高校初日の一限目が終わり、休み時間。中学の頃もクラスに馴染めなかった私は、適当に廊下を彷徨っていた。そこで、あるポスターを見かけた。
「音楽部。少人数の為入部者希望!」と書かれていた。もう入る気は無い…無いはずだ…なのに…私はなぜか、部室の音楽室に向かおうとしていた。
だが、その刹那。チャイムが鳴った。いいタイミングだ。私は何を思ったのか、音楽室に向かう気でいた。もう音楽はこりごりだ。中学の自分の痛さと、あの清水先輩のことを思い出してしまう。
次の時間は数学だった。数学は得意な方だったので、スラスラと授業を理解できた。そんな中、プリントが配られ、「机を班の形にし、プリントの中でわからない問題は、班の人に聞くこと」と先生が言った。俗に言う陰キャの私は、少しだけ絶望した。しかし、幸いにも、私の班は私含め二人だけだった。
机の班の形にし、プリントの問題を解き始めて数分後、前の子が声を発した「ごめん。この問7、教えてくれない?」。この子は誰だったか。確か、「前田京子」だった。制服の名札も見て、名前が当たっていると確信した。幸い問7は解き終わっているので、教えることができた。「うん。でも答えが当ってるかわかんないよ」。
数分後。しっかり教えることができた。「すごいね。名前なんていうの」。興味津々で聞く前田さんに答えた。「野村高田だよ」と、少し微笑みながら答えた。もちろん本心じゃない。こっちのほうが相手に良い印象を与えられる。
授業が終わり、席でゆっくり座っている…つもりだった。気がつけば、音楽室の前に立っていた。音楽室の場所は知らない。なのに気づけばいた。どういう理屈なのかはわからない。だが、自然と違和感はなかった。しばらく音楽室の前に立ち尽くしていたが、ある気配がした。その方向を見ると、ある年老いた先生がいた。ポスターに書かれていた名前のネームプレートを首にかけていたのですぐにわかった。音楽部の顧問の白銀冴先生だ。
冴先生は、私を見ながら言った。「入部希望者ですか?」
その顔は、びっくりするほど穏やかな微笑みだった







