ったよ。添い寝じゃなく、佑里香さんが僕の隣で眠っているなんて…まだ最高の夢の中の気分だ」
目を細めて微笑んでくれる睦月の髪をそっと指先で撫でた。触れるたびに昨夜の記憶がよみがえり、胸がじんわりと熱くなる。
私たちは心も体もひとつになったんだ。
もう、姉と弟の関係じゃなく、ほんとうの意味での夫婦になったんだね。
私もまだ夢の中にいるみたいで信じられない気持ちだった。
彼と目が合ったので微笑み返すと、ゆっくりと私を抱き寄せてくれた。
ぎゅう、と。まるで、大事な宝物を確かめるみたいに。
「……夢じゃないよね?」
耳元で囁かれ、くすぐったくて笑ってしまう。ふふ、私と同じこと考えてる。
「夢じゃないよ。ちゃんと、ここにいるよ」
そう言うと睦月はさらに抱きしめる力を強めた。
素肌と素肌が触れ合う。温かくて、柔らかくて、心地いい。
「佑里香さん、僕……昨日、ちゃんと伝えられたかな。どれだけあなたのことが好きか」
「うん……すごく、伝わった」
答える私の声が自然とうわずる。
昨夜は繰り返し繰り返し、睦月は私に「好きだよ」「愛しているよ」と、呪文のように何度も囁いてくれた。触れるたび、キスするたび、彼の真っ直ぐな想いがまるごと私に注がれていた。
私も同じだけ彼を愛している。
そんな気持ちをもっと伝えたくて、自分から彼にキスをした。
朝の光を浴びながら交わすキスは、夜とは違う優しさに満ちている。
唇を離すと、名残惜しそうに見つめられた。
「佑里香さん、もう終わり?」
「もう1回しようか?」
「キスだけじゃ終われないけどいい?」
「えっ…」
言うが早いか睦月が私の上にのしかかってきた。昨日あれだけ私の中で暴れ倒した欲は、ものの見事に復活している。
「ま、待って、睦月っ。わ、私、今日仕事なの…もう1回するのは無理よ……」
「すぐ終わらせるから」
固いものを太ももに摺り寄せてくる。
「や…待って、ぁんっ…!」胸先の尖りを食まれると、甘い声がつい出てしまう。でも、これ以上やると仕事ができなくなりそうなので、必死に抵抗した。
「毎朝こんな風にじゃれ合うことができるなんて、最高だよ」
毎日!?
「そ、それはちょっと……体力がついていかないというか……」
体もたないよっ!!
「そっか残念。じゃ、今夜まで我慢するよ」
「今夜も難しいかな。体がガタガタだから、も、もう少し回復するまで待ってくれる?」
若いって素晴らしい……。私はもうだめ。
「じゃ、こうするのはいいよね」
しっかりと睦月君が私を抱きしめて見つめてくれた。「佑里香さん。ずっと一緒にいようね」
「うん」
この先、どんなことがあっても、きっと大丈夫。
彼はもういなくならない。それに、なにかあったとしても睦月となら何度でも乗り越えていける。そんな確信が自分の中にちゃんと生まれた。
彼がうやうやしく私の薬指にキスを落とした。
「次は結婚指輪だね」
「もう素敵な指輪もらったからいいよ」
「あれは勢いで買ったやつだから、ちゃんとしたのを買いたいの! 買いに行こうよ」
「ありがとう。でも、ひとつでいいよ」
ちぇっ、と口を尖らせて反論する姿はまるでお子様。かわいい一面もある。
「だったら記念日が増えるたび、なにかプレゼントするよ。僕の想いを重ねていくから」
「ありがとう。でも、私が睦月が傍にいてくれるだけで幸せだよ。もうどこにもいかないで。いなくなったりしないでね」
「うん、約束する」
彼は私の小指に指を絡ませ、指切りをしてくれた。「ずっと離さない」
優しく髪を撫でられながら私は彼の胸に顔をうずめた。
この胸の温もりが、これから先もずっと私の居場所なんだ。
甘い朝の匂いに包まれて、私たちは、もう一度静かにキスを重ねた。
始まったばかりのふたりの新しい未来に──心からありがとうを込めて。
※
それから身支度を整え、役所が開く時間を待って婚姻届けを出しに行った。もう『天川佑里香』だと思っていたけれどそれは間違いだったから、今日、これから正式に天川佑里香となった。こんなことってあるんだね。
