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静かな子だね、ってよく言われた。でも私は、それが褒め言葉じゃないことを知ってる。
目立たず、争わず、輪を乱さず。
ただ笑って、「うん」ってうなずいていれば、
空気になれると思ってた。
でも、気づいてなかった。
空気は、壊される側だってこと。
⸻
最初は、小さな違和感だった。
グループLINEの通知が減った。
ちょっとした会話に、自分の名前だけ出てこない。
私のことを無視している、というより、
**「あえて触れないようにしてる」**感じ。
そして、ある日――
教室で、片倉結惟に話しかけられた。
「ねえ、茅野さん。
最近、あんまりみんなと話さないよね?」
「……うん。ちょっと、疲れてて」
「そっか。でも、“みんな”が話してるのに、
ひとりだけ疲れてるって、不自然じゃない?」
彼女の声は柔らかかった。
でも、目は笑ってなかった。
(あ、これ……誘導だ)
気づいたときにはもう遅かった。
⸻
数日後。
誰かの落とした“噂”が、私の背後にまとわりつくようになった。
「茅野さんって、空気読めないよね」
「ちょっとズレてるっていうか、無理してる感じ」
「あの子のせいで空気悪くなるんだよね」
SNSに、名前は出ない。
でも私のことだと、誰よりも私が知ってた。
直接は責められない。
でも、“責められてる空気”だけが、ずっと私を攻撃してきた。
⸻
放課後、何も言わずに帰ろうとしたら、
昇降口の前に、彼女が立っていた。
「ごめんね、茅野さん。
……多分、もうすぐ、全部終わるから」
その“優しい顔”が、
私を壊した。
⸻
次の日から、私は教室に行くのをやめた。
LINEもSNSも、すべてを閉じた。
誰にも何も言わず、ただ静かに、消えるように。
⸻
でも。
私は、見ていた。
遠くから。
画面越しから。
結惟が“次の誰か”を沈めるのを。
そして――
その横に、“ずっと静かに立っていた男”も。
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彼の名前は、西園寺 奏。
私が消えたあと、
誰よりも私の投稿を読んでいた人。
誰にも気づかれないように、
“何もしていないふり”をしたまま、
彼だけが――最初から、すべてを知っていた。