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明花永(あかな)
12
#普通
野々さくら
202
ドラゴン店長
30
しかし銚子は静かに首を横へ振る。
「でも信愛? それはあくまでも結果論よ?」
銚子の表情は、これまでよりもずっと真剣だった。
「霊が霊だったら、取り返しの
つかない事態を招いていたのよ?」
その言葉に、信愛は小さく肩をすくめる。
「うん、分かってる」
銚子は静かに頷くと、少しだけ表情を和らげた。
「今回のことで懲りたなら
不用意に霊へ近づかないこと
それが一番大事よ」
「分かった・・・」
だが銚子の話は、それで終わりではなかった。
「それと佳苗ちゃん」
呼ばれた佳苗が首を傾げる。
「自由に行き来できるからって
頻繁に来ちゃ駄目よ?」
「えー!?なんで!?」
無邪気な疑問に、銚子はゆっくりと言葉を選びながら説明を始めた。
「人間界と霊界を繋ぐ道を『鬼門』って言うの」
「キ、キモン?」
「そう。その鬼門が開くっていうことは
人間界にとって、とても危険なことなの」
佳苗は目を丸くした。
「開いたら、どうなっちゃうの?」
「悪い霊が人間界にたくさんやって来ちゃうの」
銚子は続ける。
「人間にも良い人と悪い人がいるように
霊にも良い霊と悪い霊がいる」
その言葉に、佳苗の表情が少しずつ曇っていく。
「そんな悪い霊が人間界
にたくさん来ちゃったら」
「た、大変なことになっちゃう(汗)」
「そう」
銚子は優しく微笑みながらも、その目には真剣な光が宿っていた。
「今は鬼門は開いてない。けどね?」
一呼吸置いて、佳苗をまっすぐ見つめる。
「佳苗ちゃんが頻繁に人間界と
霊界を行き来しちゃったら
その鬼門が開くかもしれない」
佳苗は何も言えず、黙り込んだ。
その小さな沈黙を見届けるように、銚子は静かに続ける。
「だからね、佳苗ちゃん
信愛に会いたい気持ちはすごく分かる
でも、あなたの存在は人間界に
危機をもたらすかもしれないの」
佳苗は唇を噛み締め俯くが、銚子はふっと微笑む。
「でも安心して。来ちゃ駄目
って言ってるわけじゃないの」
佳苗は顔を上げる。
「え?来ても良いの?」
「もちろんよ。でも、一日に
何度も行き来するのは禁止」
銚子は人差し指を立てながら念を押した。
「分かった?佳苗ちゃん」
佳苗は力強く頷く。
「うん!分かった!約束する!
信愛とみんなに迷惑かけたくないから」
その返事を聞いて、銚子はくすりと佳苗の頭を優しく撫でる。
「ふふふ、お利口さんね
きっとお母さんの教育が良かったのね」
重苦しかった空気が、ほんの少しだけ和らぐ。
それからしばらくして佳苗は死後の世界へと帰って行った。
「無事帰って行ったね、佳苗ちゃん」
「信愛の化けの皮を剥がそうって
始めた偽心霊スポット作戦が
まさかこんなことになるなんてね」
「ほんとそれ」
苦笑いを浮かべる二人は、信愛を真剣な眼差しで見つめて頭を下げる。
「本当にごめんね、信愛」
信愛は穏やかな笑顔を浮かべる。
「いいよ!怒ってなんてないから」
その時、廊下の向こうから多摩雄が姿を現した。
「話は終わったか?」
銚子は振り返り、どこか楽しそうに笑う。
「あら?アナタ、どこ行ってたの?」
茜も不思議そうに続ける。
「確かに。姿が見えませんでしたね?」
多摩雄は頭を掻きながら苦笑した。
「いやぁ、あはは」
少し気まずそうに笑うと、悪びれる様子もなく肩をすくめる。
「話が難し過ぎて付いていけないから
タバコ買いに行ってた」
その場の空気が一瞬止まる。
「あ、そういう事か」
さくらが納得したように呟くと、信愛は呆れたような視線を父へ向けた。
「てか、まだタバコ辞めてなかったの?」
銚子もすかさずため息をつく。
「ほんとね。いい加減やめたらどう?」
しかし当の本人は豪快に笑うばかりだった。
「わはは!それは無理だな」
銚子は肩を落としながら苦笑する。
「まぁ、でしょうね」
深刻だった空気はすっかり和らぎ、いつもの白縫家らしい穏やかな時間が戻ってきていた。
銚子は改めて皆を見回し、優しく微笑む。
「まぁ、とりあえずは一件落着って事で」
そして、にこやかに続けた。
「今日はみんな、うちでご飯食べていきなさい」
思いがけない誘いに、茜が目を丸くする。
「え!?いいんですか?」
「もちろんよ!」
即答する銚子に、さくらは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
温かな笑顔が広がる居間には、もう先ほどまでの緊張は残っていなかった。
こうして、信愛の正体を暴こうと始まった偽心霊スポット作戦は、思いも寄らぬ形で本物の霊との出会いを生み、一人の少女の魂を救う出来事へと変わった。
佐藤佳苗の除霊は、多くの人の想いを繋ぎ、新たな約束を残しながら、静かに幕を閉じた。
File1−偽心霊スポット作戦− ──END
コメント
1件
×××さん、第23話、File1完結お疲れさまでした! 「偽心霊スポット作戦」が、本物の霊・佳苗ちゃんとの出会いと救済に繋がる展開、とても良かったです。銚子さんの「鬼門」の説明がしっかり世界観に奥行きを与えていて、設定好きとしてはぐっと来ました。佳苗ちゃんが「迷惑かけたくない」と約束するシーンにじんわり。最後の多摩雄さんの「タバコ買いに行ってた」で空気が和む流れも、いい塩梅でした。次はどんな話が始まるのか、楽しみにしてますね!