折り紙に行ってお父さんにふたりで報告したら、大変喜ばれた。
「睦月君、娘をよろしくね! もらってくれてありがとう!!」
「おとうさん……僕はおとうさんと家族になれて、ほんとうに嬉しいです」
ひし、と男ふたりで抱き合っている。今度飲みに行こうと約束していた。
睦月君がどんな資産家になっても、やっぱり彼は彼だし、大事な家族の一員としてお父さんが接してくれるのは嬉しかった。
目の色を変えたりせず、ありのままの睦月を大事にしてくれる…。そんな父を誇らしく思った。
「今日はパーティーしなきゃなあ。折り紙(みせ)でパーティーしようか!」
お父さんが嬉しそうに言ってくれた。「そうだ。そうしよう。ご近所さんも呼んで、盛大に!」
「ちょ、ちょっと待ってお父さん。そんな大々的にしなくても……」
「なに言ってんだ佑里香。睦月君のご近所への顔合わせは大事だろう! こういう機会にやるのがいいんだ」
「そ、そういうものなの……?」
「当たり前じゃないか。なあ、睦月君! 今日の夜、予定は空いてる?」
「大丈夫です」
「もう、敬語なんかいいよ。正式に親子になったんだ。これからよろしく」
「おとうさん……」
睦月君が感激してお父さんを見つめている。いい父と息子の関係になりそうね。
「おとうさん、ありがとう。僕…おとうさんが大好きだから、家族にしてくれて嬉しい……」
「はぁぁ…なんといい子なんだ睦月君は!! 佑里香よりよっぽどかわいいな!」
勝手に2人で盛り上がっている。ふふ、楽しそう。
「あ、おとうさん。マルヨーの株はぜったいに売らないでね。いい?」
「わかった」
「今はマイナスで含み損でているけれど、心配ないから」
「睦月君の言うとおりにするよ。こっちは素人で株のことはぜんぜんわからないから頼むよ」
「うん。僕に任せて。それから、株やリスク資産に勝手に手をだすのはやめてね。僕がついているから、折り紙の経営のことも任せておいて!」
「頼もしいなあ」
「僕が成長できたのは、佑里香さんやおとうさんのおかげだもん。ずっと恩返しがしたくて頑張ってきたけれど、まさか家族にしてもらえるなんて思わなかった」
睦月は嬉しそうに笑ってくれた。「おとうさん、これからもよろしくね!!」
「ああ。今日からここが睦月君の家だ。遠慮せず帰ってきたらいい。佑里香とけんかしたら、一緒に飲もう。匿うから」
私が鬼嫁で睦月を家から追いだすみたいな言い方しないで欲しい。
「さあ、営業頑張ってパーティーするぞ!!」
お父さんが張り切ってマルヨーさんに食材の追加の電話をしている。私もいろいろ作ろう。
それから会社へ向かうという睦月を送り出し、お弁当作り、仕込み、ランチ営業をめいっぱい頑張ってピークを乗り切った。今日はパーティーにするからとすでに折り紙は貸し切りにする、と張り紙をしておいたので、夜の営業は無し。
ひといきついている所に、いつも流している経済番組から驚くようなニュースが流れた。
「先ほどの会見で、フジノ商事が株式会社マルヨーのTOB(※TOBとは株式公開買付けのことで、不特定かつ多数の者に対して買付価格や期間などの公告等を通じて、その保有する株券等を売ってくれるように勧誘し、取引所外でそれらの株券等を買い付けることをいいます。企業を買収する場合や合併・子会社化など企業再編の際、またはMBO(経営陣による買収)で非上場化する場合などに利用されることが多く、投資者保護の観点に立った所要の要件の下に株式を買付けすることになっています)を発表。これを受け、マルヨーの株価はストップ高になりました。フジノはマルヨーを傘下に取り入れ、日本食事業に力を入れていきたいとコメントを述べました」
「まっ……マルヨーの株がS高ぁぁっ!?」
お父さんがテレビに向かって叫んだ。
「ゆ……佑里香……」
「どうだったの?」
「マルヨーのTOB価格が……800円だって。株価が……4倍になった」
「4倍!?」
「どうしよう……」お父さんは青い顔をしている。
「どうもしなくていいよ。睦月君に任せるんでしょ」
「あ、うん。そうだな。なにもするなって言われたし、睦月君の言うとおりにしよう」
