「自分は天才だ」…幼少期の頃から、そう信じこんでいた。親から、「あなたはすごい。将来が楽しみ」と言われるたび、私は天に昇る思いだった。「自分はすごい。なんでもできる天才だ」そう信じてやめなかった……やめておけばよかった…と、今になって思う。
中学の卒業式も終わり、私はベットに横たわっていた。思えばこの三年間、ピアノ以外なにも趣味らしい趣味をしていなかった。そのピアノでさえ、もうやめたいと思い始めている。
ピアノは、幼少期の頃からやっていた。ピアノを弾けば、思考が整理される。弾いてる間は全てを忘れさせてくれる。ピアノは、自分だけの世界を一時的に作れるものだ。
私はピアノを少し覚えて弾くたび、親から「すごい」と褒めてもらえることに快感を覚えていた。中学に入るまでは、そう思えていた。だが、音楽部に入り、清水先輩のピアノの演奏を聞いて、そんな思想は完全に壊された。先輩が演奏したのは、「熊蜂の飛行」。レベルが違った。そりゃあそうだ。私は、適当に習い事もせず、ネットで調べたものをただダラダラとやっていただけ。先輩は、発表会にも出たことがある、超ベテラン。「レベルが違う」どころの騒ぎじゃないかもしれない。そもそも、落ち込んでいい次元に、私はいないのかもしれない。
そこから三年はあっという間だった。私も、部活を通じて、ある程度のレベルまでは成長した。だが、清水先輩のレベルまでは、どれだけ努力しても、届かなかった。自分の限界を知った。清水先輩は優しかった。私の努力を知って、限界まで付きっ切りで教えてくれたりもした。だが、その優しさでさえ、逆に苦しかった。
そして今日、高校へ向かう。ここにも音楽部はあるが、もう入るつもりはない。だって、もう「居場所」であった演奏は、今ではもう、ただの苦痛なのだから
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