お父さんはほっとしたように笑顔を見せた。最初の失敗で凝りたのね。株はもう二度とやらないで欲しい。
「だったら今日はお父さんがぜ~~~~~んぶおごっちゃうぞぉぉぉぉっ!!」
一人娘の結婚パーティーなんだ、と意気込んでいる。
「儲けたからってそんな風に散財するのは禁止ッ!!」
浮かれる父に私が雷を落としたのは言うまでもない。
「すまーん。調子乗った」
「お父さんのお金の管理はこれから私がやります」
「え”え”――。いっぱい儲けたのに……」
「睦月がいてくれなかったら、とっくにうちは破産していたのよ! 持っていた株だって、マイナスのまま売って家も取り上げられていたわ。今儲けたからって散財するんじゃなくて、もっと危機感もってよお父さんっ。そんなことじゃ、また折り紙もお金なくなっちゃうよ!!」
「すんません……」
しょぼん、と父が肩を落として反省している。
「それよりパーティーの準備しましょう!」
「そうだな! それがいい!!」
立ち直りが早い人だ。
みんなの協力のもと、手作り感満載のホームパーティー会場が出来上がった。睦月君は18時に来てくれるって。TENGAの社員のみんなも来るのかな。大勢で食べられるように立食パーティーにしてある。飲み放題、食べ放題、出入りは自由だ。
先ほど、大脇さんが届けてくれたパーティードレス(睦月君の趣味)に着替えた。淡いライトブルーのドレスは、まるで朝靄の中で咲く一輪の花のように儚く、けれど確かな存在感を放っている。肩のラインを優しくなぞるオフショルダーに細やかなレースがあしらわれ、胸元には小さなスパンコールが光っている。素敵なドレスだった。たぶん値段は鬼高なんだろう。
ウェルカムドリンクとは聞こえがいいけれど、セルフサービスで勝手に飲んでもオーケースタイルだ。大勢の人が遊びに来てくれて、お祝いの言葉をかけてくれた。
「おっ、睦月君が来たんじゃないか」
折り紙の入り口に現れたのは、待ち焦がれていた私の旦那様――睦月だ。
フォーマルな装いでかっこいい。年下なのに溢れる色気が半端ない。
睦月は私を見るなり早足でここまでの距離を詰めた。
すっと私の前に膝まづくと、赤い花束を差し出してくれた。
うそ……これって……
それは――私がかつて幼少期の睦月からもらったものと同じ、折り紙で折った花束だった。
「僕の気持ちは、あの時から変わってない」
睦月は私を真剣な目で見つめて言った。
「佑里香さんが僕を見つけてくれたその日から、あなたのことが大好きです。今までも、これからも。だから――」
「先生、僕と結婚して」
その言葉に息をのんだ。小学生の睦月が、ここで私にプロポーズしてくれた時を思い出す。その時のことを再現してくれたのだ。昨日も伝えてくれたけれども、睦月の気持ちは、小学生のその時からずっと変わっていないと、証明するために。
時代を経て私たちは随分と大人になった。
あの時は冗談だと思っていたけれど違っていたのね。こんなに素敵な男性にずっと愛される未来が続くのだと思うと、うれしくて感動してしまった。
「はい、喜んで」
あの時、小学生の睦月に伝えそびれて言葉を紡いだ。
「私も睦月が大好きよ。だから、私と結婚して幸せになりましょう」
彼も笑顔で頷いた。私がよく知る、幼いころのあの笑顔で――
-完-
コメント
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みぅ🤍🥀です。 第100話、完結おめでとうございます…っ🥺✨ 朝の睦月くんの甘々な感じ、もう完全に旦那様ですね。「夢じゃないよね」って何度も確認するところ、佑里香さんと同じ気持ちなのが伝わってきて胸がぎゅっとなりました。そしてお父さんとの抱き合い、株のS高のくだりも笑えたし、最後の折り紙の花束での再プロポーズ…小学生のあの日から変わらない想いが、ちゃんと形になったのが本当に尊すぎました。 「先生、僕と結婚して」のセリフ、ずっと心に残ります。素敵な最終話をありがとうございました🌙🤍